「Stay Home」 母娘をつなぐ美しい楽曲に心癒される。緊急事態宣言の中、世界7か国語で配信
新型コロナウィルスの感染拡大により、外出自粛はまさしく今が正念場。好天気のGWでもみんなが家の中で我慢する日々に、ミュージシャンが動画で演奏を配信してくれる機会が増えています。その中で、日本と欧州に離れた音楽家の母と双子の娘による、「Stay Home」という心を揺さぶる演奏が静かに話題となっています。
作曲した「母」にリモートでインタビューをしました。
Mother in Japan、Daughters in Austria、離れた母娘をつなぐ即興の歌
「Stay Home」。この曲を作ったのは、音楽家の秦万里子さん。国立音大や米国バークリー音楽院出身という経歴ながら、「半径5メートルの日常を歌う音楽家」として、主婦の日常を歌にした楽曲と、ライブでの即興演奏などで話題を呼びTV等に出演。発達障がいの娘の子育て、親の介護などの経験から、教育や福祉の現場での音楽活動も続けています。その秦万里子さんに聞きました。
――Stay Homeの曲を作ったきっかけは?
秦さん(以下敬称略) 2020年が明けたとき、まさか世界がこのような状況になるとは、誰も予想していませんでした。今、医療従事者の方や、この新型コロナと毎日戦っていらっしゃる方々には感謝の言葉しかありません。そして私にできること、みんなにできることは、言い尽くされた言葉ですが、「家にいる」こと。
でも家にいることで、心が波立ってしまう、心配になる、フラストレーションがたまる。世界でDVが増えてくる、国と国とが牽制し合う、これでは終息は遅くなるばかり、長引くばかり…と感じました。そこで、心を鎮めて、収まるのをそっと家で待ちましょう、そして最前線の方々に、私たちはこうやってあなたを応援しますと意思表示をしたい、そんな気持ちで曲を作りました。試行錯誤をせずに、思いを1回歌ってみたら…この曲ができていました。
離れていても娘たちとあうんの呼吸でつながっている
――日本にいる母と、海外にいる娘たちがオンラインでつながっている姿が印象的でした。
秦 双子の娘は今、オーストリアにいます。まりほは、オーストリアのウィーンでミュージカルの勉強をしていて、今年卒業の予定です。まりなは、しばらくウィーンで勉強していましたが、今年からイギリスに拠点を移し、演劇の勉強を始める予定です。今は娘たちに直接会えませんが、今回、音楽でつながることができたと思っています。
――リモート(遠隔)で演奏することで気づいたことはありますか?
秦 彼女たちは小さい時からわたしの伴奏で歌ってきているので、すでにあうんの呼吸が存在していると思いますが、その呼吸を感じられないネットでの合奏なので、テンポを一定にして彼女たちのそばに伴奏者がいなくても歌いやすいように意識しました。生演奏では音楽は合わせるのが大変なので、テンポを変えずにピアノを録音、送信、彼女たちはそれをイヤフォンで聴きながら歌い、その動画をこちらでピアノの音源と画像にあわせて編集をしてもらいました。
一番大事なのは、離れていても信頼しあっているかどうか? ではないですかね。音楽的に…の前に人間として彼女たちの存在を心から愛おしいと思っていますし、この世界的な危機の中、娘たちがなんとか頑張って生きていることを感謝しています。それがこの合奏にでていたらと思います。
自国の言葉で聞いて欲しいから7カ国語で伝える
――7か国語で配信した理由を教えてください。
秦 GW期間中に、英語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、オランダ語、アラビア語の7カ国語で歌って配信していきます。イタリア、スペイン、オランダ、アラビア語を担当するのは、レネケ・ヴィレムセンという、女優であり、歌手であり、プロデューサーで、彼女はまりほの歌の先生の一人でもあります。もともとオランダ人は多くの言語を話す人が多く、彼女も例外ではありません。
各国で大変な思いをしながら最前線でお仕事をなさっている方々に、そして自粛生活でフラストレーションが溜まってしまう方々に自国語で聞いていただきたいと思いました。この歌は英語とメロディがほとんど同時にできたものなので、西洋の言葉とよく合います。だから日本語バージョンはないのです。
――この曲を妊娠中の人、赤ちゃんがいる家族にはどんなふうに聞いてもらいたいですか?
秦 何もしないこと、外に出ないこと、は簡単なことではありませんね。人間は、様々な世界で生きています。木の声を聴いて、花の香りも感じたい。だって春ですものね。友達と話したい、遠くのご両親に会いに行きたい、人間ですものね。でも、今は家の中にいることで、人助けができる大事な時です。ただ家族でも、ずっと一緒に居るのは、エネルギーがぶつかって当たり前。おもわず、早くここから出たい、出られないなんて我慢できない…そうなると思います。
この曲で、そんなちょっとトゲトゲした気持ちがすうっとどこかに流れたらいいと思っています。私は、子守唄のように聞いていただいて、気持ちよく、心おだやかに家の中で皆様が過ごせますようにと、祈るような気持ちです。
お母さんたちは、今は大変な時だと心から思いますが、お子様にも、おなかの赤ちゃんにもお話ししながら聞いていただけたら幸いです。
取材・文/たまひよONLINE編集部
秦万里子
音楽家 3歳からピアノを始める。学習院(初等科~女子高等科)、国立(くにたち)音大ピアノ科、バークリー音楽院へ進み、帰国。2010~12年、NHK「歌うコンシェルジュ」の司会として出演後、ワイドショーのコメンテイター、審査員としてフジテレビ系列「芸能界特技王決定戦 TEPPEN ピアノ部門」などを務めた。現在、コメンテイターとしてTOKYO MX「モーニングCROSS」やラジオなどに出演中。