子どもがいることは幸せだと感じけるれど、なんで私だけ…と思うことも。どうして幸せとのギャップを感じるの?
子どもがいる幸せを感じつつ、経済的負担や時間の拘束が増えることで、そのギャップに悩むことがあります。そこで「たまひよ」アプリユーザーの声と国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部室長の竹内麻貴さんに母親がキャップを感じる背景についてお話を伺いました。
親になって感じた幸福度ギャップとは
まず、ママたちがリアルに感じたギャップについて聞いてみました。
■仕事の制限
「子どもからの無償の無限の愛情を受けられて、成長が見られるのは楽しいです。ただ、子どもがいることで仕事に制限ができ、ステップアップや出世が難しいと感じます」(うさぎ)
■ふと自分が不幸せに感じることも
「妊娠・出産・育児しなかったら感じられなかった幸せを子どもに教えてもらって感謝しかないです。最近、子どもの満面の笑みを見たのですが、自分の存在意義を教えてもらえた気がします。ただ、動きたい時に動けないので、かわいい子どもが側にいるのに不幸に感じることもあります」(50インチTV)
■お金がかかること
「妊娠して、こんなにもお金がかかるんだと思い知りました。子どもがいなければ、このお金は全部自分たちのために使えるのにと思ったことがあります」(こまつ)
■犠牲に?
「自分の人生が犠牲になっているような気がします」(べび)
■仕事復帰したら感じるかも
「1年4ヶ月の不妊治療の末に授かった子なので、かわいくてたまらない! 毎日写真を撮ってスマホのストレージがいっぱいになったので、ストレージを増やしました(笑)。けれどもこれから仕事復帰したら、不公平を感じるのかな?」(なっちゃん)
■職場でのひと言
「子どものことで休むと、『自由に休めていいね』と言われること」(ゆーちゃんママ)
■就活での不公平
「子どもの成長を感じられることは親としてとても誇りですし、貴重な体験をさせてもらっていると思っています。けれども職場や就活時には、『子どもがいるからあまり長く働けないよね』『残業は出来ないか…』などと言われ、面接を受けても断わられる時は、少し不公平に感じます」(ゆりやん)
夫婦の時間を増やし、周囲に頼りながら一緒に子育てをすることが大事
ここでは母親の幸福感の低下の背景にあると考えられる、子どもを持つと生じる不利益や負担について、竹内麻貴さんにお話を聞きました。
「私自身も幼い子どもを育てているので、みなさんの体験談のコメントを読んで共通する点がいくつかありました。子どもが生まれた幸福感を感じつつも、時間が拘束されるなど出産前とは違う感情をもたれているのだと思います。
子どもが生まれる前と後では、男女ともに経済的、時間的な負担を感じる機会が増えますが、やはり女性の負担のほうが大きいのが現状です。
例えば、経済的な不利益の代表的なのものに教育費の高騰があり、年齢を重ねるごとに学費だけでなく塾の費用などが家計の負担増になることがあります。教育費がネックとなって、子どもをもつことを若い世代が躊躇することにもつながっています。
また、育休の取得、妊娠・出産での離職と非正規雇用での再就職、時短勤務などは、女性の賃金低下や昇進のしにくさにつながります。体験談にあるような職場における不公平感は、こうした不利益によって生じていると考えられます。一方、男性は、女性のような就労調整をする人が少ないため、子どもが生まれたことが賃金や昇進に影響することは、ほとんどありません。
時間的な要因には、睡眠時間や自分時間など余暇時間が少なくなることがあげられます。時間の余裕のなさからストレスが溜まり、幸福感が低下しやすいと考えられます。
例えば、アメリカや日本の研究では、睡眠を中断して育児をするという育児のための睡眠中断は女性に生じやすいという分析結果があります。出産後の女性は、育児や家事で余暇時間など自分時間が減少するだけでなく、授乳や夜泣きなどで睡眠が中断されるからです。2020年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、33か国中で日本の女性の睡眠時間が最も短いという報告もあり、女性の家事・育児の負担が大きいことがうかがえます。
さらに、時間的な負担には、仕事や家事などのスケジュールの調整もあります。保育園・幼稚園へのお迎え、予防接種や病気の子どもを病院に連れて行くなど、仕事や家事をやりくりする場面が多いことも、母親が負担を感じる原因の一つです。
こうした時間的な問題を解決するために、自治体が行っている支援として、子どもの一時預かりやショートステイなどがあります。ただ制度が利用しづらかったり、肉体的・精神的なリフレッシュのために利用できることを知らなかったり、もしくは知っていても利用を躊躇うということもあるようです。
これらの対策として、政府のこども未来戦略会議が2023年6月13日に決定した『こども未来戦略方針』の中では、保育所の利用要件を緩和する新制度『こども誰でも通園制度(仮称)』の実施が検討されています。親の就労時間を問わず、誰でも時間単位で保育園を利用できるようにする制度であり、2024年度からの制度の本格実施を見据えた形で、2023年度よりモデル事業が実施される予定です。保育士の負担や人手不足といった課題はありますが、専業主婦・主夫も含めて親の育児疲れを緩和しうる施策です。
公的な経済面への支援としては、児童手当や育休中の賃金補償、給食費の無償化があげられます。しかし、このような支援は、すべての親が同じように受けられるわけではありません。様々な課題はありますが、政府にはより多くの親にとって子どもを産み育てやすい環境をつくる施策を進めて欲しいと思います。
そして、仕事面での問題に女性のキャリアパスがあります。これを解消するには、職場で母親に向けられる、『アンコンシャスバイアス(無意識な思い込みや偏見)』を周囲の人、特に管理的な立場にある人がもたないことが大事です。
今回、『自由に休めていいな』『子どもがいるからあまり長く働けないよね』といった言葉を向けられた体験談があったように、母親であることが周囲からの偏見や差別につながってしまうことがまだまだあるからです。母親というカテゴリーだけでその人を見てラベルを貼り、『これくらいの仕事が適切だろう』と、その人個人の能力やできることを見ずに仕事を割り振っていることがありますが、それが仮に母親に対する配慮であっても、結果的に賃金や昇進での差別になってしまうのはとても不幸なことです。
母親であるという理由で、負担の少ない仕事へのキャリアパスに置くのではなく、一人一人に子育てや家庭の状況などをヒアリングして、その人にあったキャリアパスを引くことが大切です。雇用する側にとって、一人一人にヒアリングすることはコストもかかり大変です。けれども雇用される側としては、子どもが成長したあとの賃金や昇進できるというキャリアパスを示してもらうことができれば、育児で短期的に賃金が下がったとしても、不公平感を緩和できるのではないでしょうか。
家庭で大切なことは、パートナーが家事や育児を分担し、一緒に過ごす時間を増やすことです。日本の女性の幸福度を分析した研究に、夫婦関係に満足している女性ほど幸福度が高いという結果を示しているものがあります。そして別の研究では、日本女性の夫婦関係の満足度は、夫の育児分担割合や休日一緒に過ごすといった夫婦間の交流が増えるほど高いということが報告されています。ですので、妻の家事・育児負担が大きかったり、夫婦一緒の時間がとれなかったりする場合は、まず夫婦の分担や一日のスケジュールを見直してみましょう。
とはいえ、いきなり一週間の分担やスケジュールを変えるのが難しい場合もあります。『平日のこの曜日だけ』『休日だけ』のように、日を限定して変えていき、徐々に慣らしていくのもいいかもしれません。
また、こうした夫婦間での調整をしやすくするには、長時間労働や単身赴任を伴う転勤といった雇用慣行を企業が見直す必要があります。
これは私個人の意見ですが、家事・育児を夫婦や身近な親族だけで頑張りすぎないことも重要だと考えています。お互いストレスを感じ、夫婦関係・家族関係がギスギスしてしまっては本末転倒です。家事・育児を家族で抱え込まずに、自治体や企業が提供しているサービスに頼ってみてはいかがでしょうか」(竹内麻貴さん)
確かに出産後は、睡眠時間や自分時間が減りストレスを溜めてしまうことがあります。ツライ時は、一人で抱え込まないために自治体や企業のサービスを利用することも大切ですね。
(取材・文/メディア・ビュー 酒井範子)
竹内麻貴さん
PROFILE)
国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 室長。山形大学社会科学部准教授などを経て、現職。専門は家族社会学、計量社会学。「母親ペナルティ(Motherhood Penalty)」「夫婦間家事分担」などのジェンダー格差に関する研究をしている。
※文中のコメントは「たまひよ」アプリユーザーから集めた体験談を再編集したものです。
※記事の内容は8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。