1歳10カ月のとき、朝起きると枕に20本ほどの抜け毛が・・・。検査の結果、全身の毛が抜ける病気と診断が【汎発型円形脱毛症体験談・医師監修】
熊本県在住の森孝文さん(39歳)は、妻と小学3年生、小学1年生の2人の息子との4人家族です。森さんは、県内で高校教諭をしています。1歳10カ月ごろから気になりだした二男の抜け毛。いくつかの病院を受診し、全身の毛が抜ける「汎発型(はんぱつがた)円形脱毛症」と診断されたのは、2歳3カ月のときでした。パパの森さんに、診断がつくまでのことや治療について聞きました。2回シリーズのインタビューの1回目です。
1歳10カ月ごろから、朝起きると寝具に抜け毛が
二男が生まれたのは、2016年12月。出産前に母親が妊娠高血圧症候群と診断されて、出産予定日より少し早めに予定帝王切開での出産となりました。
「出生時の体重は3140g、身長は49cm。二男が生まれるのを、長男と2人で産院の待合室で待っていました。2人の息子の父親になったことの喜びを覚えていますし、緊張もしました。
二男は、風邪をひいたり、尿路感染症になったりはしたものの、元気に成長しました。発達も順調で、歩き始めたのも早かったです。長男と比べるとちょっと平熱が高いかなとは感じていました」(森さん)
しかし二男は1歳10カ月ごろから抜け毛が目立つようになります。
「長男は私に似て、髪の毛が太くてしっかりしているのですが、二男は妻に似て、髪の毛が茶色っぽくて細いんです。髪の量も少ないほうでした。
朝、起きると寝具に髪の毛が数本ついていることがありました。妻は『髪の毛が細いから、切れ毛が多いのかも。私も切れ毛が多いし・・・』と言っていました。私も気にとめませんでした。
しかし、同時期に二男が通っていた保育園の先生から『お昼寝の後、布団に抜け毛が結構ついているのですが、おうちではどうですか?』と相談されて、気になるようになりました。ほかの子と違うということだったのかもしれません。
そのころから家庭でも抜け毛がかなり目立つようになり、朝、起きると毎日、枕に20本ぐらい髪の毛がついていました。
念のため、かかりつけの小児科を受診したのですが『抜け毛は個人差があるから。大丈夫ですよ』と言われました」(森さん)
かかりつけの皮膚科で診てもらい、大学病院へ
小児科では「個人差がある」と言われたものの、心配でかかりつけの皮膚科でも診てもらうことにしました。
「皮膚科は、長男も二男も皮膚トラブルのたびに診てもらっているクリニックです。
二男の抜け毛はおさまることがなく、抜けているところが目立つ部分もありました。2歳になるころには、髪の毛の薄さが全体的に目立ち、まゆ毛やまつ毛も抜けてきました。でも、その後またまつ毛が生えてきたりすることもあったんです。
皮膚科で診てもらったところ『これは個人差ではありません。念のため大学病院で診てもらってください』と言われて、紹介状をもらいました。
大学病院に行くまで、妻は二男の抜け毛のことをインターネットで調べていました。私自身は生物の教員なので、体のしくみについての知識はあり、『もしかしたら自己免疫疾患とかなのかな』という印象がありました。妻の検索でもそのワードがヒットしていたようです」(森さん)
検査の結果「汎発型円形脱毛症」と判明。免疫反応の異常で毛根が攻撃される
紹介された大学病院までは、自宅から車で片道3時間半ほどかかります。
「大学病院では血液検査と、局所麻酔をして頭の表皮、真皮、脂肪組織を専用器具で採取する検査がありました。
頭に検査の傷がある二男の姿はとても痛々しかったです。すごい検査だな、とも思いました。
検査の結果が出たのは2週間後のことです。二男は2歳3カ月になっていました。
医師からは『汎発型円形脱毛症』という病名を告げられました。円形脱毛症にはいくつか種類がありますが、汎発型は髪の毛だけでなく、まゆ毛やまつ毛などの体毛も抜けてしまうのが特徴だそうです。原因は妻が調べたとおり、自己免疫疾患によるものでした。以前より二男の平熱が高めで36.7~37度なことが少し気になっていましたが、もしかしたら平熱が高いのも、そのせいかな?とも思いました」(森さん)
通常は、体内にウイルスや細菌などの異物が侵入すると、Tリンパ球という細胞が異物を攻撃します。しかしTリンパ球に何らかの原因で異常が生じると、正常な細胞を攻撃してしまうことがあります。森さんの二男の場合は、正常な毛根を攻撃しているために脱毛が起きました。
「大学病院では『今は毛根が攻撃されているけれど、将来、どこの部位や器官が攻撃されるかわかりません。そのため2年後にもう一度、再検査をしましょう』と言われています」(森さん)
頭皮に薬を塗ると、かゆくなることもあり嫌がるように。そのため治療は一時中断
二男は大学病院で紹介された、皮膚科クリニックで治療を開始します。
「診断がついてすぐ治療を始めました。家で週1回、局所免疫療法(SADBE療法)といって液体の薬を頭皮に塗る治療です。綿棒に妻の化粧用のコットンを小さくさいて、巻き付けたものを使って塗りました。薬にはかゆみを生じる成分が入っているようで、時々かゆがるんです。シンナーみたいな刺激臭もするし、塗るとひんやりするので、息子は薬を塗ろうとすると『嫌だ』と拒否します。
私や妻が『薬を塗らないと髪の毛生えないよ。どうする?』と聞くと『髪の毛ほしい』『ママみたいな髪になりたい』と言うのですが、いざ塗ろうとすると抵抗します。
薬を続けて塗っていると、確かに効果があって産毛が生えてきたりしました。でも、二男が嫌がるので続かず、なかなかうまくいきません。
そのため4歳になったころから治療を中断しています。この先どうしていくのがいいのか考えているところです」(森さん)
【野口先生から】近い将来、円形脱毛症は治る病気になるのではないかと期待しています
円形脱毛症は脱毛の数、範囲、形などにより、通常型、全頭型、汎発型に分類されます。通常型のうち、脱毛斑が単発のものを単発型、多発しているものを多発型といいます。全頭型は脱毛巣が頭部全体に拡大したもの。汎発型は脱毛が全身に及んだものです。全頭部の25%以上の脱毛は要注意です。すぐに専門医で相談してください。
汎発型は森さんのように、局所免疫療法が推奨されています。しかし、かゆみを伴うので、かゆみ止めの内服をしてがまんしてもらうこともあります。最近、慢性期の円形脱毛症に免疫を調整する内服薬が開発されました。2022年からは15歳以上から使用できる経口薬「オルミエント®」が。2023年9月からは、12歳以上から使用できる経口薬「リットフーロ®」が保険適用で処方できるようになりました。近い将来、治療法が確立して円形脱毛症は治る病気になるのではないかと期待しています。
お話・画像提供/森孝文さん 監修/野口博光先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
二男の症状の進行はとても早く、保育園で抜け毛のことを相談されて、それから2カ月ほどで、髪の毛はぐんと薄くなり、まゆ毛もまつ毛も抜けたそうです。幼心にどんどん髪の毛がなくなっていくことにショックを受ける二男。長男も戸惑いを隠せません。森さん夫婦は、子どもたちの心を守ることを第一に考えたと言います。
インタビューの2回目は、森さんに絵本が出来上がるまでのことを聞きました。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
野口博光先生(のぐち ひろみつ)
のぐち皮ふ科(熊本県)医師。1990年防衛医科大学卒業後、自衛隊熊本病院 皮膚科勤務。2002年熊本大学大学院修了。2004年のぐち皮ふ科開院。日本皮膚科学会専門医、日本医真菌学会専門医・評議員、福岡大学非常勤講師。
『つるつるのおとうと』
二男の病気『汎発型円形脱毛症』のことを少しでも多くの人に知ってほしくて、実話をもとに描いた絵本。「つるつるだから」と、からかわれる弟を必死に守る長男。兄弟愛・家族愛に心が動かされる1冊。しりとりかぞく作/1485円(リーブル出版)