早産の原因が、母親側の病気であることも。「産んで一緒に生きていくことを目標にしてほしい」と願って~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】
赤ちゃんを妊娠している間に母親の急な体調変化が起こり早産となった場合、生まれた赤ちゃんは新生児集中治療室(NICU)で治療を受けます。
テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター周産期医療センターの豊島勝昭先生に、NICUの赤ちゃんたちの成長について聞く短期連載。
第6回は、妊娠中の母親の体調の変化もあって早産で出生した赤ちゃんたちについてです。
妊娠高血圧症候群でお母さんも赤ちゃんも危険な状態に
――これまでの連載では、切迫早産や前期破水などがあって(お産が早く始まったり、おなかの中で赤ちゃんが元気がなくなってしまい)、小さく生まれた赤ちゃんについて聞きましたが、お母さんの体調が悪くなって、早産とせざるを得なかった場合について教えてください。
豊島先生(以下敬称略) お母さんの体調もあって早産でお誕生する赤ちゃんたちについてお話します。
妊娠26週の妊婦さん(以下、さつきさんとします)は、個人病院で妊婦健診を受けた際に血圧値が急に高くなっていて、重症な妊娠高血圧症候群と診断されて、神奈川県立こども医療センター(以下神奈川こども)に緊急搬送されました。それまでつわりもなく順調で、むくみなどの自覚症状がまったくなく、とても驚いたそうです。
妊娠高血圧症候群は、妊娠をきっかけに血圧が上がってしまう状態で、妊婦さん約20人に1人の割合で起こると言われます。妊娠34週未満で発症した場合は重症化しやすく注意が必要です。
重症になると、血圧の上昇で妊婦さんが脳出血や、肝臓や腎臓の機能障害を起こすことがあります。また、母体だけでなく、子宮や胎盤の機能も下がるのでおなかの中の赤ちゃんが大きくならなくなったり、元気がなくなっていくことがあります。
さつきさんは、お母さんだけでなくおなかの赤ちゃんも元気がなくなっていったため、早急に出産して妊娠を終わらせる必要がありました。生まれた赤ちゃんは体重600gの超低出生体重児でした。急な出産になったさつきさんは、産後も血圧がなかなか下がらずに、目がちかちかしたり、頭がクラクラするような症状が数日続きました。車椅子に乗ってやっとNICUで赤ちゃんと面会できたときには、さつきさんは涙をこぼしていました。「もっと長くおなかにいさせてあげたかった」と思ったのだそうです。
赤ちゃんの成長のためにも、お母さんの健康を守りたい
――神奈川こどもでは、さつきさんのような妊娠高血圧症候群のほかにどんな妊婦さんの出産がありますか?
豊島 神奈川こどもは小児専門病院ですが、総合周産期母子医療センターの役割として母体胎児集中治療室(MFICU)・母性病棟があります。生まれつきの病気の胎児診断を受けた妊婦さんの出産のほかに、切迫早産・前期破水・妊娠高血圧症候群・常位胎盤早期剥離などの出産があります。
妊娠高血圧症候群・常位胎盤早期剥離などでは、妊婦さんと赤ちゃんの2つの生命の危機で一刻も早く緊急帝王切開で出産したい産婦人科に母性内科、小児科や麻酔科の多くのスタッフが連携して2つの生命をどちらも救うことをめざしています。
お母さんに悪性腫瘍や腎臓病などの病気がある場合は、赤ちゃんは危険な状態でなかったとしても、お母さんの病気の治療のために早産での出産となることもあります。そのような場合は、お母さんの治療を担当する大学病院で、出産したお母さんの治療を行い、赤ちゃんだけ神奈川こどもに転院となることもあります。その際には、私たちはお母さんが入院している病院と連携しながら、お母さんと赤ちゃんが再度会える日をめざして赤ちゃんの治療をしています。
――妊娠とは別のお母さんの病気のために、早産となることもあるのですね。
豊島 早産の赤ちゃんは在胎週数が少なければ少ないほど、合併症が生じやすいです。できるだけおなかの中で育てることは理想です。けれど、妊娠を続けることはお母さんの命に危険を強いてしまう状況もあります。周産期医療センターは赤ちゃんだけでなく、お母さんの命や健康を守ることを大切にしています。お父さんだって、お母さんに病気があるときはとても不安や心配を抱えています。
お母さんの中には、赤ちゃん優先で、自分は治療は後回しでいい、と考える人もいます。だけど私は、赤ちゃんは、お母さんとお父さんに会いたくて頑張って生まれてくると思います。産むのを目標にするのではなくて、産んで一緒に生きていくことを目標にしてほしいと思っています。
生まれてくる赤ちゃんのためにも、お母さんの健康を守ることも大切にしたいです。赤ちゃんとお母さんのそれぞれの健康をなるべく守るために、産科・母性内科・小児科とも相談しながら、早産出生にする日を検討しています。家族には早産にしてしまうとは思わず、赤ちゃんと一緒に生きていくために、よりよい誕生日を選び直すと思ってほしいし、赤ちゃんを産んだあとに、家族でどうやって育てていくかを考えてほしいと願っています。そして、赤ちゃんが加わる家族ごと応援できる周産期医療センターをめざしたいと思っています
精神科医や臨床心理士がお母さんのメンタルをサポート
――早産によって心に傷を受けてしまうお母さんもいますか? どんなケアを受けられますか?
豊島 早産にかかわらず正期産(せいきさん)で出産した人でも、すべてのお母さんが妊娠・出産に伴って「うつ」的になる可能性があります。そんな時期に、赤ちゃんが早産で生まれたり、病気を持って生まれたりしてNICUに入院することになると、さらに産後うつを発症しやすい状況になります。赤ちゃんの応援を一緒にしていくためにも、お母さんの精神的ケアはとても大事です。
私たち神奈川こどもでは、産後のお母さんを身体的・精神的にサポートするために母性内科で診療を行っています。産後に心理的に大きな負担を感じている人には、心療内科や精神科の医師も診療に加わります。
さらにNICUでは、臨床心理士が赤ちゃんに面会中のお母さんに声かけをして話を聞くこともあります。私たちNICUで赤ちゃんの治療に当たる医療者はどうしても赤ちゃんを中心に見てしまうから、お母さんの心に思いがけずストレスをかけてしまうことがあります。産後の女性の中には「お母さん」という言葉がけすらプレッシャーに感じてしまうこともあります。そういった女性の思いに心を寄せる人が必要だと考えています。
赤ちゃんがNICUを退院したあとには、地域でお母さんの精神的ケアができる場所があることも大切です。地域の助産師さんや保健師さんなどに頼らせてもらうこともあります。
――母親に持病がある場合、妊娠前の相談はできるのでしょうか?
豊島 お母さん自身に持病がある人が妊娠を考えるときや、第一子が先天的な病気で生まれ第二子の妊娠を考えるときなどに、再度の妊娠や出産に不安になることがあります。そのような場合の相談場所として、神奈川こどもでは「遺伝カウンセリング」も行っています。産婦人科医、遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーなどのチームで、次回の妊娠や出産を応援しています。
お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
親になる準備中から、自分よりも赤ちゃんのことを優先しがちになることもあるかもしれません。赤ちゃんの成長のためには、親自身が健康であることが大事、と、豊島先生は話します。
●記事の内容は2024年6月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。