特別養子縁組制度で、2人の子のママに。上の子からは「ママから生まれたかった」と言われたことも【瀬奈じゅんインタビュー】
2023年4月28日、自身のインスタグラムで「特別養子縁組制度で、第2子となる女児を授かりました」と報告した、俳優の瀬奈じゅんさん。瀬奈さんは、6歳になる長男と、もうすぐ1歳になる長女の母になり、4人家族になりました。どちらも特別養子縁組制度で家族に迎えています。
第2子を迎えたときや、生い立ちを子どもに伝える真実告知のことなどについて聞きました。
上の子は、下の子にメロメロ。優しいお兄ちゃんの姿に癒やされる
瀬奈じゅんさんが第2子を迎えたのは、2022年の夏です。生後5日の赤ちゃんを、夫婦で迎えに行きました。
――第2子を授かったときのことについて教えてください。
瀬奈さん(以下敬称略) 上の子と同じ特別養子縁組のあっせん団体に相談しました。第2子でも、第1子のときと同じように審査や夫婦面談を受けたり、研修会に参加しておふろの入れ方などを教わりました。2回目だからといって省略されるような手続きはなく、1人目のときと同じように新鮮な気持ちで臨みました。
そうした手続きを経て、生後5日の女の子を家族に迎えることになりました。上の子は、授かるまで性別はわからなかったのですが、下の子は女の子とわかっていました。
抱っこしたときは、久しぶりの赤ちゃんなので「えっ? 赤ちゃんってこんなに小さかった?」って驚きました。また上の子は男の子だったからか、赤ちゃんでも体がしっかりしていたのに、下の子は女の子だからかやわらかいんです。「個人差かもしれないけれど、男の子と女の子でこんなに違うんだ・・・」と思いました。
――赤ちゃんを迎え入れたときの上の子の様子を教えてください。
瀬奈 赤ちゃんを迎えるために、夫とベビーベッドを組み立てていたら、息子が率先してお手伝いしてくれるんです。「頼もしいな~」と思っていたら、息子が「あっ、ありがとね!」って言うんです。息子からすると「自分が育てるから! ママ、パパはお手伝い役ね」という感じなのだと思って、思わず笑いそうになりました。
娘が家に来てからも、息子の溺愛ぶりが半端なくて、ミルクを飲ませてくれたり、お世話をよくしてくれています。
息子は、音に敏感なタイプで自分がテレビで幼児番組などを見ているときに、私が夫と話したり、お皿を洗ったりしていると「うるさい!」と言ってきたりするのですが、下の子がどんなに大きな声で泣いても「うるさい!」って言わないんです。絶対に・・・。
泣いていたら駆け寄って行って「ママ、なんで泣いているんだろう? 暑いのかな? 抱っこしてみたら?」って心配してくれます。
「もしかしたら息子が赤ちゃん返りするかな?」って心配もしたのですが、そうした様子はまったくないです。妹をかわいがる息子を見ていると癒やされます。
子どもの心を守るためにも、幼いうちから真実告知を
子どもや周囲の人に、その子の生い立ちを伝えることを「真実告知」と言います。いつ、どのようにということは家庭ごとに考え方が異なるそう。瀬奈さん夫婦は、小さいうちから伝えようと決め、生後6カ月ごろから子どもたちには、生みの親のことを伝えていると言います。
――瀬奈さんは、子どもたちにどのように真実告知を行っているのでしょうか。
瀬奈 言葉でのやりとりはできなくても、上の子も下の子も生後6カ月ぐらいから伝えています。おふろに入ったときに「ママのおなかは壊れちゃったの。だからもう1人のママがあなたを産んでくれたのよ」というように伝えています。
今では、息子はもう1人のママがいることを理解していて、たまに「〇〇ママ(生みの親の名前)は・・・」と生みの母のことを話題にします。たとえば海を見たときに、「この海は〇〇ママのところにもつながっているのかな?」と話したりするような感じです。改まって話すというよりも、普段の会話の中であなたのママは2人いる、ということを伝えていきたいと考えています。
特別養子縁組制度は、法的な親子関係を結ぶため、戸籍の表記も実の親子とほとんど変わりません。そのため「あえて真実告知はしなくてもいいのでは?」と言う人もいますが、戸籍を見ればわかることです。
子どもの心を守るためにも、私は真実告知はするべきと考えています。下の子についても同じように対応しています。
――生みの親のことを知って、子どもの様子はどうですか。
瀬奈 3歳ぐらいまでは「伝えても、まだわからないかも・・・」と思っていました。でも息子が3歳ぐらいのときに夫と2人でドライブに行ったとき、車の中でぽつりと「僕、ママから生まれたかったな~」って言ったそうなんです。
夫からその話を聞いたときは、思わず息子を抱きしめました。そして「ママから生まれてみようか?」と言って、私の洋服の中に息子を入れて、「あっ! かわいい男の子が生まれた~」って、誕生ごっこをしました。
息子も笑顔で喜んでいました。
――周囲の人にも特別養子縁組のことは伝えているのでしょうか。
瀬奈 息子が通う園の1回目の保護者会の席で「うちの子は、特別養子縁組で家族に迎えた子です」と伝えました。
園のママ・パパは20~30代が多いのですが、若い世代のママ・パパは、新しい家族のカタチの一つとして自然に受け入れてくれているように感じます。特別視されることはありません。
また第1子を授かったときは、SNSのコメントも「えらいね」「すごいね」といったニュアンスが多かったのですが、第2子を授かったときは「おめでとう!」というコメントが増えました。特別養子縁組の認識が変わってきたと思いました。
日本では、生みの親のもとで育つことができない子どもは4万5000人とも
特別養子縁組制度は、縁組の成立は家庭裁判所が決定します。決定までには時間がかかります。
――瀬奈さんは、2人の子を特別養子縁組で授かりましたが、もし家庭裁判所から決定がおりなかった場合は、今の状況はなかったということでしょうか。
瀬奈 縁組の成立にはいくつかの要件があるのですが、その一つに生みの親の同意があります。時間の経過とともに「やっぱり、私が育てます」と言う生みの親もいると思います。
そうなると生後数日で家族に迎え、半年ほど一緒に暮らしていて、どんなにその子を愛していても、あきらめなくてはいけません。つらいけれど、「それはそれでいいこと」と私は思っています。
――瀬奈さんは、つらく長い不妊治療を経て、特別養子縁組で子どもを授かる決断をしました。特別養子縁組で子ども授かるまでは、かなり悩まれたようですが、同じように悩みを抱えているママ・パパにメッセージをお願いします。
瀬奈 特別養子縁組で子どもを授かる決断をするまで、「そこまでして、子どもがほしいなんて私のエゴではないか?」と自問自答を繰り返していました。
しかし日本では生みの親のもとで育つことができない子どもは、4万5000人もいるといわれています。私はこの数字を聞いたとき衝撃を受けて、1人でもいいから救いたいという思いが、フツフツとわいてきて一歩前に踏み出せました。
特別養子縁組制度というと、ハードルが高いと感じて、最初からあきらめてしまう人もいるようですが、決してそんなことはありません。
また血のつながりを気にする人もいるでしょうが、夫婦だってもとは他人。そんなふうに私は考えています。
お話/瀬奈じゅんさん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
第2子を迎えて、瀬奈さんの家庭は毎日がにぎやかです。瀬奈さんは「子どもたちに出会えていなければ、私自身どうなっていたかわからないし、子どもたちもどうなっていたかわかない」と言います。
司法統計年報によると2020年の特別養子縁組の成立件数は693件です。2022年3月に厚生労働省が発表した資料「社会的養育の推進に向けて」によると、おおむね5年以内に年間1000人以上の特別養子縁組成立を目指し、その後も増加を図るとしています。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。
瀬奈じゅんさん(せな じゅん)
PROFILE
1992年宝塚歌劇団入団。2005年『JAZZYな妖精たち/REVUE OF DREAMS』で月組トップスターとなり、絶大な人気を集める。2009年12月、『ラスト プレイ/Heat on Beat!』で宝塚歌劇団を退団。2018年には『今日から俺は!!』(日本テレビ)で主人公の母親役を演じて話題に。ミュージカル、舞台、ドラマなど幅広く活躍する。HP「&family・・」で、特別養子縁組の情報を発信する。
『ちいさな大きなたからもの~特別養子縁組からはじまる家族のカタチ~』
つらい不妊治療を乗り越えて、特別養子縁組で生後5日の上の子を授かった瀬奈じゅんさんと千田真司さんご夫婦の、葛藤と喜びの日々をつづったノンフィクション・エッセイ。瀬奈じゅん、千田真司著/1540円(方丈社)