産後2カ月で仕事に復帰。子育ても仕事もパワフルに楽しむシングルマザー【コラムニスト・佐藤友美】

「子どもがいてよかったのは、自分を疑えるようになったこと」と話すのは、コラムニストの佐藤友美(さとゆみ)さん。現在、シングルマザーとして11歳の男の子を育てるさとゆみさんに、子育てをしていて感じた自分の変化や、子育ての大変さや幸せなどについて話を聞きました。
仕事があったから、子育ても楽しんでこられた
――さとゆみさんのエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』では、自身が仕事が大好きでありながら、子育ても楽しんでいる様子がわかります。どちらも楽しんで両立できた理由はどんなことだと思いますか?
さとゆみさん(以下敬称略) 産後2週間くらいしたときに「このまま赤ちゃんと24時間一緒にいるだけだとやばい!」と思ったんです。言葉の通じない赤ちゃんのお世話だけの生活になるのは、私には向いてないと気づきました。それですぐミーティングなどの仕事から再開してみたら、精神的にすごく楽になって子どもに対してイライラしてしまうこともなくなりました。
それから少しずつ仕事を始めて、産後2カ月で仕事に本格復帰したあと、週4〜5日はベビーシッターさんにお願いしました。子どもが1歳になってからは朝8時ごろから20時ごろまで預かってくれる保育園でお世話になりました。
私が出産した10年少し前は「小さな赤ちゃんを預けて仕事するなんて」というような価値観もまだあったように思うけれど、私は罪悪感はゼロでした。私の場合は、仕事にとって子育てが、子育てにとって仕事が息抜きになっていたから、どちらも楽しくやってこられたんじゃないかなと思っています。
子どもと一緒にサーカスを見に行ったのに・・・
――これまでの子育てで大変だと感じたことはどんなことですか?
さとゆみ 子どもが小学校1年生のときに言葉づかいがすごく乱暴になって反抗的な時期がありました。急に何を考えているのかよくわからなくなっちゃって。その時期はちょっと大変だ、と思って仕事を少しセーブして子どもとの時間を取って、いっぱい話すようにしました。ちょうど引っ越しと入学が重なって、それまでの保育園のお友だちがいない小学校に通うことになったから、そういうストレスがあったのかもしれません。
――エッセイで描かれるさとゆみさんの子育てでは、自分とは別の人間として子どもの意思を尊重しているところが印象的です。
さとゆみ 子どもの意見を尊重するというと聞こえはいいけど、彼は私の都合で何か言っても聞いてくれないんですよ(笑)。「〇〇に一緒に行こうよ」なんて言ってもまるで聞かなくて「僕は行きたくないと思う」などと言われます。こちらの都合で何かしてほしいことがあるときは「こうしてくれるととても助かるんだけど、やってくれないかな」と頼めば可能性がある感じです(笑)。でも私は彼がそんなふうにはっきり自分の意見を言えるところは、すごく好きです。
私自身も、子どもから「これやってほしい」と言われても「それは今日は忙しいし、眠いのでやりたくありません」って断ることもありますから、お互いさまですね。
先日、「ママは、あなたとサーカスを見るという経験をどうしてもしてみたい」とプレゼンして、一緒にサーカスを見にいきました。前半の公演途中で彼はトイレに行って、そのまま帰ってこなかったんです。迷子かなと心配していたら、休憩の直前に戻ってきて「ロビーにあるモニターのほうが演じてる人の顔がよく見えるから、後半はあっちで見たい」って言うんですよ。「えっ、このチケット1万円・・・」と思ったけど(笑)、たしかに表情を見るなら大画面のほうがいいかもしれないな、と。結局彼は、最後の空中ブランコの直前まで席に戻ってこないで、トイレの前のモニターで見ていたようでした。空中ブランコだけはリアルに席で見たほうがおもしろいと思ったんでしょうかね(笑)。彼のそういった発想や行動に触れるたび、「おもしろいなあ。私では思いつかないなあ」と感じます。
――さとゆみさんが子どもを産み育ててよかったと思うことはどんなことでしょうか?
佐藤 いちばんは、自分を疑うようになったことです。私はもともと自分ではあんまり間違ったことを言っていないと思っていたんですけど、子どもが4年生くらいになっていろいろと話ができるようになって「ママ、それはおかしいよ」「ママ、それは自分の都合でしょ?」って、指摘してくれるようになったんです。それで、自分の考えのあやしさに気づきました。自分はこれまで間違ってないと思ってたけど、もしかしたら実はいろいろやらかしてるかもって。
子育てを経験して、仕事でも素直にごめんと謝って間違いを認めたり、だれかを頼ったりできるようになったとも思います。子どもがいてくれるからこそ、自分を疑いながら、誠実に一生懸命仕事をしようと思えるようになりました。
小さな幸せは注目されにくい
――さとゆみさんは現在シングルマザーとして子育てをしていますが、子育てのヘルプが必要なときはどうしていますか?
佐藤 地域とのつながりや子どもの学校のママ友たちにすごく助けられています。仲がいいママ友はシングルの人も多くて、お互いに「何かあったら駆けつけるね」って気持ちは持っていると思います。私も、年下のシングルの友人が急に倒れてしまったときに赤ちゃんのお世話をしに行ったことがありますし、地域や仕事仲間でも、何かあったときに助け合えるホットラインのようなつながりがあると安心ですよね。
――最近は「子育て罰」という言葉も注目され、子どもを持つことを迷う人もいるようです。このことについてはどう思いますか?
さとゆみ 「罰」と見えてしまうのは悲しいなと思います。どうしてもよくないニュースのほうが目立ってしまうのかもしれません。保育園の悲しいニュースも目にしますが、私の周囲の働くママたちからは「保育園の先生に足を向けて寝られないくらい感謝してる」「保育園の先生と毎日お手紙のやり取りをするのがうれしい」という声のほうが圧倒的に多く聞こえます。私も保育園に子どもを預けていましたが、親以外にも子どもの成長を気にして、一緒に育ててくれる人が世の中にこんなにいっぱいいる、と知ってとても心強かったです。
子育てはたしかに大変なこともあるけど、子どもを持って初めて見えることはたくさんあると思います。留学することに似ているかも。いろんな経験をして自分自身も成長するし、子どもがいるから価値観が広がることもあります。ママ友たちと集まると、みんなけっこう小さな幸せを語り合いますよ。ささいな幸せはあんまり注目されないけど、子育てって楽しいことも多いし、私も毎日小さな幸せを感じています。
お話/佐藤友美さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
子どもがいたからこそ、仕事をする上で気づいたこともたくさんある、というさとゆみさん。さとゆみさんのように「子どもを育てる」というより「子どもとともに生きる」ことが、楽しく過ごすひけつなのかもしれません。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年6月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
佐藤友美さん(さとうゆみ)
PROFILE
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、さまざまな媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。小学6年生の息子と暮らすシングルマザー。
『ママはキミと一緒にオトナになる』
Webメディア「kufura」で2020年から3年間にわたって連載した子育てエッセイの書籍化。コロナ禍での学校生活、離婚、働く母の葛藤、口げんかと家出…母と息子の「会話」を通して、日常にある「話すほどでもない」幸せに気づかせてくれる一冊。佐藤友美著/1650円(小学館)