「大地震では、発生から8秒が生死を分ける!」2歳を過ぎたら親が隣にいない想定で身を守る力をつけて【専門家】
気象庁地震火山部が現在発表している情報によると、今後30年以内にマグニチュード8~9級の地震が発生する確率は70~80%あるそうです。大地震が起きた瞬間、親が子どもの隣にいないことも考えられます。そのとき、子どもはどうすればいいでしょうか? 子どもが自分で自分の身を守る方法とその練習方法について、地震の研究を25年以上続けていて防災対策に詳しい、清永奈穂先生に聞きました。
災害時は8秒で判断が必要!身を守るポーズをどうぶつにたとえて覚えて
――大地震が起きたとき、親が子どもの隣にいなかったら、子どもはどうすればいいでしょうか?
清永先生(以下敬称略) 1995年に最大震度7を記録した阪神・淡路大震災では、6000人以上の人が亡くなり、その約4分の3が最初の12秒で命を落としました。そのことから、「大地震発生直後の8秒が生死を分ける」と言われるようになりました。
未就学児の場合、1人で留守番をさせることはあまりないでしょう。でも、“子どもはリビングでテレビを見ていて、親がその間におふろ掃除をしている”など、大地震が起きた瞬間、親が子どもの隣にいないことも十分考えられます。0~1歳の場合は、親が子どものそばを離れる時間は少ないかもしれませんが、2歳ごろから、子どもが最初の8秒に自らの判断で安全な場所に移動し、安全を確保する練習を始めるといいでしょう。
子どもと練習するときの合言葉は、「さがして(うさぎ)、はしって(ねずみ)、まもるんだ(かめ)」です。キーワードと安全を守るポーズを、動物にたとえてしっかり覚えさせておくことをおすすめしています。
【1】さがして(うさぎのポーズ)
ゆれを感じたら、すぐに「うさぎのポーズ」をとり、安全な場所を探しましょう。
「体がゆれないように、うさぎのように両手・両足をついてしゃがみこみ、上方向、ななめ後ろ方向をぐるりと見まわして、落ちてくる物はないか、家具が倒れてこないか、危険を察知しながら比較的安全な場所を探します。一般的に、室内で比較的安全なのが、机の下や、物が落ちてきたり家具が倒れてくるなどの心配のない部屋の中央、部屋のすみ(角)。玄関も柱が多いので、物が落ちてこない環境なら安全度が高いです」(清永先生)
【2】はしって(ねずみのポーズ)
低い姿勢のまま、ねずみが前のめりに走るイメージです。「ねずみのポーズ」で、比較的安全な場所に素早く移動しましょう。
「低い姿勢をキープすると、ゆれている中でも転びにくく、机の下などにもぐりやすくなります。机の下にもぐったときは、机がガタガタ動かないように、机の足を対角線に持つといいでしょう」(清永先生)
【3】まもるんだ(かめのポーズ)
移動したら、かめが甲羅の中に頭をひっこめるイメージで「かめのポーズ」をとりましょう。
「体を小さく丸め、両手は首の後ろに回して指をしっかり組みます。両手を首の後ろに回すのは、頸椎(けいつい)を守るため。頸椎はダメージを受けると命にかかわる可能性があります。
両手で頭を守る『だんごむしのポーズ』も有名ですが、頭は頭蓋骨にある程度守られているのに対して頸椎は無防備のため、私は『かめのポーズ』をおすすめしています。頸椎を守りながら、同時にひじで耳もふさぐことで、鼓膜(こまく)などへのダメージも防ぐことができます。カバンやノートなど、かためのものがあれば、それらで頸椎をガードしてもいいでしょう。
また、2011年の東日本大震災は強いゆれが約3分続きました。ゆれが長い場合は、『かめのポーズ』から時々『うさぎのポーズ』に戻り、周囲の安全を確認し、必要があれば『ねずみのポーズ』でより安全性の高い場所に移動することも大切です」(清永先生)
2歳ごろが始めどき。遊び感覚で地震から身を守る練習を
――練習は、どのようにすればいいでしょうか? 子どもが怖がってしまいそうです。
清永 「地震だ、パン!ごっこ」と題して、遊び感覚で練習するのがおすすめです。親が、「地震だ!」と言って両手を「パン」とたたいたら、練習のスタートです。2歳ごろが始めどき。0~1歳は親が子どもを抱っこして、親が自分と子どもの身を守る練習をしましょう。
練習の手順として、まずは、親が「ここなら安全」という場所に立って「地震だ、パン!」と合図します。8秒以内に子どもが親のところまで、ねずみのポーズで走って来られるかやってみましょう。親が家のどこが安全か把握しておくことと、そこまで子どもがすばやくたどり着けるかがとても大切です。
次に家族が家の中の別々の場所にいる想定でスタートします。たとえば、ママはおふろ掃除、子どもはリビング、パパはトイレなど、家族が別の部屋にいると想定し、各自が8秒で「さがして(うさぎ)、はしって(ねずみ)、まもるんだ(かめ)」の動きをとる練習をします。
2歳ごろの子にはまだ「8秒」の感覚がないので、親が8秒カウントしながら、お菓子の空き箱やペットボトルなど、音が出る物を落としてください。大きなゆれで物がバタバタと音を立てながら落ちている中でも、パニックにならずに動く練習になります。8秒の感覚を子どもの体にしみこませるために親が声に出して8秒数えることを繰り返し、次に子どもと目を閉じて数える練習を反復するのもいいでしょう。8秒で動けるようになったら、かめのポーズを30秒→1分→2分と伸ばして練習しましょう。大地震は何分も続くことがありますが、「ゆれは、いつか終わる」ことを学べます。
また、小さいテーブルの下にもぐっている場合は、テーブルがガタゴト動かないようにテーブルの足を対角線に持ったり、何もないところでかめのポーズをとっている場合は、「もう一度うさぎのポーズで、後ろを見てみよう」と声をかけて、安全を再確認する練習もしてみましょう。慣れてきたら、キッチン、寝室、階段などと、場所を変えて練習を繰り返して。日ごろの練習が、もしものときに役立ちます。
探検感覚で、災害時のリスクを探してみよう
――「地震だ、パン!ごっこ」以外に練習しておいたほうがいいことや準備したほうがいいことはありますか?
清永 「地震だ、パン!ごっこ」が終わったら、「危ない場所ぶらぶら探検」をするのがおすすめです。
家の中に、割れやすいものや落ちてきそうな物がないか、探検感覚で探します。意外と子どものほうが「これ、落ちてくるんじゃない?」と見つけてくれます。探検しながら、散らかったおもちゃをカンガルーのようにピョンと跳び越える遊びもやってみましょう。割れたガラスをふまずに避難する練習になります。危ない場所を見つけたら、その場で修正します。すぐに直せない箇所は、シールなど印をつけて、できるだけ早く対策しましょう。
また、地震で割れたガラスが散乱しているところをはだしで移動するのは危険なので、いざというときのためにすべての部屋に靴やスリッパを準備しておくことも大事です。
取材協力/岩﨑書店 取材・文/大部陽子、たまひよONLINE編集部
「理想は、各部屋に、物が落ちてこない、飛んでこない、倒れてこない、動いてこない安全なスペースを作っておくこと」と清永先生。一度、生活ゾーンの安全を見直してみましょう。また、みそ汁を飲むときに「今、地震が来たらおててがアチチになるね」と、やけどのリスクを教えるなど、日ごろから親子で「もしものとき」について会話し、日常に潜む危険を意識することも大切だそうです。
●記事の内容は2024年8月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『おおじしん、さがして、はしって、まもるんだ: 子どもの身をまもるための本』
子どもが1人のときに大地震が来たら、子どもはどのように自分の身を守ればいいかを、親子で読んで学べる絵本。練習方法や、日ごろから親子でやっておきたいことも。清永奈穂 文・監修 石塚ワカメ 絵/1430円(岩崎書店)