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「夕食の記録」が支えたシングルファーザーの生活 周囲の手助けに感謝、今度は自分が一歩踏み出す

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毎日、料理とともに子どもたちの姿を記録していました。(吉田さん撮影)

ワンオペ育児、孤育て、長時間労働、少子化…。長年、妊娠・育児雑誌を制作してきた「たまひよ」ですが、最近取材していると、どうしても日本の子育てが、厳しい問題に直面していると感じてしまいます。

本特集「たまひよ 家族を考える」では、赤ちゃんをとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも育てやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

第二弾の連載は「シングルファーザーを知る」。多くのシングルマザーと同じく、シングルファーザーも育児と仕事の両立に四苦八苦しています。加えて「男は仕事」という固定観念がまだまだ根強いことから周囲に気持ちを吐き出せず、孤独に陥りやすい傾向にあります。

連載2回目では、前回シングルファーザーとして3人の子育ての日々を語ってくださった吉田大樹さんに、日々の生活の中で直面してきたさまざまな課題について伺い、「追い詰められない子育て」のための方法を探ります。

「ごはん写真の記録」が、シンパパ生活を支えていた

吉田さんは妻との別居から10年かけて、だんだん周囲のママ友やパパ友の協力を得られていったそうです。孤独にさいなまれるシングルファーザーも多い中で、その間どのように心の健康を保っていたのでしょうか。

「きっかけは夕食でした。妻が家を出ていって1ヵ月後のある日、昨日の夕食に何を作ったのか、全然思い出せないことに気付いたんです。それくらい怒涛の毎日だったのですが、ふと『なんだか、これじゃもったいない』と思いました。そこで、手帳に夕食のメニューを記録したり、夕食を写真に撮ってSNSに投稿したりしました」

夕食の写真を撮り続けるうちに、せっかくだからと、子どもたちの食事の姿も記録することにしたのだそう。こうして夕食と子ども3人の成長の記録を残すにつれて、だんだん吉田さんは自分の気持ちを整理して、家族4人での生活を受け入られるようになっていきました。

「次に、毎日の家事のモチベーションを上げるために、1ヵ月の中で同じ夕食は作らないとか、レシピを見ずにアレンジにこだわるとか、自分なりの『遊び』を入れて、気持ちが維持できるように努めました。料理以外でも、自分の中で『遊び』を見つけられたら、日々のしんどさが軽減するかもしれません」

また、未来への不安が押し寄せる時、吉田さんは「とにかく寝た」といいます。

「労働関係の問題を扱う出版社にいたので、人間がどのようにメンタルヘルスに不調をきたすのか、一応の知識はありました。心身が健康でいるためには、とにかく寝ることが大切だと思っていました。夜は子どもと一緒に夜9時半には寝て、たっぷり睡眠時間を取るようにしました。おかげでそれほど深く落ち込むことなく、子どもたちともしっかり向き合うことができました」

ひとり親家庭のための支援サービス

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本のひとり親世帯で親が就業している場合の相対的貧困率(所得の中央値の半分を下回る人の割合)は54.6%。OECD平均の21.3%を大きく上回り、日本には経済的な厳しさを抱えるひとり親家庭が数多くあります。

多くのシングルマザー・シングルファーザーと同じく、吉田さんもお金の問題に悩まされてきました。別居後は会社で残業ができず、就労時間が減り、収入が大幅にダウン。しかし、別居中でも籍はあるので、ひとり親が対象となる児童扶養手当を受け取れませんでした。

「離婚した時、役所でいろいろな制度を教えてもらいました。児童扶養手当や就学援助制度など、ひとり親のための制度があることを知り、家計の下支えができました。ただ、家事代行サービスはお願いしたらひと息つけるけれど、『お金がかかるから自分でやったほうがいいな』と思うものも多かったですね。ファミリーサポートもすぐに登録しましたが、残業しても3人預かってもらうと残業代がなくなってしまうので一度も利用することはなく、夜の予定があるときは、実家の協力を仰ぎました。自分たちに必要なサービスを取捨選択して利用した感じです」

子どもが成長するにつれて出費も多くなりますが、吉田さんは周囲のママ友からおさがりをいただいたり、地元の自治体によるひとり親世帯向けの週1回の無料塾を活用したりして乗り切ろうとしています。

「自治体ごとに住宅手当や医療費の助成、入学祝い金、水道料金の減免制度など、さまざまなサービスがありますから、居住区の支援サービスを調べることが大切だと思います」

積極的な情報発信が、みんなの「生きやすさ」につながる

別居当時7歳だった吉田さんの長男も、今では高校生になりました。子どもたちの成長に伴い、学校や進路のことなど、悩みや不安はなかったのでしょうか。

「シングルだから…ということは幸いなことに特になかったです。子どもの人生の選択権は子どもにあると思っているので、親のエゴや過度な期待を押しけることもなく、自由に育ってほしいという思いを持ち続けたことが特段悩んでない原因かと思っています。ただ、男親だけに娘の成長についてはわからないこともありましたが、私の仕事関係の知人が、娘と一緒に生理用品を買いに行ってくれたりなどサポートしてくれました」

前回のインタビューで紹介したとおり、吉田さんは周囲に自分の家庭の事情を進んで話し、理解を得ていました。

「僕のようにシングルファーザーだと公言している人間が、皆さんに頼りつつ、たとえばPTAなどの役員をすることで、『吉田さんがやっているなら、やれるかな』と敷居が下がるようです。世の中にはシングルマザーや、様々な事情を抱える方もいますから、負担を分かち合う関係になっていくことが大切だと思います」

これまでの生活を振り返り、吉田さんが自分と重ね合わせて思い出す過去の事件があります。2013年9月、4人の子どもを育てるシングルファーザーの父親が、5歳の長男に暴行して死亡させた虐待死事件です。

「加害者は、周囲から見るととても頑張っていたパパだったそうです。でも、周囲が『助けてあげよう』というところまでいかなかった。本当にあの事件は考えさせられました。悲劇をくり返さないためにも、周りに悩みを相談したり、それが難しければSNSやブログで発信してみるなど、ほんの小さな一歩でいいと思うんです。思いを形にすることで、自分の中で新たに発見できることもありますし、誰かが手を差し伸べてくれることも絶対にあるはずです」

現在、吉田さんは会社を退職してNPO法人を営むかたわら、ジャーナリストとしての執筆活動も行い、シングルファーザーが生きやすい社会にするためのさまざまな活動をしています。

シングルファーザーやひとり親家庭をめぐる問題は、一朝一夕で解決することではないかもしれません。しかし、吉田さんの言うように、全ての人にとって生きやすい社会の実現を信じて、まずは一人ひとりが一歩を踏み出すことが大切です。

吉田大樹さん(プロフィール)
NPO法人グリーンパパプロジェクト代表理事。労働・子育てジャーナリストとしてYahoo!ニュースなどでも発信をしている。現在、内閣府「地域少子化対策重点推進交付金」審査委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザー。

(取材・文 武田純子)

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