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「娘に障害があること、ほかの子が元気なことはだれのせいでもない」わかっていても心を閉じた母。いつしか「大丈夫です」が口ぐせに【体験談】

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特別支援学校の1年生になった弥琴ちゃんと、母のちひろさん。

7歳の弥琴(みこと)ちゃんは、「22q11.2 欠失症候群(にじゅうにきゅーいちいちてんにけっしつしょうこうぐん)」(※)という先天性疾患で、生後2日のときにNICU(新生児集中治療室)のある病院に緊急搬送されました。1年にわたる入院、複数回の手術を経て、現在は医療的ケアを受けながら家族と一緒に暮らしています。
今回は母親のちひろさんに、障害児の母としてのこれまでの悩みや葛藤について、話を聞きました。全2回インタビューの2回目です。

※22q11.2 欠失症候群/4000~5000 人に1人の頻度で発症する染色体疾患。発達遅延、先天性心血管疾患などの症状がみられる。

「口に出してはいけない」と封印した自分の気持ち

心臓の手術後、GCU(新生児回復室)にいた生後1カ月の弥琴ちゃん。

――先日、SNSのライブ配信で、ちひろさんが障害児の母としての本音を話したら、たくさんの方から共感の声が寄せられたと聞きました。どういう話をしたのか教えてください。

ちひろさん(以下敬称略) 弥琴は生後2日目から約1年間、大きな病院のNICUに入院していました。私は弥琴の面会に通いながら、上のきょうだい2人の幼稚園にも送り迎えをしていたのですが、私と同じ時期に妊婦さんだったママたちは、無事に出産を終えて、幼稚園に赤ちゃんを連れてきていました。

私も弥琴を抱っこして、今ここにいる未来もあったのにな…と思う気持ちはありました。当たり前のことですが、弥琴が障害を抱えて生まれてきたことも、まわりのママや元気に生まれてきた赤ちゃんたちも、だれも悪くありません。それがわかっているからこそ、気持ちをぶつけるところがありませんでした。送迎のときの私は、まわりをあまり直視しないようにしていたので、きっと愛想がない、よくない態度だったと思います。当時は、そうすることでしか自分の心を守れませんでした。

それでも上の子のママ友たちはとてもやさしくて、心配していっぱい支えてくれて、本当にうれしかったんです。ただ、これ以上は迷惑かけたくないという思いがずっとあって、心の奥の本当のつらい気持ちは一度も言えませんでした。「これは言ってはいけない気持ちなんだ」と、自分の気持ちにふたをしていました。

「大丈夫です」が口ぐせになってしまって…

――そのころ、ちひろさんと同じ、障害を持つ子のママと直接話す機会はありましたか。

ちひろ それはなかったんです。SNSではつながっていましたが、弥琴はNICUの退院後も、毎月のように体調を崩して入院していたので、会うことはできませんでした。

弥琴は医療的ケアが必要な重症心身障害児で、いろいろな人の力を借りながら毎日過ごしています。なので、親である私自身は「できるかぎり自分でしなきゃ」って思ってしまって、「大丈夫です」が口ぐせになっていました。ママ友だけでなく、医療従事者の方々にも、十分いろいろしてもらっているから、これ以上頼ってしまうのは申し訳ないと思ってしまっていたんですね。人に頼ることがとても苦手になっていました。

――だれにも言えない気持ちがずっとあったのですね。

ちひろ はい。そんな中で弥琴が1歳半のとき、弥琴と同じ病気のお子さんを持つお友だちの家に、初めて遊びに行く機会がありました。そのママとはSNSを通じて出会ったのですが、お子さんは弥琴と同じ人工呼吸器で、鼻にはチューブ、足にはサチュレーション(動脈血酸素飽和度)を測るモニターがついていました。何も言わなくても共感の気持ちでいっぱいで、これまでに感じたことがないくらいに心が軽くなったんです。

それまでは、「私の発言で相手に心配や迷惑をかけちゃうのでは」という思いがずっとありました。でも同じ経験をしてきた仲間との出会いって本当に大きくて、目の前が一瞬にして明るくなった感覚は、たぶんこれからもずっと忘れないと思います。

ランチ会で言われた、忘れられない言葉

人見知り・場所見知りする弥琴ちゃんと思いきって出かけたランチ会。最初は大泣きだったけれど、最後にはリラックスしたような表情に。

――ちひろさんは、弥琴ちゃんが生後1カ月のときからSNSを始めたそうですが、きっかけは。

ちひろ 最初はただ、弥琴の状態や成長、自分の気持ちを忘れたくなくて、ノートに書きとめていたんです。でも、家には上の子たちがいて、紙とペンを持って書く時間がどんどんなくなっていきました。それよりも携帯で記録するほうが早いと思って、写真と一緒に記録を残せるInstagramを育児日記代わりに始めました。

弥琴の病気について投稿することで、同じ立場のママさんたちとつながることができました。1歳になる少し前の時期に弥琴の退院が決まり、在宅生活が始まるときに、病院から「吸引セットを用意してください」と言われたのですが、どれを用意したらいいのかわからなくて、Instagramで調べてみました。

そのときに先輩の医療的ケア児ママが、直接の面識もない私にていねいに教えてくださり、不安が解消できました。そのママからの優しさが今でも忘れられないです。それで目にとまったものが、「SKIP&CLAP」という会社の吸引器用バッグです。代表の奥山梨衣さんは、ご自身も医療的ケア児を育てている先輩ママでもありました。いつか弥琴と外に出かけられる日が来たらこのバッグを買おうと、夢ができた瞬間でした。

――不安な中で、先輩ママとのつながりや心づかいはとてもありがたいですね。

ちひろ 弥琴が2歳のとき、奥山さんがボランティアで開催している、地域の医療的ケア児とママ・パパ向けの集いに参加できました。初対面の奥山さんの自宅でランチをいただく予定だったのですが、当時は実生活で人に頼ることが苦手な真っただ中で、しかも弥琴は私から離れると大泣きしてしまうんです。たんの吸引もあるので、いつものように弥琴を抱っこしながら、ごはんをいただこうと思っていました。

そしたら、「頼ったらいいんだよ!」と、奥山さんが声をかけてくださったんです。スタッフさんも看護師さんもいらしたので、「ママはこっちに座ってゆっくり食べて」と。もちろん弥琴は私から離れて泣いちゃったのですが、そんな弥琴を抱っこしながら「みんなこうやって大きくなるからね。人に頼ることは、全然悪いことじゃないから」と。人に頼ってもいいんだ!と、初めて思えました。

人に頼ることが、親子が一歩進めるきっかけになった

年少の年から通い続けた児童発達支援の施設を今年春に卒園。看護師さんたちからたくさんの愛情を受けた3年間でした。

――同じ病気の子を持つママ友と、先輩ママの奥山さんとの出会いは大きかったのですね。

ちひろ はい。児童発達支援の施設に弥琴を通わせたいと思ったのも、その出会いがきっかけでした。それまで通わせたい気持ちはあったのですが、私から離れると泣く弥琴を、先生方にお願いするのが本当に申し訳なくて。でも、思いきって通わせることにしたら、とてもやさしいスタッフの方々に出会うことができました。

行動を起こすと仲間に出会える。そして、弱音を吐いたり、「つらいな」とちゃんと言える環境にいるだけで救われる。そのことがとてもよくわかりました。

奥山さんが開いていた医療的ケア児ママたちの集いは、今は「SKIP CAFE(スキップカフェ)」というオンラインコミュニティになり、私も今年4月からスタッフとしてかかわらせていただくようになりました。現在は全国に160人以上のメンバーがいて、年に数回メンバーを募集しています。これからも1人じゃない、まわりに頼っていいんだよと、やさしさの循環を広げていきたいと思っています。

――同じ医療的ケア児のママさんたちにメッセージをお願いします。

ちひろ 医療的ケア児を育てていくことは、未知の世界だし、先が見えなくて、とても不安だと思います。でも、知ることで解消される不安もたくさんあると、私は自分自身の経験から感じています。

もし、かつての私のようなママがいたら、「1人じゃないよ」「頼っていいんだよ」と伝えたいです。ちょっとでも心に余裕ができて、まわりを見ることができたら、ぜひ人とつながって、いろいろなことを知るきっかけにしていただきたいなと思います。

お話・写真提供/ちひろさん 取材・文/武田純子、たまひよONLINE編集部

産後、生まれたばかりの弥琴ちゃんと離れ離れになり、祝福の言葉があふれる病室でただ1人、カーテンを閉めきって泣いていたというちひろさん。それから7年後、ちひろさんはまわりの人たちに支えられながら弥琴ちゃんと笑顔の日々を送り、同じ医療的ケア児のママたちを気づかいながら支援活動を行っています。すてきな日々がつづられているちひろさんのInstagram、ぜひ見てみてください。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

ちひろさん

PROFILE
先天性心疾患(22q11.2欠失症候群)のある女の子「みこちゃん」こと、7歳の弥琴ちゃんのママ。弥琴ちゃんとお兄ちゃん、お姉ちゃんとパパとの5人暮らし。弥琴ちゃんの毎日のケアや通院、通学などに追われて多忙な日々を送る。重度心身障害や病気、医療的ケアが必要な子どもたちのママ同士がつながり情報交換するオンラインコミュニティ「SKIP CAFE」のスタッフとしても活動中。

ちひろさんのInstagram

「SKIP CAFE」

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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