東ロボくんの母・新井先生に聞く!AIに負けない子を育てるには脱YouTube!
AI技術の発展で、便利なAI家電が当たり前のように家電量販店に並んでいます。今やスマホを持たないママ・パパは少数派でしょうし、ロボット掃除機や子どもの見守り用モニターなど、AIは私たちの生活に身近なものになりつつあります。
そんな中、子どものITリテラシーを高めたいと、幼いうちからパソコンやITデバイスを使って、プログラミングなどのIT教育に力を入れたいと思う人もたくさんいるでしょう。
しかし、IT教育の専門家で、数学者でもある新井紀子先生は、こう言います。
「プログラミングは子どもが好きであれば、小学生くらいから始めてもいいでしょう。でも、それよりももっと大切なことがあるんですよ」
AI時代を生き抜くために、早期IT教育よりも大切なこととは? 一体なんでしょうか?
幼少期はITよりリアルな世界が大切
新井先生が、幼少期の子どもの育て方について最も大切だと考えているのが「リアリティーに接する経験を増やすこと」「語彙量を増やすこと」だと言います。
「いくら、IT知識を身につけても、AIができることを人間がしようとしたら、AIに勝てっこありません。たとえば記憶力で言えば、AI技術を使えば国会図書館にある全部のデータがパソコンに集約されて、そこからあっという間に情報が検索できる時代。人間にとって大切なのは、情報を記憶することではなく、リアルな体験を積み重ねていること。リアルな世界を子ども時代にどれくらい体験しているかどうかが、1を聞いて10を知る能力となるのです」(新井先生・以下同)
子どもにリアルな体験をさせたいなら、「AI家電に頼りすぎることは避けたほうがいい」と先生。便利なAIを使いこなすことよりも、アナログな体験のほうが実感を得やすいとのこと。先生が教えてくれた、子どもにリアルを体感させる3つの方法とは?
その1:電車に乗るときにICカードは使わない
「今はどこに行くにもPasmo やSuicaといったICカードを使いますよね。買い物もできてすごく便利なんですけど、お子さんと一緒のときはできれば、”現金で切符を買う”ということをしてみるのがおすすめです。
算数を学ぶことの基本は、そもそも、人と富を分け合うということにあるんですよね。だから食べ物を家族3人で分けるという感覚とか、お金をいくら出せばいくらのものが買えて、どこまで行けるという感覚をリアルに持っていることが大切。10円玉10枚で100円という概念がわからないと、3ケタの計算を学ぶモチベーションもなくなります。
ICカードでなんでもピッ!と買うのではなく、『お菓子は300円以内ね!』などと金額を決め、子どもに選ばせてみるのもおすすめ。自然と算数の感覚が身につくのがベストです」
その2:AIスピーカーではなく大人の会話を聞かせる
「アマゾンのAlexaやグーグルのGoogleアシスタント、アップルのSiriなど人工知能を使ったバーチャルアシスタントが人気ですよね。でも、AIスピーカーはすでにデータとしてある情報を処理して答えを導き出しているだけで、自分で会話の意味を考えて判断しているわけではありません。
たとえば、『27−17=?』と聞いたら『10』と答えは出せるけれど、『どうしてそうなるの?』という問いには答えられない。人間に大切なのは、なぜそうなるのかを考えること。
Alexaに宿題の答えを聞いたり、Alexaと話すのがいちばん楽しいと感じたりするようでは、人間独自のクリエーティビティーという能力は決して磨かれないのです。子どもは大人の会話をたくさん聞くことで、語彙量が増えていきます。語彙はリアリティーと結びつくことで、教科書を理解するための読解力や、クリエーティビティーへとつながっていきます」
その3:YouTubeを見るならマンガを読んだほうがいい
「YouTubeで動画を見ていると、関連動画が次々と出てきますよね。1人で何時間でも楽しめます。でも、子どもの語彙力を育てるものとしては、適していないといえます。
昔、大家族で1台のテレビを見ていたころは、自分が見たくない大人の番組、たとえば時代劇なんかを見るともなしに見ていることで、水戸黄門の『この印籠が目に入らぬか!』の『印籠』なんて普段の会話で使わない言葉でさえ記憶していたわけです。
でも、それがYouTubeになると、自分の興味の範囲でしか情報を得られないから、電車が好きな子は電車の言葉しか入ってこない。常識としての世代を超えた共通の語彙が育まれないわけです。
語彙量がいちばん多く載っているメディアが本や新聞、次にマンガと雑誌。ゲームとYouTubeの語彙量は、本に比べて10分の1程度です。小さいお子さんなら、絵本もいいですね。絵本で“ぞう”を覚えて、今度は動物園で本物の“ぞう”を見る。子どもは絵本の“ぞう”と、動物園の“ぞう”が同じものだということがわかる。これはAIにはできないことです」
デジタルネーティブと呼ばれる今の子どもたちは、ITデバイスに慣れるのが驚くほど早いですよね。1才代でタブレットをスワイプする、3才代でYouTubeを見たがる、という子も珍しくありません。親はついついAI家電やデジタル機器に頼ってしまいがち。そんな親の姿を、子どもはしっかり見ています。そんな時代だからこそ、あえて子どものうちはリアルな世界を一緒に楽しむことが大切。将来、AIをうまく活用できる人、AIを使って新しいものを生み出す人に育てるためにも、“子ども時代はリアリティー”、その言葉を忘れないようにしましょう!(取材・文/玉居子泰子、ひよこクラブ編集部 撮影/なべ)
■監修:新井紀子先生
数学者。国立情報学研究所センター長・教授。人工知能「東ロボくん」研究開発プロジェクトのディレクターを務める。著書は『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)など多数。