小児がんの子どもたちと一緒に作った「みんなのレモネード」があっという間に売り切れた!レモネードに込めた願い
9月は「小児がん啓発月間」。小児がんに対する理解や支援を呼びかけるため、世界中のさまざまな場所、建物がシンボルカラーであるゴールドにライトアップされています。
「ぼくの目標は300歳まで生きること……」。3歳で小児がんにかかった榮島(えいしま)四郎くんが、「小児がんについて知ってほしい」と描いた絵本『ぼくはレモネードやさん』の一節です。偶然、その一冊をファミリーマートの細見研介社長が社員に紹介したことをきっかけに、ひとつのプロジェクトが始まりました。
絵本のタイトルでもある「レモネード」を、榮島四郎くんの母である佳子さんが立ち上げた「みんなのレモネードの会」とファミマが一緒に商品開発するというもの。いろいろな種類のレモネードを試飲したり、ラベルのデザインを考えたり、子どもたちは大活躍。8月1日に発売されたレモネードはあっという間に売り切れたようです。
「企業の皆さんとご一緒できたこと、自分の企画開発した商品を店頭で手に取れたことは、子どもたちの良い経験になりました」と、榮島佳子さんは言います。「みんなのレモネード」がどのように誕生したのか、榮島さんの「みんなのレモネードの会」への思いなどを聞きました。
学校・体力・晩期合併症・検査。退院後も続く小児がんの子どもたちの悩み
――― 榮島さんが代表を務めている「みんなのレモネードの会」の始まりを教えてください。
榮島佳子さん(以下榮島、敬称略):「みんなのレモネード」の会のはじまりは、2016年12月のこと。
長男の四郎は、4歳で悪性脳腫瘍と診断されました。小児がんの治療は終わっていますが、今も晩期合併症と闘っています。
退院して5年目、体調を含め、いろいろなことが落ち着いたころ、地域のクリスマスイベントに、患者家族として子どもレモネードスタンドを出店したのが、のちに「みんなのレモネードの会」を立ち上げるきっかけとなりました。そして2020年には法人化して、現在に至っています。
――― 初めてのレモネードスタンドは大きな反響を呼びましたね。
榮島:思っていた以上に、たくさんの小児がん患児や親御さんたちが来てくれました。そのときに、学校のこと、体力のこと、晩期合併症のこと、一生続く検査のことなど、私が退院してから5年悩んできたことを皆さんも同じように悩んでいると知りました。
それ以降、みんなが抱える悩みを話すようになったんです。ありがたいことに、レモネードスタンドも、いろいろなところからお誘いを受けるようになり、2、3カ月に1度くらいの頻度で定期的にやらせていただいたんですよね。そのうちに、レモネードを抜きにして、地域の地区センターに集まるようになったのが「みんなのレモネードの会」の始まりです。子どもたちが読書したり、遊んだりしている間に、親はいろいろ相談し合う場所でもありました。
小児がんを経験した子どもたちは、退院したとはいえ、学校へ行っても、体力、気力、学力など、他の子どもたちと差があります。でも初めて会ったのにすぐに仲良くなっていく子どもたちの姿を見て、「彼らにとっての居場所が大事だな」と感じました。
そうしているうちに、支援したいと言ってくださる個人のかた、企業さんも増えてきたので、大人が責任をもって運営するために、2020年には一般社団法人を設立することになりました。
味もデザインも。目を輝かせて参加した「みんなのレモネード」商品開発
――― そして企業とのコラボレーションもスタートしました。
榮島:昨年、患児家族のママのひとりが、「ファミリーマートの細見社長が、四郎くんの描いた絵本『ぼくはレモネードやさん』を経済誌の誌面で紹介しているよ」と見つけて連絡してくださったんです。
なんだか少し場違いな気もしましたが、とってもうれしかったので、四郎がお礼状を出しました。そのあと、直接細見社長から「がんばってください」とお返事がありました。
細見社長は、社内の広報誌でも『ぼくはレモネードやさん』を紹介してくださったようで、ファミリーマートのご担当のかたが「何か一緒にできることはありませんか?」と声をかけてくださったんです。自社のサステナビリティ活動としてさまざまなこども支援を行うファミマさんのひとつの取り組みとして、「みんなのレモネード」商品化が位置づけられたようです。
子どもたちにも身近なコンビニエンスストア。みんな喜んで参加しました。
――― どのように商品化が進んでいったのでしょうか。
榮島:みんなのレモネードの会は、子どもを真ん中に活動しているので、商品企画には、ぜひ子どもたちも参加させたいという気持ちがありました。ファミマさんも快諾してくださり、今年の1月にはファミレモ部の商品開発部(20家族34名)とデザイン部(22家族33名)が誕生、極秘に活動を始めました。
オンラインではありましたが、商品開発部のメンバーは、ファミマさんが送ってくださった試作品を試飲しながら、「これは酸っぱすぎ」、「こっちは甘い」、「これとこれを混ぜたらおいしい」など、さまざまな意見を出し合いました。
デザイン部の子どもたちが描いたイラストから2種類をファミマのみなさんが選んで、店頭に並ぶ商品のラベルになりました。
「みんなのレモネード」の商品化にあたっては、病棟から参加してくれる子がいたり、「発売されたら、毎日、チェックに行く」と言う子がいたり、子どもたちにとって貴重な体験だったようです。
心のない言葉を乗り越えて、笑顔の人生を送れるように
――― 9月の「小児がん啓発月間」に、少しでもみんなのレモネードの会の活動を知ってくれる人が増えるといいですね。
榮島:四郎も退院した小さなころは、歩くのも、ランドセルを背負うのも大変で、お友だちもなかなかできないような状態でした。でも、みんレモの仲間といるときはいつも笑顔でいてくれるのを見て、こういう場所を大切にしていきたいと強く思いました。
高校生になった今も、大変なことは変わりませんし、これから大学進学、就職となれば、今以上に大変かもしれない。そして、それは多分ほかの子たちも同じはずですから、それなら一緒に悩んで、乗り越えていこうと話しています。
病気が再発してしまう子もいるし、お空にのぼっていく子もいます。それぞれの人生のなかで、できるだけ笑顔の時間が多く過ごせるといいと思っています。
応援してくれる人も増えてきましたが、一見元気な子どもたちを見て、心ない言葉を浴びせる人もいます。だからこそ、「みんなのレモネード」の活動を通じて、こうしてがんばっている子がいるということを知ってもらえたらうれしいですね。
――― みんなのレモネードの会がこれから目指していく姿を教えてください。
榮島:9月の小児がん啓発月間、12月のクリスマスの「みんレモサンタ」と、イベントが増えていきます。特に、病院に患児やきょうだい児がクリスマスプレゼントを届ける「みんレモサンタ」は大人気です。これらのイベントは、みんなのレモネードの会の大学生のおにいさんやおねえさんが取りまとめを手伝ってくれています。
羽を伸ばせたり、ホッとできたりする場所になってほしいし、社会経験や職業体験にもなればいいなと思っています。
いつかはリアルな「レモンの家」を作って、子どもたちや保護者が気軽に立ち寄れたり、大きな子が職業体験のひとつとして事務仕事を手伝ってくれたりするような場に育てていきたいですね。
「小児がん啓発月間」の9月は、当事者である小児がん患児と彼らを多方面から支えるかたたちのお話をお届けします。次回は、みんなのレモネードの会と株式会社ファミリーマートが企画、開発した「みんなのレモネード」の「ファミレモ部」の一員で、ラベルのイラストが採用された林和樹くんにスポットを当てます。
特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
お話・写真提供/榮島佳子さん 取材協力/株式会社ファミリーマート 取材・文/米谷美恵、たまひよONLINE編集部
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
榮島佳子さんプロフィール
一般社団法人みんなのレモネードの会代表理事
2016年、小児がん患児家族の立場から、小児がん患児・きょうだい児の支援団体を立ち上げる。2020年4月法人格取得。「小児がんのことをもっと知ってほしい」「患児や患児家族でつながりたい」と小児がん啓発活動、患児やきょうだい児の交流会などを開催している。2021年秋には、きょうだい児の日常を描いた絵本『ぼくはチョココロネやさん』(生活の医療社)を出版。神奈川県横浜市在住。2児の母。鍼灸マッサージ師。
学校生活や進学、就職など、一生懸命がんばっていますが、晩期後遺症や再発の可能性などを抱えて、ある意味、社会のなかのマイノリティであることは間違いありません。そのなかで苦しい思いをしている子どもたちが笑顔で楽しく暮らしていけるように支えていきたいし、生きていてよかったと思ってほしいと心から願っています。