SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 赤ちゃんの病気・トラブル
  4. 10万人に1人の難病にかかったわが子。「肝臓移植をしなければ10歳まで命がもたない」【難病アラジール症候群・体験談】

10万人に1人の難病にかかったわが子。「肝臓移植をしなければ10歳まで命がもたない」【難病アラジール症候群・体験談】

更新

心臓カテーテル検査の様子。約5時間と長時間の検査でした。

吉田幸司さん(44歳)は、妻の麻里さん(44歳)と子ども5人の7人で大阪府に暮らしています。三男の真翔(まなと)くんは2004年10月に誕生。少し小さめでしたが元気な赤ちゃんでした。しかし生後1カ月のとき異変があり、検査入院。数々の検査の結果、生後4カ月に「アラジール症候群」と診断されました。生後6カ月に退院したあとの真翔くんの様子や新たに浮上した問題など当時の闘病生活を聞きました。全3回のインタビューの2回目です。

生後6カ月で退院。強いかゆみから全身をかきむしり血だらけに

全身がかゆくて常にかきむしっていました。

真翔くんは生後4カ月のとき10万人に1人の発症とされる指定難病「アラジール症候群」と診断され、治療が開始されました。それと同時に幸司さんはホームページを開設します。

「『アラジール症候群』と診断されたものの、聞いたこともない病名で、医師から詳しい説明は乏しくて、本やネットを調べても、知りたい情報がほとんどない状況でした。ホームページは、息子の成長を残したい気持ちと、あまりに情報がないので同じ病気で悩んでいる人の少しでも役に立てれば、という気持ちから開設しました」(幸司さん)

治療を開始、といっても治療法が確定されていない難病。毎日の投薬と採血検査が繰り返されるだけだったと言います。

「当時は病院も手探り状態だったと思います。でも、当時は5歳の長男と1歳の二男もいて、これ以上入院生活の付き添いなどを続けていることが厳しくなってきていました。そこで週に2回通院できるなら、という条件で退院をさせてもらうことにしました。毎日何種類もの薬を1日3回飲ませ、定期的に電車で片道2時間半かけて通院する生活を決断したのです」(幸司さん)

大きな負担があっても、家族全員が一緒に過ごせることが本当にうれしかったそうです。とはいえ、家庭での治療は苦労の連続でした。

「退院後、とくに悩まされたのが全身のかゆみです。ミトンをつけてもすぐにはずして全身をかきむしり、血も止まりにくいのでシーツが血だらけということもたびたび起こりました。
夜中もかゆがるのですが、大泣きさせてしまうと心臓に負担がかってしまうので泣かせられない。子どもは泣きながら大きくなるといいますが、真翔の場合は、泣くことが命を縮めることにつながってしまいます。朝から晩まで1日中抱っこしてできるだけ泣かせないように過ごしていました」(幸司さん)

検査の数値が悪化。肝臓移植するのか、しないのか。究極の選択

肝臓移植の話が出たあとの8カ月ごろ。つかまり立ちができるようになっていました。

強いかゆみに苦しめられていたものの兄弟と仲よく遊び、笑顔もたくさん出ていた真翔くん。しかし通院して受けている検査の結果はよくありません。

「血液検査の総ビリルビン値(黄疸の数値)は6.9 mg/dL(平均数値は0.4~1.4)と高く、総コレステロール値も1647 mg/dL(成人平均数値は200~220)まで上がっていました。そのため息子が7カ月のころ、医師から『肝臓移植をしないと10歳まで持つかどうか・・・』とまで言われてしまいました。
とはいえ、私から見ると毎日元気に過ごしており、自力で改善する余地は残っていました。また、すぐ決断できるほど移植は簡単にできるものではありません。
移植をして完治するのなら何が何でもします。しかしアラジール症候群は肝臓だけの病気ではありません。医師からは『肝臓移植をしたからといってすべての症状が治るわけでない。移植をすれば黄疸(おうだん)、かゆみや栄養吸収障害は少しよくなると思われる。しかし、肺動脈狭窄(はいどうみゃくきょうさく)や血管が細くなる傾向、蝶形椎体(ちょうけいついたい)による成長障害、知能障害までは肝臓がよくなったからといって治るわけではない』と言われました。
拒絶反応も心配です。ドナーの問題や経済的な問題もあります。移植をしたほうがいいのか、それとも自力でよくなってくれるのを期待するのか、どちらが最善の道なのか・・・。日々不安は募って行きました」(幸司さん)

1歳を目前にして、肝臓だけでなく心臓の状態も悪化。そして・・・

1歳のお誕生日。このころ心臓の状態がよくありませんでした

退院から約半年がたち、真翔くんは1歳のお誕生日を迎えようとしていました。月1回の検査ではコレステロール値が1700とさらに上がり、ますます肝臓移植が現実味を帯びてきたといいます。しかし、この検査でもう一つ問題が浮上したのです。

「心臓のエコー検査を見ると、肺動脈狭窄も進行しているということでした。肺動脈狭窄とは心臓から肺に流れている血管が細くなっているということです。場合によっては、心臓に負担がかかる肝臓移植もできなくなる可能性が出てきてしまったのです。
その後、心臓の状況をさらに詳しく知るために心臓のカテーテル検査を行いました。カテーテル検査とは、太ももなどから心臓まで血管の中に管を通して心臓の造影などをする検査です。現在ではカテーテル(管)も細くなりリスクはだいぶ少なくはなっているようですが、真翔が治療していたときは今のように細くないため血管に管を通すとき出血の心配や、管を異物とみなし不整脈を起こしたり血管を傷つけてしまったり、検査後血栓ができるなどのリスクがあると聞いていたので、とても心配でした。
真翔の場合、止血作用が低下していることと、コレステロール値が異常に高く、血管内部にもコレステロールが付着しカテーテルが通らない可能性があるということで難しい検査となりました」(幸司さん)

検査後、医師から心臓の状況について簡単な説明がありました。

「思っていたよりかなり心臓の状況がよくない、という説明でした。肺動脈狭窄が重く、心臓から肺へと続く血管が細くなっているためうまく血を送り込めず、心臓に圧がかかり右心室肥大を起こしているということでした。また、肺へ送り込まれている血液の量も、普通の子の6分の1程度ということ。
そのため、今の真翔の心臓では、肝臓移植に耐えられないというのです。ある程度は覚悟していましたが、受け入れたくない現実でした・・・。肝臓移植をしなければ10歳までもたないと言われているのに、その移植には心臓が耐えられない・・・、じゃあどうすればいいのだろう?八方ふさがりです」(幸司さん)

さらに医師からの説明は続きます。

「『今の心臓の状態は、今後不整脈や心不全などを起こす可能性があり、心臓のほうも注意深く見ていかなければいけない』ということでした。 この日の血液検査の結果、コレステロール値は2200 mg/dLにもなっていました。薬は明らかに効いていません。
唯一の望み肝臓移植もできなくなり、医師から『後は日々様子を見ていくだけしかできません』『家族との時間を大切にしてあげてください』と、伝えられました。ものすごいショックでした・・・。頭が真っ白になり、どうやって家に帰ったのかということもあまり覚えていません」(幸司さん)

【近藤先生より】「アラジール症候群」の胆汁のうっ滞が重度の場合、肝移植が行われることも

肝臓移植の話が出たころ、8カ月の真翔くん。つかまり立ちができました。

生まれつき肝臓や心臓などさまざまな臓器に症状がある遺伝性疾患である「アラジール症候群」。原因は、まだ解明されておらず治療法もいまだ確立されていません。
アラジール症候群の胆汁うっ滞の程度は幅広く、軽症であれば自然に胆汁うっ滞が改善することもあります。一方、症状が重度で胆管が欠損していたり、また胆管はあるが非常に細かったりする場合、胆汁うっ滞や成長障害、肺合併症が顕著となり肝移植が行われます。そのほか、かゆみなどの症状が著しく、QOL(生活の質)が低下した場合にも肝移植が行われます。

お話・写真提供/吉田幸司さん  監修/近藤宏樹先生 取材・文/岩﨑緑、たまひよONLINE編集部 

心臓の検査のあとに受けた、まさかの宣告。しかし、少し日がたって一緒に説明を受けた麻里さんが「移植ができなくなって本当に残念だけど、でも何かホッとした・・・」と言ったそうです。そして、幸司さんも同じことを感じたと言います。移植をしても完治はしないこと、移植後の生活のこと、ドナーのこと、希望より不安のほうが多い状態でした。
「僕も妻にもまだ真翔が自力でよくなってくれる、ということを信じていたからこそ出た言葉だと思います」と吉田さんは言います。アラジール症候群との闘いはまだ続きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

日本アラジール症候群の会

Happy Family Life ~難病アラジール症候群との生活~

日本アラジール症候群の会(instagram)

近藤宏樹先生(こんどうひろき)

PROFILE:近畿大学奈良病院小児科准教授。大阪大学大学院医学部卒業後、大阪府立母子保健総合医療センター研究所・環境影響部門主任研究員、大阪大学大学院医学系研究科小児科学助教を務めたのち、近畿大学奈良病院に入局し、現職。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。