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母乳・混合・ミルクと多様化する授乳スタイル。この30年でどう変わった?これからはどう変わる?【授乳 離乳食の30年・後編】

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Photo by/gettyimages ●写真はイメージです

たまひよ創刊30周年企画「生まれ育つ30年 今までとこれからと」シリーズでは、30年前から現在までの妊娠・出産・育児の様子を振り返り、これから30年先ごろまでの流れを探ります。母乳やミルクをめぐる問題や、情報も30年でさまざまに変化してきました。赤ちゃんを育てる授乳と離乳食についてこれまでと現在の課題、そしてこれから求められることを考えます。栄養に関する著書がある小児科医の工藤紀子先生に聞きました。

母乳育児を推進する流れは50年前から

アジアの新生児
●写真はイメージです
maruco/gettyimages

――「たまひよ」が創刊された1993年ごろは、当時発表されたばかりの「母乳育児成功のための10カ条」に医師や看護師、助産師が取り組んでいるころでした。

工藤先生(以下敬称略) 1970年代の半ばごろ、発展途上国で不衛生な水で調乳されたミルクにより感染症が増大しました。それを起因に、世界で母乳保育を推進する動きが始まって、1989年にはUNICEF(国際連合児童基金)とWHO(世界保健機関)が「母乳育児成功のための10カ条」を産科施設向けに発表しました。

――「母乳育児成功のための10カ条」とはどのようなものでしょうか。

工藤 母親が赤ちゃんを母乳で育てることができるように、産科施設の職員が行うことをまとめたものです。

「すべての妊婦に母乳育児のよい点とその方法をよく知らせること」「母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること」「医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと」「母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと」などが10項目にまとめて示されています。
その後、1991年にこの10カ条を採用し、遵守して実践している産科施設を「赤ちゃんにやさしい病院(Baby Friendly Hospital:BFH)」として認定することを決定しました。

――内容が結構厳しい?感じがしますが、当時はどうだったのでしょうか。

工藤 現場で実践するにつれ、できないこともいくつか出てきたようです。母親に厳しいだけでなく、赤ちゃんにとってもかわいそう、という声もあったようです。たとえば「ゴムの乳首を与えない」という表記なんですが、たしかに母乳を飲む赤ちゃんに安易にゴムの乳首を与えると乳首混乱を起こすのでよくありません。
ただこれを何が何でも守ろうとするとスプーンで飲ませないといけないんです。母親は飲ませるのが大変だし、赤ちゃんもおなかがすいて大泣きだし、と現場からは改定の声が上がり、2009年に一度ガイドラインが改定されたのちに発表されたのが現在も施行されている、2018年の「母乳育児がうまくいく10のステップ」です。

――2018年の「母乳育児がうまくいくための10のステップ」とは、どのようなもので、10カ条と違う点はあるのでしょうか?

工藤 項目が10あるということと、母乳育児を推進する点は変わりないのですが、「絶対やるべき」から「できれば頑張ろう」というようなトーンに変わったのが大きいでしょう。
たとえば「ゴムの乳首を与えない」という表記も、「哺乳びん、人工乳首、おしゃぶりの使用とリスクについて、母親と十分話し合う」と、変更されています。

――この方針によって、日本でも母乳育児がうまくいく母親たちが増えたのでしょうか。

工藤 小児科医として言えることは、基本的には人間も動物なので、子を産めば母乳は出るように体は作られているということです。ただ、個人によって出方や量は違うし、いろいろな病気にかかったり経済的な問題があったり社会的背景もあります。

「母乳育児がうまくいくための10のステップ」は産科施設向けに発信されたもので、周囲の支援におけるガイドラインです。これを完璧に守ったからといって母乳育児が100%うまくいく、というものでもありません。努力したから量がたくさん出るというわけではないので、大切なことは、ママを追い詰めないようにすることだと思います。出ないこともあるよね。ミルクでOK、くらいに柔軟に受けとめたほうがいいのではないかと考えています。

母乳信仰だけでなくミルク信仰もあった、授乳のヒストリー

彼女の手と母乳、赤ちゃんを持つお母さんの背景に母乳ボトル。マタニティと赤ちゃんのケア。
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Aliseenko/gettyimages

――母乳育児の推進の背景には、ミルクによる感染症の流行があったということですが、その当時はミルク育児が中心だったということでしょうか。

工藤 1960年代後半から1970年代前半、高度経済成長期のころは粉ミルクの技術革新もあり、ミルク育児はとても流行したんです。

ちょうど私の親世代のころです。私の世代は母乳よりもミルクで育った人が多かったかもしれません。でも、先ほど話したように発展途上国で調乳による感染症が急増したころから、母乳を推進する流れが生まれました。
1981年には、WHOコード(母乳代替品のマーケティングに関する国際規準)が発表され、1989年に「母乳育児成功のための10カ条」、2003年には6カ月まで母乳で育てることを推奨、2009年に「10カ条」が大幅に改定され、2018年に「母乳育児がうまくいくための10のステップ」にまとまったんです。

2005年から2015年にかけて完全母乳育児が大幅増

出典/「平成27年度 乳幼児栄養調査」結果の概要

1985年(昭和60年)と2015年(平成27年)の30年を比較すると、完全母乳と混合が増えて完全ミルクが減っていることがわかります。とくに完全母乳が大幅に増えているのが2005年(平成17年)から2015年の10年間です。1989年に「母乳育児成功のための10カ条」が策定されてから15年ほど経ったころになります。

過剰な母乳信仰から起こった事件

母親の腕の中で授乳新生児の女の赤ちゃん。
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kieferpix/gettyimages

――1980年代から母乳育児が推進されはじめ、1990年代、2000年代、2010年代と成熟していったのですね。

工藤 しかし、母乳育児のよさが認められる一方、日本でいたましい事件が起こってしまいました。
2015年の「冷凍母乳詐欺事件」です。「1歳になるまでは母乳以外を赤ちゃんに与えてはいけない」というネット情報を信じて、冷凍母乳を高額で購入してしまう母親が出てきて社会問題となりました。実際は母乳を冷凍したものではなく、母乳に粉ミルクと水を加えたものであり、衛生面にも問題があり細菌数が母乳の最大1000倍だったと報道されました。

当時は1歳になるまで母乳以外飲ませてはいけない、という情報がずいぶん出回っていて、私たち小児科医のなかには、それを困った状況としてとらえていた医師も多くいました。離乳食を与えられず母乳しか飲ませられない赤ちゃんが増えたことで鉄欠乏性貧血になる子もいました。
子どもを想うがゆえですが、誤った情報を信じて、何としても母乳を手に入れたいという人が増えてしまったのは残念なことでした。

――行き過ぎた母乳信仰がピークを迎えていた時期なのかもしれません。そんななか、2019年に「授乳・離乳の支援ガイド」の改定版が発表されました。

工藤 支援ガイドでは約8割の母親が授乳について悩み、「たりているかわからない」と回答しているデータに基づき、授乳は母乳を基本としながらも、母乳の出方や量はそれぞれによって違う、ということを明確に表しました。母乳だけにこだわらず、必要に応じて育児用ミルクを使う必要があるとし、完全母乳栄養児と混合栄養児との間に肥満発症の差があるということへの医学的エビデンスはない、ということも示しました。

働くママが増え、授乳への考え方が柔軟になってきたとも言えるのではないでしょうか。

2015年からは、母乳のみで育てる方針が減少傾向に

出典/明治 ベンチマーク調査(0~1歳半の子どもがいる保護者1500人へのWEB調査)より

2015年以降の授乳スタイルの変移がわかるデータ。母乳のみで育児を考えている数値が減っているのは、女性の社会進出や男性の育児参加の影響も大きいと考えられます。

はちみつに含まれるボツリヌス菌で死亡事故が発生

実行救急車
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gyro/gettyimages

――「冷凍母乳詐欺事件」の2年後の2017年、はちみつを食べたことが原因で乳児ボツリヌス症になった生後6カ月の男の子が死亡した事故が東京都で起きました。

工藤 レシピの投稿サイトの離乳食のレシピを見て生後6カ月の男の子にはちみつを食べさせてしまったという事故でした。長期間はちみつの離乳食を食べさせていたことで、乳児ボツリヌス症を発症し、残念ながら男の子はなくなってしまいました。都によると、統計が残る1986年以降、乳児ボツリヌス症による死亡例は全国で初めてだったそうです。
食べさせた母親も乳児ボツリヌス症を知らなかったし、レシピを投稿した人も知らなかったということですよね。甘くておいしくて、たくさん食べたので、続けて食べさせてしまったのかもしれません。赤ちゃんが食べてくれるレシピはないか、頑張って情報を取りに行ったことが裏目に出てしまった事故だと思います。
今はいろいろな情報があふれる時代です。専門家が監修している、信頼できる情報を見てほしいと強く感じたいたましい事故でした。

最近目にする「補完食」という言葉。離乳食との違いは?

離乳食。フルーツと野菜のピューレのさまざまなボウル
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nitrub/gettyimages

――日本では長らく赤ちゃんの食事を離乳食と呼んでいましたが、2003年にWHOは「乳幼児の栄養法」で「補完食」という言葉を打ち出しました。両者に違いはあるのでしょうか。

工藤 補完食も離乳食も「母乳だけではたりない栄養素を補う食事」という意味であり、言葉は違いますが考え方は同じです。
ただ、ところどころ違うところはあります。
たとえば日本の離乳食は初期、中期、後期、完了期と期間がありますが、WHOが提唱する補完食にはこまかな期間の設定はありません。
また、食べさせる量にも決まりがありません。赤ちゃんの様子を見ながら大人が決める、という要素が強いです。生後6~7カ月の赤ちゃんには1日3回、12カ月までには1日5回に増やすとしています。栄養を補完するという意味では、この方法のほうが理にかなっていると言えるかもしれません。

離乳初期の離乳食は1日1回から始めますが、赤ちゃんの気持ちがのらない、眠い、おっぱいが飲みたい、などの理由から食べたがらない日も多いことでしょう。1回食べないともうその日は終わりになってしまいます。一方の補完食は1日に2回でも3回でもよく、栄養を与えていく考え方です。

なぜ日本の離乳食がこのようなこまかい方法になったのか考えてみると、日本人の目安を欲しがる傾向も関係しているかなとも感じます。きちょう面に目安を守りすぎることが、赤ちゃんの栄養の補完を妨げる面もあるのではないかと、少し懸念しています。

また、2010年代のころは、栄養は母乳で十分たりていて、離乳食は食べることに慣れるため、と何となく考えられていました。だから、食べられないときはお休みしていいよ、という感じです。でも、離乳食をお休みばかりしていたら、ビタミンDや鉄など、母乳に不足しがちな栄養素が補えません。母乳だけでは栄養不足になることが知られていなかったと思います。

――2021年、世界母乳育児週間に際して、UNICEFとWHOが共同声明を出しました。これから10年、20年、30年先の日本の授乳・離乳食はどのように変わると思いますか。

工藤 「生後1時間以内に母乳育児を開始し、その後6カ月間は完全母乳育児をし、少なくとも2年以上母乳育児を継続することを推奨」というものですね。

授乳については、2歳まで授乳を続けるスタイルは日本でもスタンダードになると思います。母乳は腸内環境をよくしたり、感染症を予防したりとさまざまな健康効果がエビデンスで証明されているからです。最近ではミルクに母乳成分が添加された人工母乳が話題にもなっていますが、今後は、より研究が進んで母乳に近いミルクができるでしょう。
完全母乳、混合、ミルクと授乳だけでもいろいろな方法がありますが、大切なのはどれにするか選べる環境なのだと思います。母乳でなくては絶対ダメ、というのではなく、育児において何を優先するのか家族で話し合うことが大事だと思います。

――離乳食はどうでしょうか。

工藤 日本の離乳食のように初期は1日1回、中期に1日2回、と回数を固定してしまうとうまく進まないこともあると感じています。
食品の順番も、たとえば、卵の次は魚、と決めるのではなく肉をあげるなどとすることで、いろいろなたんぱく質を与えて栄養を補っていくのです。
ですから、今後の離乳食については、私は日本も補完食の考え方に変えていったほうがいいのではないかと思っています。つまり、「授乳から離れるための食べる練習」ではなくて「母乳・ミルクだけではたりない栄養をしっかりとるための食事」という考え方を浸透させて、鉄、ビタミンDなどたりないとされている栄養をしっかりとってほしいと思っています。

お話/工藤紀子先生 取材・文/岩崎 緑、たまひよONLINE編集部

●記事の内容は2023年10月11日の情報であり、現在と異なる場合があります。

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