「頭が痛い」。ある日突然、わが子が小児がんと診断された。元気に成長していく姿を思い描いていたのに
榮島(えいしま)佳子さんの長男四郎さんは、3歳のとき「頭が痛い」と幼稚園を早退してきました。熱中症や胃腸炎が疑われ入院しましたが、病状は悪化するばかり。小児がんのひとつである脳腫瘍だと診断されたのはそれから1年後のことでした。「小児がんなんてテレビドラマの世界の話だと思っていた」という榮島さん。「宝くじにも当たったことがないのに」と苦笑します。中2になった今も、晩期合併症による障害と共に生きる四郎さんを支え励まし、泣いたり笑ったり毎日を生きています。
特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
今回は栄島さんがどのように小児がんの四郎さんと向き合ってきたか、話を聞きました。
(上の写真は四郎さんが入院していたころ)
理解できなくても「がん」という言葉をしっかり説明する
――― 長男の四郎さんに脳腫瘍が見つかった経緯を教えてください。
四郎が幼稚園の年少、3歳の初夏のある日、「頭が痛い」と幼稚園を早退してきました。熱中症か胃腸炎だろうという診断でしたが、なかなか回復せず、総合病院の小児科に入院しました。それでも治るどころか病状は悪化するばかりでした。
幼なじみの小児科のドクターのアドバイスでMRIを撮ってもらったところ、水頭症であることがわかりました。しかし「水頭症は先天性のものなので胃腸炎の治療を優先しましょう」と胃腸炎の治療を優先しました。それでも病状は悪化するばかり。
転院してセカンドオピニオンを受け、緊急オペ、治療。でも悪性脳腫瘍だと診断されたのはそれから約1年後、四郎は4歳になっていました。そこから化学療法と放射線での治療をスタート、退院できたのは5歳の秋のことです。
――― 四郎さんには病気のことをどのように説明したのでしょうか?
退院後に通う病棟に「包括的がんセンター」、それも漢字の「癌」ではなくて平仮名で「がん」と書いてありましたから、理解できてもできなくても「がん」という言葉をちゃんと伝えようと思いました。
実際に四郎がどこまで理解していたかはわかりませんが、「小児がんという病気で頭に腫瘍ができちゃったからビームを当てるんだよ」という話をしたことを覚えています。病気に限らず、いずれわかってしまうようなことはしっかりと自分の言葉で説明することを心がけていました。それは今も変わりません。
放射線治療の際、看護師さんが作ってくれたマスクをして
「がん」というものが死につながるものだということは小学校の中、高学年になるとわかって来るので、主治医の先生からも病状についてきちんと説明していただきました。
勉強の量と点数は比べなくていい
――― 最近の四郎さんの様子を教えてください。
実は小児がんは治療が終わってからも大変で、中2になった四郎は晩期合併症と向き合っています。
化学療法や放射線治療等に起因する障害を晩期合併症というのですが、四郎も頭の治療をしているため、モノを覚えたり、総合的に何かを創り出したりすることが苦手ないわゆる高次脳機能障害も現れています。特に中学生になってから勉強の量が増えてきたことで顕著になりました。
実際に検査は一生続きますし、今も後遺症で成長ホルモンが出ていないので、週6回、注射で補充しています。
――― 四郎さんはどのような学校生活を送っていますか?
勉強はとっても好きなのですが、実際に勉強している時間と点数がなかなか結びつかず、もどかしく思っているようです。
四郎は本が大好きなので、将来は図書館司書になりたいという夢があるんです。リハビリテーション科の先生からは、「夢に近づく方法はいろいろあるから、ときにはのんびりしたり、横道にそれたりしながら模索すればいい。勉強の量と点数や偏差値は比べなくていい」と話してくださいました。
――― 四郎さんは本が好きなのですね。
学校で本を読んでいるのが楽しいと言っています。本の中で冒険しているみたいです。友達があまりいないようなので親の気持ちとしては複雑でしたが、「ぼくはそれでいい」という四郎の言葉にハッとしました。
「多様性を認めてほしい」と言いながら、結局、私自身が元気な子たちが歩む王道が気になっていたんですね。「ぼくはそれでいい」と聞いて、改めて「彼は彼のままでいいのだな」と思いました。
お兄ちゃんと結婚したい!?
――― 四郎さんに兄弟は?
8歳違い、6歳の弟がいます。四郎もずっと弟が欲しいと言っていました。弟もお兄ちゃんが大好きで、将来は結婚したいそうです(笑)。でもお兄ちゃんは疲れやすいので、タイマーをセットして遊んでもらっています。
弟は、スマホのタイマーがなると「成長ホルモンの時間だよ」とお兄ちゃんに教えに行きます。お兄ちゃんは弟の面倒を見ることで体力がアップしているようです。
こんな風に我が家では、日常の一つひとつのことが四郎の病気につながっていて、弟にとってはお兄ちゃんが病気に向き合っていることが当たり前になっているようです。実際に弟はまだ6歳ですが、お兄ちゃんを支え、守っているなぁと感じます。
四郎は繊細だし、今でも通院や入院もあるからどうしても気にかかることが多いのですが、弟は怒っても言い返して来るし何より元気なので、ついほっといてしまいがちです。でもある日、「なんで、お兄ちゃんばかりなの?」と言われ……。病気の子がいるとついそちらに目を向けてしまいがちですが、普段は元気にしていてもきょうだいも同じように自分のことを見てほしいと思っているのだなと、改めて思いました。
それがきっかけで病気の子どもの「きょうだい」を主人公にした絵本も書きました。
後編では、四郎さんが始めた小児がんの子どもを支援するレモネードスタンドをきっかけに広がっていった輪、さまざまな活動について、榮島さんにお話を聞きます。
取材/文 米谷美恵
榮島佳子さんプロフィール
一般社団法人みんなのレモネードの会代表理事
2016年、小児がん患児家族の立場から、小児がん患児・きょうだい児の支援団体を立ち上げる。2020年4月法人格取得。「小児がんのことをもっと知ってほしい」「患児や患児家族でつながりたい」と小児がん啓発活動、患児やきょうだい児の交流会などを開催している。2021年秋には、きょうだい児の日常を描いた絵本『ぼくはチョココロネやさん』(生活の医療社)を出版。神奈川県横浜市在住。2児の母。鍼灸マッサージ師。