救急医療の現場から#2〜コードにつまずき電気ケトルを倒してやけど!
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簡単に早くお湯が沸くことで人気の電気ケトルですが、近年、電気ケトルで赤ちゃんがやけどを負う事故が多発しています。赤ちゃんの皮膚は薄いため、大人よりやけどがひどくなりやすい傾向があります。
ここでは、1才代の子が電気ケトルを倒して、広範囲にやけどを負った症例を、北九州八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長である市川光太郎先生に、紹介いただきました。
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熱湯を浴びて、腰からおしり、脚にかけてやけどを…
夜半の急患が少し減ってきた22時ごろ、「右下肢・腰部にⅠ~Ⅱ度の比較的軽度の熱傷(やけど)を負った1才7カ月の男の子を搬送したい」と、ホットラインに連絡があった。すぐ受け入れオーケーの返事をして、救急室で準備して待った。
ほどなくして、救急車が到着し、救命士に抱っこされた男の子が、母親に寄り添われながら降りてきた。すぐに衣類を脱がせるように看護師に命じて、やけどのチェックを行った。
確かに救命士の報告どおりに熱傷深度(ねっしょうしんど)はⅠ度が大半で、一部Ⅱ度が混じっていた。しかしⅡ度も浅いほうの皮下表層部熱傷(ひかひょうそうぶねっしょう)であった。ただ、右下肢外側、腰部~臀部とやや広範囲であるため、安静をかねて、数日の入院がベターと考えた。一応体液中のイオン濃度を調べる電解質検査等と点滴を行うように研修医に指示し、母親から話を聞くことにした。
おばあちゃんの家で、つい注意が甘くなってしまい…
心配そうに付き添っていた母親は別室に移動を進めた途端に「大丈夫でしょうか? なんでこんなことさせちゃったんだろう…」と自分を責めている思いがにじみ出る発言をした。
やけどを負った状況を聞くと、「おじいちゃんの三回忌で、昨日からおばあちゃんの家に来ていたが、自宅のアパートより広くて、喜んで走り回るというか、動き回っていたんです。『うれしいんだろうな、おじいちゃんも喜んでいるだろうな』などとしか思っていませんでした。
今夜も晩ご飯が終わって、おふろに入って、『さあ寝ますよ』と言っていたころ、若干興奮して走り回りだして、居間に置いていた電気ケトルのコードに足をひっかけたんです。危ない!と思ったと同時に転んで、ケトルも倒れ、その瞬間にお湯がこぼれて、あっという間にお湯をかぶってやけどしてしまったんです。おばあちゃんに言われて浴室で必死に冷やして、どこに受診すればわからなくて、救急車を呼んだんです」と、最後は涙ぐみながら話してくれた。
話を聞きながら、「また、電気ケトルか! やっぱり里帰り中だな」とあらためて思った。
「やけどの程度としてはひどくはないのですが、やけどした範囲がやや広いので、安静がいちばん。数日入院して、皮膚を消毒して保護し、感染しないように気をつけるようなやけどの治療を行いましょう。
また、やけどした箇所から分泌液が多量に出るので、チェックしながらナトリウムやカリウムなどの電解質を数日補充しましょう」と説明すると、母親は「ぜひきれいに治してください」と言い、入院に同意してくれた。
5日後には患部が乾き、外来通院に切り替えに
入院5日目になると、ずいぶんとやけど面が乾燥してきた。一部Ⅱ度部分がジクジクしていたが、外来通院で大丈夫と判断して、退院を決めた。
母親は「自宅ではいろいろ気をつけていたのですが、おばあちゃんの家で、つい、注意が甘くなっていました。今後は気をつけます」と言っていた。
赤ちゃんのやけどの応急処置
電気ケトルによるやけどが多発しています。里帰り中は要注意!
やけどの程度は、
Ⅰ度:赤くなる程度
Ⅱ度:水ぶくれ・皮むけ(皮下表層と深部とに分類)
Ⅲ度:毛穴などもなくなり、白くなり痛みも感じない
という状態に分けられます。
電気ケトルによる熱傷は、里帰り中など、親の注意が散漫になり子どもが興奮しやすい日に起こりがちです。
万が一起こってしまった時のために、以下の対応と処置を覚えておいてください。
1. 熱傷は程度が軽そうに見えても、必ず受診して治療を受けましょう。とくに関節の熱傷は専門医への相談が必要です。
2. 応急処置として、最低20~30分間は衣類の上から流水をあてるか、難しい部位は、タオルなどにくるんだ氷、保冷剤で冷やして。民間療法は絶対しないように!
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市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
※監修者情報を補足・修正しました。(2021/11/10)