就学時健康診断は、子どもの予防接種歴を確認するチャンス。受けもれているワクチンありませんか?【小児科医】
「小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#45は、来春の小学校入学前に、秋に行われることが多い就学時健康診断についてです。就学時健康診断は、新たな集団体験に入る前に心身状態を把握するために行われますが、太田先生は「予防接種の受けもれをチェックすることも大切。とくにMR(麻疹風疹混合)ワクチン第2期と、日本脳炎のワクチン接種は済んでいますか?」と言います。
MRワクチンと日本脳炎ワクチンの接種は済んでいますか?
秋になると、来春小学校1年生になる子どもたちを対象にした就学時健康診断(以下、就学時健診)が行われます。この健診は、学校保健安全法という法律に基づき、子どもたちが健康で楽しい学校生活を送ることができるようにあらかじめ心身の状態を把握するためのもので、千葉市では11月に行われます。
就学時健診に際して、健康調査票を提出しますが、今までのワクチン接種歴記入欄もあります。健診を受診する子どもたちは、ちょうどMR第2期の接種対象学年なので、千葉市では、大事なワクチンの接種の接種し忘れが起きないように保育園・幼稚園を通して接種調査と、保護者へは接種勧奨を行っています。そうした中でも健診当日までにはまだ接種が終わっていない子も散見されるため、健診当日に、医療者から直接保護者にワクチン接種のお願いの話をする時間を作ってもらっています。
コロナ禍で、ワクチンの未接種が少し増えている状況に
このような対応は、まだ国内での麻疹流行があったころに始められており、その成果として、毎年95%を超えるワクチン接種率になっていました。しかし、コロナ禍で若干未接種者の増加傾向が出ており、残念ながらまだこの勧奨活動を辞められない状態です。
今年は埼玉、東京では感染源不明の麻疹患者が複数出ており、今後患者が増えないか心配です。就学時健診当日までに接種が終わっていない子どもたちには急ぎ接種をしてもらいたいので、まだ未接種の家庭には市が用意してくれた予診票を持ち帰ってもらっています。
こうしている就学時健診をしているうちに気づいたのが、日本脳炎ワクチンの未接種者が多いことです。千葉県ではここ10年で3人発症。そのうち1人は1歳前の発症で重症でした。ここ数年見つかった未接種者数はMRワクチン未接種者以上。今後、年少患者の出ないことを願って、この子たちの場合にも予診票を持ち帰ってもらい早期接種を促しています。
日本脳炎にかかってしまった人の多くが重症化
日本脳炎は1960年代までは毎年数千人の発症者がいましたが、環境改善や、ワクチン接種がいきわたり、今や年間10人に満たない人数に減っています。
もう日本脳炎のウイルスがいなくなったのならいいのですが、実はそうではありません。発症者は少なくても、かかってしまった人の多くが重症で死亡者も出ています。感染には、ウイルス宿主の豚と蚊が関係しています。ウイルスを体内に持つ豚の検査では高率に感染例が見つかる地域があり、日本中でパラパラと患者が出ています。ウイルスを持つ豚を蚊(コガタアカイエカ)が刺して、その蚊が人を刺してうつし、発症した場合は命をかけた戦いを強いられているのです。
日本脳炎発症者が出たときには、その周囲にいた約1000人が体内にウイルスを持っていると言われています。発症しないためにはワクチン接種が必須です。一般的には、3歳から始めればと言われているワクチンですが、実は生後6カ月を過ぎれば定期接種ができます。
日本脳炎ワクチンはとても有効性が高いので接種さえしていれば発症しないで済みますが、
「ワクチンさえ接種していればねえ」とならないためには、定期接種対象の7歳半までに3回の接種が済ますことが肝要です。
以前から患者が多い西日本、養豚が盛んな地域(九州、首都圏、北海道など)、近年患者が発生していている地域(熊本、千葉、茨城、広島、静岡、岐阜など)では、低年齢で接種を済ませておくとより安心です。そして、近年は人の移動も頻繁に行われるようになっているので、どの地域の子どもでもワクチン接種を済ませることが大事。2023年に発症者が出た静岡県では、低年齢での発症者が出ないように、3歳未満での積極的接種をすすめることになったそうです。
構成/たまひよONLINE編集部
就学時健診を受けるときには、ぜひ今までの予防接種歴を振り返ってみましょう。太田先生は「とくに、定期接種年齢対象のMR、かかると重症になる日本脳炎が未接種ならこの機会に接種を済ませて入学式を迎えましょう」と話します。
●記事の内容は2024年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。