幼児期に積極的に取り入れたい自然遊び 探索や意欲にも重要 専門家に聞く
子どもの五感を刺激する自然遊びは、幼児期に積極的に取り入れたい遊びです。しかし、「近場にあまり自然がない」と困っているママやパパも多いのではないでしょうか。
今回は、そんな自然遊びについて、相模女子大学学芸学部子ども教育学科准教授・金元あゆみ先生にお話を聞きました。
どうして自然遊びが子どもにとって大切なの?
まず、人間は自然なしには生きていけない存在です。2017年に改定された「保育所保育指針」でも、自然とのかかわりを通した育ちの重要性が強調されています。
自然と触れ合う中で、感性や好奇心、探索や挑戦への意欲、想像・創造力などがはぐくまれますが、この中でもとくにいちばん大切にしたいのが“感性”。
人は心が動くものと出会ったとき、もっと知りたいと思います。心動かされた対象に自分から働きかけて性質を知ろうとしたり、年齢を重ねると図鑑などで調べたり、探求する楽しさを味わっていきます。そこで身につけた知識こそが生きた知識となるんです。
知恵や知識というのは、あくまで与えられるものではなく、自分で感じて身につけていくものなのです。
生きた知識を身につけるためには、“感じる”という経験によって作られる土壌が必要となります。
自然と出会うと「これは何だろう?」「きれいだなあ」「不思議。なんでだろう?」「わあ、すごい!」などいろいろな感情が生まれます。つまり自然は“感じる”が生まれる宝庫なのです。
0・1・2歳から自然と触れ合い、感じるという経験を積み重ねていくことで、土壌がどんどん耕されて、幼児や小・中学生になっても知的好奇心がぐんぐん伸びていくでしょう。また、自然の中で出会う植物・生き物と日常的に接する機会をもつと、生命を大切にする気持ちもはぐくまれていきます。
五感を働かせて自然を感じよう!
五感が刺激される自然遊びは、子どもが全身で「感じる」ことができる貴重な時間ですが、どのように五感は刺激されるのでしょうか。おすすめの遊びや声かけとともに紹介します。
■視覚「見つける・見つめる」
探索意欲が盛んな時期は、見つける楽しさや喜び、満足感が得られるような遊びを取り入れていきましょう。自分で見つけたり集めたりした物を眺められる(見つめる)機会ももつと、その喜びが持続し、興味や関心も深まっていきます。
<視覚を刺激する遊び:宝物探し>
お散歩に出て、小石や木の実、小枝、落ち葉等を集めてみましょう。クリアファイルやペットボトル(上部を切り取った物)にひもを通したバッグがあると、見つけたり集めたり眺めたりする楽しさを味わえます。
■聴覚「耳を澄ませる」
子どもは乳児のころから耳がよく聞こえています。心地のいいメロディーやリズムは心をはぐくみます。自然の中にはさまざまな音やリズムがあふれています。聞こえてくる自然の音やリズムを「カサカサ」「ポタポタ」など、擬音語(オノマトペ)にたとえて表現すると、より音への興味が高まっていきます。
<聴覚を刺激する遊び:落ち葉踏み踏み>
公園など、落葉樹の下に落ちている葉っぱを踏んで遊びます。たくさん落ちている場合は集めて葉っぱのシャワーのように上からまいてみたり、飛び込んだり、葉っぱの感触と共に音を楽しみましょう。
踏むときのカサカサという音、ヒラヒラと舞うときの音、飛び込むときのバサーッという音、同じ葉っぱのいろいろな音を楽しみましょう。
■嗅覚(きゅうかく)「においをかぐ」
においは目に見える物ではなくても、記憶として印象に残っていきます。時代の変化と共に、現代人は人工的なにおいに包まれて生活していますが、自然の中にあるにおいに気づいたり心地よさを感じたりする経験を大切にしましょう。
夢中になって遊んだときに出会った土のにおい、草のにおい、花のにおいなど、楽しい経験とにおいが結びつくことで、自然に対する親しみと心地よさを感じていきます。
<ママやパパは嗅覚を意識した声かけを>
「おひさまのにおいがするね」「お花のいいにおい」「どんなにおいがする?」とママやパパが感じたにおいを言葉にしたり子どもに投げかけたりしてみましょう。
また、普段の生活の中でも料理のにおいは食欲を刺激します。生活の中で料理のにおいを感じることは、自然とおなかがすくリズムを作り、食べる意欲をもたらします。
■触覚「感触を楽しむ」
子どもは手を使って世界を探索します。さまざまな感触を味わうことで、物の性質を知ったり好奇心が刺激されたりします。感触のおもしろさと出会うことで、さらに探索意欲が増していきます。また、触れたときの物(植物・生き物)の反応から、力加減や扱い方も学んでいきます。
<触覚を刺激する遊び:木に触れてみよう>
木の幹に触れて感触を楽しみましょう。ざらざら、ゴツゴツ、ツルツル、かたい、ひんやり、あたたかいなど、いろんな感触の違いを味わいます。同時に、「何に見える?」と声をかけると、子どもの視覚も刺激され、想像力もふくらみます。
■味覚「食育へのつながり」
ベランダでも育てられるプチトマトを栽培するなど、身近なところで食べ物を栽培すると、育っていく過程を観察して楽しんだり、育てる大人の姿を見てまねをしようとしたりします。
水やりなど子どもの発達に応じてできることを一緒に行い、楽しみながら栽培に参加できる機会を設けてみましょう。
収穫も一緒に行います。育てた物を収穫して食べる経験は、食物への愛着も相まってよりおいしく感じられるでしょう。
栽培が難しい場合は、地域のいもほりなどに参加し楽しみながら収穫する経験をもつだけでもOK。土の中から掘り起こす楽しさや感激、調理前のおいもの存在感やありのままの姿への驚きなど、心が動かされる体験となるかもしれません。
自然の少ない現代でもできる自然遊びって?
最近は昔ほど自然と触れ合える場所もなく、公園ですらさまざまな制限が設けられていることも…。
とくに都心に住むママやパパたちは、「どうすれば自然と触れ合わせることができるかな?」と悩んでいるかもしれませんね。
しかし、そんなに構える必要はありません。自然遊びだからといって、どこか深い森の中に連れていく、なんてことをせずとも、身近な場所でできる自然遊びはたくさんあります。
まずはお散歩。いつも通っている道でも、意識して歩いてみるといろいろな植物や虫に出会えるかもしれません。風や光を感じるという経験も大切です。「風が気持ちいいね」、「おひさまの光がまぶしいね」などと声かけをするのもいいですね。
また、砂遊びや水遊び、その二つを組み合わせて砂が泥に変わっていく可変性を楽しむ泥遊びも、立派な自然遊びです。
子どもは心を動かされた物に出会ったとき、目をキラキラさせてじっと見つめたり、触ってみたり、その物を感じようとします。
大人になるとそういった感動を忘れてしまいがちですが、子どもを通してそういった感動をもう一度味わえるチャンスだと思って、一緒に自然遊びを楽しんでみてはいかがでしょうか。
(取材・文/大月真衣子、ひよこクラブ編集部)
子どもにただ知識や知恵を教えるのではなく、子どもが「知りたい」と感じられるように自然と出会わせていくことがママやパパの大事な役割です。
季節ごとの自然界の変化や、身近な生き物の存在など、わが子がどんなことに興味をもってどんなことを感じているのかをよく見極め、その子に合った自然とのかかわりをもつことで、より一層知的好奇心が育っていくのかもしれません。
■監修/金元あゆみ先生
(相模女子大学学芸学部子ども教育学科准教授)
保育学・幼児教育学を専門とし、保育園での保育を経験したのち、大学院に進学。昭和女子大学での助教を経て現職。著書に「0歳児のあそび」(ひかりのくに)がある。