LD(学習障害)の行動特性(症状)と診断方法、サポートの仕方
LD(学習障害)は、「読む」「書く」「計算する」の学習のうち、特定の学習の習得に大きな困難を示し、努力してもなかなか学習効果が上がらない障害です。「読む」「書く」「計算する」のいずれか一つに困難を示す場合もあれば、複数に著しい困難を抱える場合もあります。計算は得意だけれど音読は苦手など、得意不得意に偏りがあるため、かえって障害に気づいてもらえず「努力不足だからできない」と思われてしまうことがあります。
LD(学習障害)の特徴は? どんなサインが?
LD(学習障害)は、Learning DisordersまたはLearning Disabilitiesという英語の単語の頭文字を使ったことばで、日本語では「学習障害」と呼ばれています。LDは発達障害の一つであり、知的な遅れがないのに、ことばの読み書きや計算、図形の理解などのうち特定の領域で極端に苦手な状態を示すものです。小中学生の3〜4%にLDがあると言われています。
LDの中心となるのは、文字の読み書きに大きな困難さを抱える「ディスレクシア」です。教科書などを音読するときにすらすらと読むことができず、文字を書くときも鏡文字(左右が反対になった文字)になったり、形が似ている別の字と間違えることが多くあります。知的な遅れはなく、会話などにも支障はなく、また文字の読み書き以外のことはじょうずにできることが多いため、「文字の読み書きが苦手なのは、努力が足りないからだ」と思われがちです。しかし、これは誤解で、本人は努力しているにもかかわらずほかの子どもと同じような成果を上げることができていないのであり、「頑張ればできる」と励ますことは、本人に大きな苦しみを与えることになります。LDの約8割はこのディスレクシアです。
計算や証明問題に著しい困難を伴う障害も
LDのおよそ8割は、読み書きに関する障害であるディスレクシアですが、計算が極端に苦手な算数障害(ディスカリキュリア)と呼ばれるタイプの子どももいます。苦手分野の偏りは一人ひとり異なり、苦手の程度も個人差があるのです。
LDは乳幼児期での発見が難しい
LDは、就学後、学習の遅れが目立つようになる中で、保護者や学校の先生が気づきます。子ども本人は決して勉強を怠けているわけでもないのに、理解が大きく遅れてしまうことを周囲が疑問に思い、児童精神科などへの受診につながり、LDが発見されるのです。そのため、就学前にLDがあることがわかることは難しいといえます。ただ、LDの子どもがADHD(注意欠陥多動性障害)などほかの発達障害を併せ持っている場合があり、そのような子どもは先にLD以外の障害が気づかれることがあります。
LD(学習障害)の原因は? 育て方との関係は?
LDは、ほかの発達障害と同じように、生まれつき脳の一部の働きが不十分であるために起こる障害だと考えられています。文字の読み書きに著しい困難さを抱えるディスレクシアの場合、後頭葉や側頭葉の一部に働きが活発ではない部分があることがわかっています。視覚や聴覚に問題はなく、知的な発達にも遅れはないのに、文字の読み書きが苦手なのは、文字を認知する脳の機能の活動が低下しているからだと考えられているのです。
LDは、脳の一部の機能が十分に活動しないために起こるものであり、親の育て方や接し方、生まれ育った環境などが原因で起きるものではありません。
LD(学習障害)は周囲から正しく理解されにくい障害
LDでは、本人はまじめに学習に取り組んでいるのにもかかわらず、期待される学習成果を上げることができません。そして、周囲はLDに気づく前に「勉強が足りないからだ」「もっと努力すればできるようになる」と本人の学習への取り組み方に原因を探しがちです。しかし、学習時間を増やしても根本的な解決にはならず、学習の成果はなかなか上がらないため、次第に子ども本人が「いくら頑張っても自分は勉強ができない」と学習そのものへの意欲を失ってしまうことがあります。原因は本人が努力しているかどうかではないことに周囲が早く気づいてあげることが大切です。
LD(学習障害)の治療、LDの子への対応方法
LDの原因となっている脳機能の不具合を薬や手術で根本的に治すことはできません。脳の機能が十分ではなく、苦手となっていることについては、学習方法を工夫することで克服していくことが大切です。
文字を読むことに苦手がある場合、本人に無理に教科書を読ませるのではなく、ほかの人が音読したものを録音しておき、それを繰り返し聞くことで内容を理解することができます。文字を書くことに苦手がある場合は、ノートに書く代わりにパソコンを使ったり、板書を写す代わりに先生の説明を録音して家でも内容を確認できるようにしたりするなどです。子どもによって、抱えている苦手とそれを解決する方法は異なりますので、言語聴覚士などの障害児教育の専門家と相談しながら、本人に合った学習方法を考えていくことが大切です。
苦手なことを無理強いすることで学習意欲が失われる
LDの子どもは、時間をかけて勉強したり、繰り返し練習すれば学習効果が上がったりするというものではありません。本人は十分努力をしているのに、さらに周囲から「もっとやりなさい」と努力を強いられると、勉強そのもののやる気を失ってしまいかねません。努力で解消できる障害ではありませんから学習の方法を工夫すること、そして、苦手の克服ばかりに目を向けるのではなく、好きなことを得意なことに取り組む中で、学習そのものへの意欲を持続させることが大切です。
日本では、LD(学習障害)への理解はまだまだ不十分
海外ではLD、なかでもディスレクシアへの理解は進んでおり、大学入試などで不利にならないように、問題を読み上げてくれる補助者を伴うことを認めている国もあります。文字の読み書きはあくまでも学習を進める上でのツールであり、そのツールを使いこなすことが苦手な人には、代わりのツールを使うことを認めればよいという考えです。日本でも、LDと診断されていれば、大学入試センター試験で試験時間を延長するなどの配慮がなされるようになっています。
しかし、欧米などに比べると、日本ではまだまだLDに対する理解は十分に広まっているとはいえませんし、学習に極端な困難さを抱えている子どもがいても、本人の努力の問題だと考えてしまう傾向があります。しかし、LDの子どもは、努力だけを強いていても効果は上がりませんが、適切なサポートを行い、学習の仕方を工夫すれば、学習の成果を上げることができます。教室にパソコンを持ち込んだり、授業を録音をしたりといった工夫はあくまでも一例ですが、本人の特性に合ったサポートを学校や家庭が協力し、子ども本人の気持ちも聞きながら考えていくことが大切なのです。
(取材・文/たまひよONLINE編集部)
監修/榊原洋一先生
東京大学医学部附属病院小児科医長、お茶の水女子大学副学長などを務める。「子ども学」の研究のため、ベネッセコーポレーションの支援のもと設立されたCRN(チャイルド・リサーチ・ネット)所長。発達障害など子どもの心と体の研究の第一人者。お茶の水女子大学名誉教授。