「余計な手出し・口出しをしない」「人と比べない」が自身の子育ての柱に。母ちゃんから受け継ぐ子育て【武田双雲インタビュー】
お母さん・双葉さんの子育てをつづった著書『母ちゃん』が話題の、書道家・現代アーティスト 武田双雲さん。双雲さんは27歳のとき同じ年の妻と結婚。2男1女(17歳、15歳、8歳)のパパでもあり、2019年には「第38回ベスト・ファーザーイエローリボン賞」を受賞しています。武田双雲さんに自身の子育てについて聞きました。
書道教室で「ママ・パパのこと好き?」と聞くと90%以上の子が「嫌い」と答える
お母さんの双葉さんはのびのびと明るく、双雲さんら男の子3人を育てました。3人の子をもつ武田双雲さん自身も、子育てに関して双葉さんからは多大な影響を受けていると言います。
――著書『母ちゃん』では、双雲さんと双葉さんの仲のよさがうかがえます。
双雲さん(以下敬称略) 僕は、母ちゃんとすごく仲がいいです。僕は2020年3月まで書道教室を開いていたのですが、小学生や中学生の子どもたちに「ママ・パパのこと好き?」と聞くと90%以上の子は「嫌だ、嫌い」と言います。恥ずかしくて「嫌だ、嫌い」と言っている子もいるかもしれませんが、本当に嫌だと思っている子も多いと思います。
でもママ・パパたちは、子どもに嫌われたくて子育てをしているわけではないですよね。みんな一生懸命、子育てをしているのにもったいないと思いました。それと同時に、仲のいい親子関係を築くことって難しいんだなとも感じました。
――親子関係の築き方で、双葉さんの子育てが参考になっていることはありますか。
双雲 母ちゃんは、子どもたちに余計な口出し・手出しもしなかったです。うちには小学3年生の息子がいて、今、親子でテニスをよくしています。僕もテニスが好きで、先日、つい息子にアドバイスをしたら、子どもがやる気をなくしてしまって・・・。「しまった!」と反省して、手出し・口出しはしないようにしました。息子とのテニスを心から楽しんでいたら、息子のほうから「パパとラリーしていると楽しい!」と言ってくれて、息子からアドバイスを求めて来るようになりました。
ママ・パパの余計な手出し・口出しは、子どものモチベーションを下げます。母ちゃんはそれを知っていて、子どもに手出し・口出しをしなかったのだと思います。
親がかかわり方を変えるだけで、子どもは180度変わるということを実感しました。
――良好な親子関係を築くために、ほかに何かしていることはありますか。
双雲 わが家は、家族でよく話し合います。話し合うときは、親子、きょうだいでも相手の意見を頭から否定しません。よく相手の話を聞くことが暗黙のルールです。
たとえば子どもたちが、友だち関係に悩んで話し合うこともあります。そういうときは子どもたち同士で「なんで?」と理由を聞いたり、「お兄ちゃんならどうする?」「パパならどうする?」と解決策を聞いてきたりします。僕は会話を通して、相手の気持ちを引き出したり、お互いを高め合うことって大事だと思うんです。これは家族も同じことです。
子どもが小さいうちから、家族でこうした会話をすることで、家族の絆(きずな)は深まるし、コミュニケーション能力が養われると思います。
親が心から楽しんでいると、子どもはきっと変わる
著書『母ちゃん』の中には、武田双雲さんと双葉さんの対談で「人は変わらんとよ。でも、こっちがなんか楽しそうにしとると、相手も楽しくなるとはわかる。伝播するとやろうね」という下りがあります。双雲さんは、双葉さんのこうした考え方を、子育てにも取り入れているそうです。
――「人は変わらない。でも自分は楽しそうにする」って意外と難しそうです。
双雲 難しいけれど、楽しそうにしていると相手は変わります。とくに子どもは親が楽しそうにしていると変わります。
息子が小さいころ、歯磨きを嫌がって妻が手を焼いていたことがあります。そのため僕が真っ暗な洗面所で、ニコニコ笑いながら歯磨きをして息子の気を引いてみたんです。そしたら息子は「パパ、何しているの?」と興味を示して、「僕も磨く!」と言い出して、スムーズに歯が磨けました。
また歯ブラシを魔法の剣と見立てて、「よし! 今から一緒に魔法の剣を買いに行こう」と言って、息子が好きな歯ブラシを買ってあげたところ、嫌がらずに歯磨きをするようになりました。
ただ、この暗闇歯磨き作戦は、うちの子には通用したけれど、ほかの子に通用するとは限りません(笑)。でも「歯磨きしなさい!」と怒ったり、「むし歯になるよ!」とおどしたりするより、親が楽しそうにして誘うほうが効果的だと思います。
書道でも、スポーツでもうまくいかないときはチェンジが必要です。書道ならば筆を変えてみたり、持ち方を見直したりします。育児だってうまくいかなければ、やり方を変えるという柔軟性が必要です。
――確かに、育児の乗りきりワザって、すべての子どもに通用するものではないように思います。
双雲 育児って、だから面白いと思うんです。答えがないクリエイティブな世界です。王道はあるけれど、正解は一つではありません。一つの解決策が、すべての子どもに通用するわけではないし、上の子には通用するけれど、下の子には通用しないこともあります。
だから子育てに正解を求めるときついんです。「自分の子育ては正しいか?」と答え合わせを始めると、減点が目について親は苦しくなります。
バイタリティーあふれる母ちゃんでも、子育て中、心身ともに限界を感じて実家に帰ったことが
双雲さんは、子育てはハードゲーム。体力的なことや時間の制約はもちろんですが、SNSの普及により心理的に追い込まれるママが増えているのではないかと言います。
――著書『母ちゃん』の中には、壊れる前に休むことも大切という下りがありました。双葉さんがふさぎ込んでしまい、3人の息子を連れて1年ほど実家に帰ったことがあると書かれていて、あんなにバイタリティーあふれる双葉さんなのに・・・と意外でした。
双雲 僕は、子育てってハードゲームだと思っています。みなさんキャパオーバーしながらも仕事、子育て、家事の両立を頑張っています。かなり難しいバランスゲームのようにも感じます。そもそも「無理ゲー」なんです。そう認識することも大切だと思います。
もし「無理だな」「もう限界」と感じたら、できるだけいろいろな人に頼ってください。母ちゃんも1年実家に帰って、心身ともにリセットして元気を取り戻せました。世間体なんて気にしないでください。とくにママ(パパ)1人での子育てはもっと無理ゲーです。いろんな人に助けを借りて、チームで子育てをする時代だと思います。
またママを苦しめる原因の一つに、まわりの人と比べるということもがあると思います。とくに今のママは、近所のママ友だちと比べるだけでなく、SNSにアップされているママと比べたりもします。子どものことだけではなく、経済的な差なども比べ始めて、どんどん追い込まれているママが増えているように感じます。
――以前、長男がアメリカに留学したという報道を見ました。現在は、日本で過ごしているのでしょうか。
双雲 長男はコロナ禍の中学3年から不登校になり、高校1年のときにアメリカに留学しました。
今は高校3年生になる年齢ですが、日本で過ごしています。「高卒認定試験」(高等学校卒業程度認定試験)と英検1級(実用英語技能検定)に受かっているので、これからどのような道を歩んでいくのか、見守っているところです。大学に行ってもいいし、起業してもいいし・・・。今の子どもたちは、答えがない時代を生き抜かなくてはいけません。人と比べても何も始まりません。
「子どもに余計な手出し・口出しをしない」「人と比べない」という母ちゃんの子育てが、僕の子育ての柱になっています。
お話/武田双雲さん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
子育ては、親から子へ受け継がれるとも言われます。双葉さんのポジティブな子育ては、双雲さんに受け継がれ、3人の子どもたちにも受け継がれていきます。
双雲さんは「もし、これまでの子育てのやり方を変えたいと思うならば、そのときがチャンス! 子どもが幼いときほど、やり直しはしやすい」と言います。
●記事の内容は2023年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。
武田双雲さん(たけだそううん)
PROFILE
1975年、熊本県生まれ。3歳より書道家のお母さんから、書を習い始める。独自の創作活動で注目を集め、NHK大河ドラマ「天地人」、世界遺産「平泉」、スーパーコンピューター「京」など数多くの題字、ロゴを手掛ける。著書は『ネガティブの教科書』(きずな出版)など多数。
『母ちゃん』
人と比べてこうあるべきという押しつけをしない、武田双雲さんのお母さん・双葉さん流の子育てをつづったポジティブ育児本。 武田双雲著/1650円(鴨ブックス)