環境変化での子どもの体力・筋力の低下が心配・・・。子どもの将来に悪影響はない?【俳優・加藤貴子が専門家に聞く】
8歳と6歳の2人の男の子を育てる俳優の加藤貴子さん。コロナ禍での外出自粛から今夏の猛暑の影響などで、室内でテレビゲームをしたり動画を見たりして遊ぶことが増えた子どもたちの様子を見て、体力が低下して成長に影響があるのでは・・・と心配に感じているそうです。そこで、子どもの成長と運動の大切さについて、早稲田大学教授で子どもの健康福祉学が専門の前橋 明先生に教えてもらいました。加藤さんが育児にかかわる悩みや気になることについて専門家に聞く連載第19回です。
子どもの運動量が減っているのが心配
加藤さん(以下敬称略) 息子たちが通っているスイミングスクールのコーチから、ここ数年のコロナ禍で子どもたちの筋力の低下が著しいと感じていると聞きました。子どもたちの筋力や体力の低下が、これからの成長にどんな影響があるのか心配です。
前橋先生(以下敬称略) コロナ禍では外出自粛と運動規制があったために、子どもたちが体を動かす場所が制限されていました。そのため運動量が減少し、筋肉を使うことも減り、筋力の低下が起きていると考えられます。
体を動かさないと心地いい疲れが得られないので寝る時間が遅くなって、生活リズムや生活習慣に乱れがあった子どもたちもいるでしょう。また、室内での遊びが増えて、テレビやタブレットなどで動画を見る機会が増えたことでの視力低下も心配されると思います。
コロナ禍の影響もありますが、それだけでなく、近年の社会全体の環境の変化が子どもたちの運動の機会に影響している面もあります。
たとえば、共働き家庭が増えていますが、仕事を終えて保育園に子どもを迎えに行き、帰宅後の夕食が19時過ぎになる家庭も多いのではないでしょうか。
私の生活調査では、夕食を19時を過ぎて食べ始める家庭の子どもの就寝時刻は22時を過ぎる確率が高いことがわかっています。社会全体が夜型化して、子どもが大人の生活に巻き込まれていることも見過ごせないことです。
運動量の減少、テレビ・動画視聴の長さ、生活リズムの乱れなどは、子どもたちの成長に大きく影響します。睡眠不足で朝早く起きることができないと、朝起きても食欲がなかったり、朝食を食べる時間がなく、家でうんちをしてスッキリと園や学校に行くことができない、さらに元気がなくて運動ができない、といった影響が考えられます。
加藤 子どもがしっかり体を動かして整った生活リズムをつけることは、子どもの成長にとっても大事なんですね。
前橋 運動量が減ると、筋肉に負荷がかからず体力がつきません。かといってオーバーワークになってはいけませんが、1日の睡眠で回復するくらいの運動量のあることが、子どもの体力を高める秘訣(ひけつ)です。
幼児期から児童期の子どもは、たくさん体を動かして遊び、「疲れたー!」と寝て、翌朝起きればケロッと回復する、起きるとおなかがすいて朝ごはんをしっかり食べる・・・このような生活の繰り返しで体力をつけていきます。だから、生活リズム・生活習慣を整えることが、体力づくりの基本となる大切なことです。
「仲間に入れて」と輪に入るのが苦手な二男
加藤 8歳の長男は、鬼ごっこやドッジボールなどの外遊びが大好きで、サッカーと水泳を週2回ずつと、体幹トレーニングを週1回習っています。6歳の二男は水泳を週1回習っていますが、普段は外遊びの時間は長男に比べると10分の1くらいです。2人とも、区民プールや大きな公園に行くと疲れ知らずで延々と遊んでいるんですが・・・二男はちょうど年少の3歳からコロナ禍になって室内でゲームやお絵描き・工作などで遊ぶのが大好きになったので、長男に比べて運動量が少ないんじゃないかと心配です。
前橋 息子さんたちの健康的な運動習慣のためにいろいろと工夫されていますね。十分運動できていると思いますから、あんまり心配しすぎなくて大丈夫ですよ。
子どもは心が動いたときに大きく成長します。遊んだり運動したりして「おもしろかった、またやりたい」と感動体験を重ねると、次もまた運動しようと、運動の生活化につながります。
加藤 子どもたちにそういう体験をさせたくて、この夏休みには私と息子たちとで、たくさんの家族が集まるキャンプ合宿に1週間参加しました。
前橋 自然の中での体験をするのもすばらしいです。暑さ、寒さへの適応能力がついて、抵抗力もつくでしょう。太陽の位置と影のでき方やどこにどんな虫がいるか、といった、体力だけではない学びもたくさんあります。
テレビもビデオも冷蔵庫も電子レンジもない生活では、少し工夫が必要ですよね。キャンプの楽しさとともに、便利さから解放されて、工夫する力や考える力がつくと思いますよ。だから、精神的、情緒的な面の学びも期待できます。
加藤 たしかに、その1週間は、普段よりもよく体を動かし、よく食べて早起き・早寝もできていたし、みんなで楽しい経験ができたと思います。ただキャンプのときに気になったのが、二男が自分からお友だちの輪に入るのが苦手なことです。
二男はキャンプ合宿では知らないお友だちと一緒に遊ぶ機会があっても、相手が受け入れてくれる状況にならないといつまでも私の後ろに隠れて様子をうかがっている感じでした。一端受け入れてもらうと、今までの行動がうそのように楽しそうにしているのですが、そんな性格なので、気づかってくれるお姉さんやお兄さんと遊ぶのが心地いいのか、いつも自分よりも年齢の高い人たちに遊んでもらっていました。二男はもともと引っ込み思案な性格もあるんですけど・・・仲間と遊ぶとおもしろいよ、ってどうやって教えてあげられるかなぁと。
前橋 どんなことも小さな経験の積み重ねで獲得しますから、慣れない自然の中で急に知らないお友だちと遊ぶことは難しかったかもしれませんね。下の息子さんは保育園に通っていますか?
加藤 はい、保育園の年長です。
前橋 おそらく保育園の先生方も、仲間に入って遊ぶのが苦手な子どもに対して、低年齢のころから少しずつ計画的に対人遊びや集団遊びに慣れるように指導してくれているはずですから、あせらなくても大丈夫でしょう。
子どもは仲間に入っていないように見えても、実はほかの子どもの様子を見て心を動かし、学んでいます。実行はできなくても「どんなふうに声をかけるといいのかな」と見て、次の機会にチャレンジする準備をしているんですね。
まずは、小さい砂場などでお友だちにおもちゃの貸し借りをするところなどから少しずつ経験を重ねれば、きっと仲間づくりの力を発揮できるようになると思いますよ。
子どもの育ちに大切な三つの「間」
加藤 できるだけ外で遊んで体を動かしてほしいとは思いますが、最近は塾や習いごとなどで忙しいお友だちが多く、子どもが公園に遊びに行っても、遊び仲間が見つからないこともあるようです。
前橋 たしかに、仲間がいないために子どもの外遊びの機会が減っている状況もあるようですね。子どもが健全に育っていくためには、「時間・空間・仲間」という、三つの「間(ま)」が必要不可欠です。私は、その中でもとくに「仲間」が大事だと考えています。
先日、ウクライナの子どもたちの様子が記録された映像を見る機会がありました。がれきに囲まれた中で子どもたち5〜6人がリレー遊びをしていました。少し離れた場所に何か物を置いてそれを走って取ってくるような単純な遊びです。非常に安全ではない環境のもとでも、仲間がいることで楽しい遊びが生まれるんです。
加藤 公園には「ボール遊び禁止」「大声は出さない」と注意書きがされていたりして、子どもが自由に遊べる環境が少なくなっていると感じます。子どもが思いっきり遊べるような公園は、子どもの足で歩いて行くことができない距離にあるんです。子どもが遊びやすくなる空間を整えるにはどんなことができるでしょうか?
前橋 行政が立派なプレーパークを作っても、子どもの足で歩いて行くことができる場所になければ、なかなか遊びに行けないですよね。一方で、近所の公園で思いっきり遊ぶと、子どもの遊び方や声のことで学校や役所に苦情を訴える人もいるようです。大人の仕事のスタイルもいろいろですから、夜勤明けで睡眠をとる人もいるとなると、都市部ではとくに子どもの声をうるさく感じる場合もあるのかもしれません。
町内会などでは、掲示板や回覧板で子どものお祭りなどのイベントがあるときには、その内容や時間帯を地域にお伝えすることがあります。地域でそのようなコミュニケーションがあると、子どもがいない家庭の人も、近所の子どもたちの活動の様子を把握できるでしょう。運動会の練習が始まる時期には、学校から周辺住民にお知らせを配ることもありますよね。そんなふうに情報共有しながら、地域の人に理解を求める工夫をする必要があります。
近年ではコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)といって、学校と地域住民が一緒になって学校の運営や教育について話し合う取り組みもあります。園や学校と地域が協力することで、地域の人たちが子どもの応援団になってくれることを期待したいです。
加藤 子ども同士で近所の公園で遊ぶときには、地域の人の目があると安心で心強いです。普段から地域の人とあいさつをしたり、地域のイベントでどんな人が住んでいるのか、目にする機会を持つといいのかもしれませんね。
お話/加藤貴子さん、前橋 明先生 監修/前橋 明先生 撮影/山田秀隆 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
デジタル社会であっても、リアルな遊びの経験を重ねることが子どもの心身ともに健やかな成長には欠かせません。子どもが自由にのびのびと遊べる空間・時間・仲間を用意してあげたいものです。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。10月22日より放送のABCドラマ「たとえあなたを忘れても」(日曜22:00~放送)に出演中。
前橋 明先生(まえはしあきら)
早稲田大学人間科学学術院教授 医学博士。岡山県出身。鹿児島大学、米国・南オレゴン州立大学卒。ミズーリー大学大学院で修士号、岡山大学医学部で博士号を取得。倉敷市立短期大学教授、ミズーリー大学客員研究員、バーモント大学客員教授、ノーウィッジ大学客員教授、セントマイケル大学客員教授、台湾国立体育大学客員教授を経て現職。専門は子どもの健康福祉学。