視機能の発達とは? 子どもの「視力」と「脳の発達」の深い関係を知っておこう
「視力の発達」と聞くと、ほとんどの人が「眼球の発達」と考えがちですが、実はそれだけではありません。赤ちゃんの視力は見た物が「脳」に正しく伝わることで発達します。つまり、脳の発達が大きく関わっているのです。子どもの「視力」と「脳」の深〜い関係について、前橋ミナミ眼科副院長の板倉 麻理子先生にお話を伺いました。
月齢&年齢別 赤ちゃんの視力と見え方の特徴
生まれたばかりの赤ちゃんの視力は、物の形がぼんやりと見える程度です。生後1ヶ月くらいには、目の前で手を振ると手の動きを認知できる「手動弁」と言われる程度の視力になります。その後の視力の平均的な発達は下の図の通り。
3歳までに急激に視覚が発達し、視力は3歳で0.6〜0.9くらいに。5歳で大人とほぼ同じ1.0以上となり、6〜8 歳の時期に完成します。
■視力発達の目安
視力の発達に影響する「目」と「脳」の関係
上のような視力の発達は、何によって進むのでしょうか?それには2つの大きなポイントがあります。
視力の発達ポイント1 目に映った物が「脳に正しく伝わる」ことが基本
目の前にある物は、眼球の角膜(かくまく)、水晶体(すいしょうたい)などを通って、網膜(もうまく)にピントが合った後、その情報が視神経を通って脳に伝わります。
視力の発達には、網膜に対象物が「くっきり映る」ことが欠かせません。それによって、網膜に映し出された映像が視神経を通って脳に正しく伝わり、自然と脳が発達して視機能が発達します。つまり、「見える」とは「脳が刺激を受けて発達する」ことなのです。
もし映像がボヤけていると、脳を正しく刺激することはできません。ピントが合った映像信号を脳に伝えることが大切です。
最も発達が進むのは3歳くらいまでですが、その後もしっかり見て脳を刺激することで視覚の発達は促され続け、5歳くらいに1.0になり、6~8歳でほぼ完成します。この視覚の発達の完成は、脳細胞の発達の完成時期と連動しています。
視力の発達ポイント2 両目で同時に見ることで「遠近感」や「立体感」が育つ
私たちの目は左右2つあり、両目で物を立体的に見ています。右目と左目はほんの少しずれた映像をとらえていて、その2つの映像が同時に脳に送られます。すると、脳の細胞は2つの映像を重ね合わせて、遠近感や立体感のある映像として認識するのです。
両目で物を見る機能を「両眼視(りょうがんし)機能」と言います。視力と同じように「両目同時にピントの合った映像を脳に送る」ことで発達して、6歳くらいで完成します。
物をくっきり見ることができないと「弱視」に
視力が発達するこの時期に目の病気・異常・けがなどにより「物をくっきりと見る」ことが妨げられると、視力の発達は遅れ「弱視(メガネやコンタクトをしても視力がでないこと)」になってしまいます。視力は6〜8歳で完成しますが、それを過ぎるといくらピントの合った映像信号を脳に伝えても、あまり反応しなくなり、視力の回復が見込めないことがあります。
でも、3歳頃に視力の異常を発見して治療を開始、継続することができれば、小学校入学までにほとんどが0.8以上の視力になり、学校生活で問題ない状態にまで発達させることができます。子どもの弱視は早い時期に発見し、治療を行うことが何より重要です。
視力と脳の発達のために、赤ちゃんにしてあげたいこと
視覚の発達には、ピントの合った映像信号を脳に伝えることだけでなく、その映像のイメージを形成して分類し、理解することが必要です。映像が見えても、それが何なのか理解し、表現できるようになるためには、視覚に関連した「記憶」が大切です。目で見る、体を動かす、音を聞く、まわりの物や人が動くなどの情報が同時に脳に伝わることで、視覚に関連した「記憶」はどんどん蓄積していきます。
一方、スマホやテレビは小さな画面をじっと見続けるので、かたよった刺激となります。脳の正しい発達を促すために、視線を動かしていろいろな物を見て、同時に体を動かす、音を聞くなどの経験が大切です。
少しでも気になることがあるときは、眼科を受診するか、かかりつけの小児科の先生に相談し、必要であれば眼科を紹介してもらうことをおすすめします。
(取材・文/かきの木のりみ イラスト/くにともゆかり)
●この記事は、再監修のうえ、内容を一部更新しました(2022年11月)
たまひよでは「ストップ弱視見逃し」記事をシリーズで掲載しています。