「ブリッジ泣き」「ねむた泣き」「ぜつぼう泣き」赤ちゃんイラストが全部わかりすぎる!とSNSで大バズり。イラストレーター・おおのたろうさんに聞く子育て
赤ちゃんの成長過程のイラスト作品をSNSで投稿し、育児中のママ・パパたちにも大人気のイラストレーター おおのたろうさん(36歳)。おおのさんが描く赤ちゃんの日常のさまざまな表情は「これ、あるある~!」と共感する人たちが続出!!7歳と2歳の男の子2人のパパであるおおのさんに、赤ちゃんをテーマにした作品のことや、子育てで大変だったことなどの話を聞きました。
子どもが生まれたことがきっかけで赤ちゃんの作品が増えた
――赤ちゃんのイラストを多く手がけるおおのさんですが、赤ちゃんを描き始めたきっかけは?
おおのさん(以下敬称略) 2016年に長男が生まれたあと、僕たち一家は僕の実家の香川で4カ月ほど過ごしていました。香川での生活がわりとのんびりしていたこともあり、作品でも新しいチャレンジしてみようと、GIFアニメーションを作ってみていました。その中で赤ちゃんをモチーフにした作品を制作してGIFアニメコンテストに出してみたんです。その作品が受賞したことをきっかけに、自分のオリジナルの作品の仕事が増えていきました。
2018年ごろからX(旧Twitter)で自分のイラスト作品や、個人で制作したGIFアニメーションを投稿していました。2019年に発表した「赤ちゃんにおむつをはかせるゲーム」や、2020年に発表した「1いいねにつき1日成長する赤ちゃん」といったコンテンツに大きな反響があり、自分の中で赤ちゃんを描くことが一つの作品のテーマになっていきました。
――二男の生後1週間後からはSNSで1カ月ごとの赤ちゃんの成長の様子を発信しています。
おおの 長男の子育てのときには、初めてのことだらけだし、何が正解で何が間違っているのかわからないまま、一つ一つが手探りで一喜一憂して赤ちゃんの毎日の成長やかわいいしぐさは、全力で受け止めた!という感じでした。
それから比べると、2人目の余裕、みたいなものはあったかもしれません。2人目の子育てをしてみると、「長男も同じようなしぐさをしていたな」「赤ちゃんっておんなじようにかわいい動きをするんだな」と、赤ちゃんのかわいらしさやおもしろさを再確認できる瞬間がいくつもいくつもありました。
赤ちゃんの毎日のかわいい瞬間ってたくさんあって覚えておきたいのに、1〜2日するとすぐ記憶から消えちゃいますよね。だから記録に残して、それを作品にして表現しようと思ったんです。
――2023年1月に刊行された『じんせいさいしょの』はおおのさんがSNSで発信した赤ちゃんイラストが、1歳6カ月までの成長を追うようにまとめられています。
おおの 子どものかわいすぎる瞬間って、なかなか写真で撮れないですよね。その場で絵を描く間もないので、いい瞬間を見つけたらスマホのメモ帳に箇条書きで書いておき、夜、子どもたちが寝たあとにメモを見返してイラストに描きました。1日もたつとあっという間に忘れてしまうのです。
そのイラストをSNSに投稿したら、たくさんの人たちからコメントが届きました。多くの人に見てもらえていること、わりとみんな同じようなことを考えていることがわかって驚きました。みなさん、それぞれの子育て中に感じた小さな感動の瞬間がイラストに描かれている、と共感してくれる人が多かったと思います。
――描くときに気をつけていることはありますか?
おおの 僕も長男が赤ちゃんのころはお世話のすべてが初めての経験で、赤ちゃんの一つの動作をとっても、これって普通のことなのかなあ?何かの病気だったらどうしようと心配になることもありました。でも2人目だと「赤ちゃんってこういうものだよね」とわかっている部分もあって。そういう、赤ちゃんによくあるささいなしぐさだったり、すごくいい瞬間だな、幸せだな、と思うことや、いろんな人が見て楽しめる部分を描きたいと思っています。
ただ、描くことでだれかが傷つくのではないかと思うことだったり、情報的にかたよりがあったり、僕自身確信がもてないようなものは描かないように表現は慎重にしています。妻が保育士なので、描いたイラストでちょっと心配があるときには見てもらうこともあります。
大変なことは見方を変えてユーモアに
――育児をしていると毎晩夜泣きが続いたりして心が折れそうになる瞬間もありますが、おおのさんは「夜泣きコレクション」などのようにユーモアを持って描いています。
おおの もちろん、子どものひどいイヤイヤ期とか、かんしゃくを起こしたときは親としては本当に大変です。でも作品として俯瞰してみると、そんな状況もちょっとおもしろく見られるというか・・・。人間ってこんな段階を踏んで成長して作られていくんだなって、どこか神の視点から見ている感じでしょうか(笑)。自分にとっても作品として子どもの様子を描くことでおもしろさに変えられるところはあります。
職業がら、常日ごろおもしろい作品になるようなネタはないかと探すくせがあるので、子育ての大変なこともネタにしてみると、ちょっと面白くなる気がします。
昔からネーミングをするのも好きなので、赤ちゃんのこの姿に名づけるとしたら・・・と考えてゆかいなタイトルをつけるのも楽しいです。たとえば、「泣きコレクション」という作品では、「ブリッジ泣き」「ねむた泣き」「ぜつぼう泣き」というふうに。大変な出来事も少しでも心がなごんでもらえるように言葉を選んで考えています。
――これまでの育児でとくに大変だったことはどんなことですか?
おおの 長男は2〜3歳ごろから言葉が達者で、イヤイヤ期には親子で言い合いになって、お互いが解決できる地点が見つかるまで話し合うのが本当に大変でした。
よくあるパターンですが、あるとき買い物に行った先でガチャガチャのおもちゃがほしいと言われたことがありました。長男はこだわりが強いから、いちばん欲しいものが出ないときに街中で大暴れするんじゃないかという心配があって、「やめておこう」と言っても長男は納得しませんでした。話し合った結果、長男は「欲しいものが当たらなくても納得するから絶対にやりたい」と。そのときは運よく、長男の欲しいおもちゃが出て解決して、本当に心底ほっとしました。
ただ、長男は一度そうやって話し合いをすれば、次に同じような場面になってもすんなり理解してくれるようになりました。たとえ思い通りのものが出なくてもそれはそれで納得しているようです。彼の主張に対して「だめ」一辺倒にしたりうやむやにごまかしたりしないで、長男の意見をしっかり聞いて向き合ったのがよかったのかな、と思います。
今思えば、欲しい気持ちも重要だったのだと思いますが、親に対して自分の気持ちを理解してほしいということもあったのじゃないかなと思います。
――2歳の下の息子さんはどうですか?
おおの 今イヤイヤ期まっさかりです。子どもがパニックというか「ギャー!」となってしまったときの正解がわからないのがいちばん大変だと感じます。
でもその大変さって、大人の都合に合わせて動いてもらえないから大変だというのもあると思うんです。
たとえば自宅で仕事をしている場合、自分が仕事のしめ切りが近づいてあせっているときに、さらに子どもがイヤイヤでどうにもならない問題が重なると、その対処に追われてどっちもいっぱいいっぱいになる。普段なら順を追って対応できることができなくなってしまい、子どもに対して、ついちょっと強い口調で注意してしまったり・・・大人も少し余裕を持っていないと、子どもに対して適切な対応ができなくなるなと思うから、まずちゃんと自分が余裕を持つことを気をつけたいと思っています。
ついつい、「だめ」と言ってしまいがちだから、大人から見たイヤイヤ期は子どもから見たダメダメ期でもあるなあと思います(笑)。子どもから見たら大人も結構勝手なんです。
計算ドリルを解くことにハマる小学生の長男
――おおのさんの周囲では男性の育児参加は進んでいると感じますか?
おおの パパ友と言ってよいのかわからないのですが、同じ保育園や小学校のお父さんとは、そのとき気になっていることとか、子どもたちの様子を世間話程度に話すことはあります。あとは、自分の学生時代からのアニメーター、イラスト制作関係の友人や、近所のフリーランスの仕事をしている知人など、身のまわりの同世代の男性たちは積極的に育児をしたいという人が多い印象です。
――今後の息子さんの成長で楽しみにしていることはどんなことですか?
おおの これからどんな好きなものを見つけるのかが楽しみですね。長男はコロコロ趣味が変わるんです。最初はピタゴラスイッチが大好きで、朝起きたらピタゴラスイッチの装置を作るのを1年くらい続けていました。その次はトランプマジックにはまって、大人でもわからないようなしかけのあるマジックを動画を見ながら習得して、それは半年くらい続いていました。次はルービックキューブにはまって、すごい速さでいろんな技を覚えたりしていました。今は計算が大好きで、自主的に計算ドリルを解くのが趣味のようです。僕からしたら全然その気持ちはわからないけれども(笑)。次は何にハマるのか、楽しみですね。コロコロ変わっていく趣味を通して、彼の中でどんなふうにまとまっていくんだろうって。長男の趣味をきっかけに僕も新しい好奇心が湧くのでそれも新しい刺激になります。
子どもが好きなことに熱中している様子を見ていると、子どもの力がすごく発揮されてるなってわかります。僕自身も小さいころから絵を描くのが好きでずっとやってきたことが今の仕事につながっているので、子どもたちもいろんなことにチャレンジして、好きなことを見つけられるといいなと思います。
お話・イラスト/おおのたろう 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
赤ちゃん・子どもの「この瞬間を逃したくない」シーンを切り取ってイラストにしているおおのさん。おおのさんは子育てをする中で「できるだけ見守る」ことを大事にしているそうです。「子どもが何か考えて自分でやろうとしていることがあったら、子どもの気持ちを考えて見守りたいです。それで失敗してみるのも大切なこと。失敗したら『よくやったね、見ていたよ』と声をかけるようにしています」と話してくれました。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年7月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
おおのたろうさん
PROFILE
香川県出身。絵本、イラストレーション、GIFアニメーションなど幅広い作品制作を行う。2児の父。ユニークでやさしい世界観を描く。近年は赤ちゃんの日常を描いた作品を多く制作している。
『じんせいさいしょの』
「うちの子と一緒で和む!」「全部わかりすぎる!」とSNSで大好評の投稿作品が、計160ページの大ボリューム絵本になりました。0歳~1歳半までの赤ちゃんの、じんせいさいしょの愛らしいしぐさやあるあるがぎゅっと詰め込まれた一冊です。おおのたろう著/1650円(KADOKAWA)