脳性まひで車いすのママの子育て。壮絶な出産を経験、1歳なった娘のためにできること・できないことの苦悩も【体験談】
脳性まひのため車いすで生活をする千葉絵里菜さん。2021年の東京パラリンピックでNHKの障害者キャスター・リポーターを務め、現在は北海道でラジオパーソナリティとしても活躍しています。2024年2月に生まれた娘の茉里(まつり)ちゃんは1歳2カ月を迎えました。「たまひよONLINE」では、約1年前の産後2カ月ごろの絵里菜さんにも話を聞きましたが、今回はこの1年の育児を振り返り、育児の様子や1歳になった茉里ちゃんの成長について聞きました。全2回のインタビューの前編です。
この1年、家族やヘルパーさんたちとともに子育てしてきた
絵里菜さんは1歳のころに脳性まひがあることがわかり、両手両足にまひがあることから幼児期から車いすでの生活を送っています。2021年に大恋愛の末結婚し、2024年2月に待望の赤ちゃんを出産しました。
「重度訪問介護」の制度を利用して、交代で訪問してくれるヘルパーさんたちと、家族と一緒に茉里ちゃんの育児をしている絵里菜さんは、この1年を振り返り「茉里にかかわるみんなが成長した1年だった」と話します。
「私がどうやったら娘のお世話をすることができるかを、みんなで考えて試行錯誤しながら過ごした1年でした。
新生児から生後半年くらいまでの時期は、まだ娘の体も小さかったし動きも少なかったから、私もいろいろと娘のお世話ができました。車いすに座った私のひざの上にヘルパーさんに授乳クッションを置いてもらい、そのうえに娘を寝かせてもらってミルクを飲ませたり、ベッドにいる娘の上体を少し起こして寝かせたままミルクを飲ませたり・・・。
車いすに座った状態で自分で抱っこひもを使って抱っこしたり。ヘルパーさんたちは、育児の主体が私になるように、どうすればできるか、どうすればやりやすいかを工夫をしてサポートしてくれていました。
今は大学で福祉を学ぶ学生ヘルパーさんも7人ほど来てくれています。学生ヘルパーさんたちは赤ちゃんとかかわるのが初めてという人がほとんどのようです。娘と過ごしながら学生ヘルパーさんたちも赤ちゃんのお世話に慣れて、娘と一緒に変化していく様子を見ることができた1年でした。学生ヘルパーさんたちと娘のかわいらしいやりとりは、とってもほのぼのとしていてほほえましいです」(絵里菜さん)
現在は学生・パートタイム・フルタイムなど数名のヘルパーさんが3交代制で絵里菜さん宅を訪問し、1日トータルで15時間ほどサポートしてもらいながら生活しています。
「早朝に学生ヘルパーさんが来て掃除や洗濯をしてくれます。日中のヘルパーさんは、娘の離乳食を準備してくれたり、娘に食事させるのを手伝ってくれたりします。また、私は週2回リハビリに通っているので、その時間はヘルパーさんは私と娘に1人ずつついてもらっています。私のリハビリ中は、娘はヘルパーさんと子ども用リハビリルームで過ごしています。
春から保育園入園を考えていたんですが審査に落ちてしまって、今は待機児童の状態です。娘も動く範囲がどんどん広くなってきたので、今後私の週2回の通院リハビリの間は、近所の保育園の一時保育を利用しようかなと考えています」(絵里菜さん)
育児方針などを家族やヘルパーさんたちと共有することも大切にしているそう。
「娘はまだ1歳。ものごとのいい悪いもよくわかっていないので、できるだけ『ダメ』とは言わないであげてほしい、などの育児方針を情報共有することは大事にしています。危なくない範囲で、娘にはいろんな経験をさせてあげたいからです。
この1年、みんなに助けてもらって娘を育てながら、私も成長できた1年でした」(絵里菜さん)
スマッシュケーキやファーストアートで1歳をお祝い!
1歳を過ぎた茉里ちゃん。最近ではつかまり立ちや伝い歩きをするようになり、意志表示も強くなってきたのだそうです。
「発育発達に問題はなく、よく食べてすくすく成長してくれています。今、体重は8kgくらい。最近はかなり主張が激しくなってきました。たとえば、お気に入りのおもちゃをずっと手放さずに遊んでいて、『ごはんの時間だから片づけようね』と預かろうとすると怒って大泣きします。
『本を取って』と言うと取ってくれるくらい、コミュニケーションも取れるようになってきました。1歳の誕生日プレゼントに買ってあげた、アンパンマンの手押し車を押し歩いて遊んでいるので、ひとり歩きできる日ももうすぐだと思います」(絵里菜さん)
2月の茉里ちゃんの1歳の誕生日は、3日間かけてお祝いをしました。
「1日目は親せきで集まってお祝いしました。おもちをついて丸い一升もちを作り、私のおいっ子が一升もちを背負ったときのリュックを借りて、一升もちを入れて娘に背負わせました。おもちが重くて娘は転んでしまったんですけど、泣きませんでした。普段から、よほど痛いときでないと泣かない子です。
2日目は自宅で、ベビー用のおすしとスマッシュケーキでお祝い。スマッシュケーキは、食パンをスポンジ代わりに、水きりヨーグルトを生クリーム代わりにして作る、赤ちゃんが手づかみして食べられるケーキです。楽しそうに食べてくれました。
そして3日目にはファーストアートにチャレンジしました。ファーストアートは、キャンバスに絵の具を点状に置いてジッパーつき保存袋に入れて、赤ちゃんが保存袋の上から絵の具をたたいたりのばしたりして遊んで作るアートです。
私の好きな紫とピンクの絵の具で、娘に作ってもらった初めての親子合作!? 2つ作って、飾ってあります。とてもいい思い出になりました」(絵里菜さん)
パパも茉里ちゃんをでき愛しているそうです。
「夫は毎日だいたい18時ごろに帰宅するので、それ以降の時間の育児はパパの担当になっています。帰宅するとすぐに娘をおふろに入れてくれて、ミルクを飲ませて、寝かしつけも夫がしてくれます。その寝かしつけ方が独特なんです(笑)
夫は趣味でベースギターを弾くんですけど、娘を抱っこひもで抱っこして、その下にベースを構えて弾きながら寝かしつけしています。ベースの音が子守歌代わりになっているのかも(笑)。こんな寝かしつけ方、なかなか聞いたことがないですよね。立って抱っこすると、寝つきやすいみたいです。夫は娘が寝たら、ベースを下ろして、抱っこひもをはずしてそっとベッドに寝かせています」(絵里菜さん)
車いすに興味を持った子には見たり触ったりさせてあげたい
絵里菜さん一家が暮らす帯広市は、冬は雪に包まれる地域。自宅以外の子どもの遊び場は車いすママにとってはどう感じるのでしょうか。
「冬の時期は雪が多くて外遊びができないんです。雪遊びをするにはスノーウエアが必要だけど、今買っても来年は着れなくなると思うともったいないなあって。今年の冬は外で遊ばせることなく終わりました。帯広には、子どもの屋内遊び場があまり多くないので、冬の間遊ばせられるようにもう少し増えてくれたらいいな〜と思っています。
子どもの屋内遊び場は、当たり前ですがほとんど土足禁止なので、車いすで入ることはできません。そういうときは夫が娘を遊ばせているのを、私は入り口からのぞくように見ています。もしくはヘルパーさんに車いすから降ろしてもらい、座位保持して娘の近くにいるか・・・。できるだけ付き添いたいけど、環境面で難しい場合もあります」(絵里菜さん)
子どもの遊び場に行くと、絵里菜さんの車いすに興味をもった子どもたちが近寄ってくることも。
「お子さんが車いすに近づくと『危ないよ』と声をかける保護者の方もいますし、『触ってもいいですか?』と聞いてくれる保護者の方もいます。私は自分自身が出産する前は『危ないよ』と言われたら『危険がないように操作しているから大丈夫ですよ』と言っていたと思います。でも、親になって考えてみると、車いすは鉄のかたまりだし、子どもは予想のつかない行動をするものだから、けがをしないように注意をする気持ちはわかる、と思うようになりました。
車いすに興味を持ってくれた子には、近くで見たり触ったりしてほしいと思っています。小さいころから車いすの人と触れ合うことって、すごく大事なことだと思うからです。車いすユーザーは周囲の人に危なくないように注意して操作していますので、そのことを知ってもらえるとうれしいです」(絵里菜さん)
お話・写真提供/千葉絵里菜さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
絵里菜さんとのオンライン取材中、ヘルパーさんと遊ぶ茉里ちゃんのかわいらしい声が聞こえてきました。すくすく育つ茉里ちゃんの姿に、周囲の人たちみんなが笑顔になっているようです。
後編では、車いすママとして子育てする中で感じる葛藤や、絵里菜さんが社会に知ってほしいことなどについて聞きます。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年3月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。