赤ちゃんを泣きやませるために「抱っこして、歩く」は科学的に正しい・行動神経科の専門家
育児中に、ママ・パパが何気なくしている「抱っこして歩き回る」という行動。多くのママ・パパがどうして同じような行動をするのでしょうか? また、その行動によってどんな効果が得られるのでしょうか? 子育ての中には、科学的に効果が実証されていないことが数多くありますが、このような子育て効果を科学的に実証しようと研究を重ねているのが、東邦大学医学部解剖学講座微細形態学分野 助教の吉田さちね先生。専門は行動神経科学です。自身もママ。吉田先生の“子育て研究”に、「ひよこクラブ」が迫りました。
抱っこして歩くと赤ちゃんはすぐにリラックスする!
授乳やおむつ替えをしても赤ちゃんが泣きやまない場合、多くのママ・パパが抱っこして歩き回ったり、ゆらゆらしたりすると思います。
吉田先生が共同研究グループの一員として携わった2013年発表の研究では、抱っこして歩くと赤ちゃんがリラックスするしくみの一端が解明されました。
「多くのママ・パパは、抱っこやおんぶをして歩くことで、赤ちゃんが泣きやんで眠りにつきやすいことを経験的に知っています。同じような行動はライオンやリスなど、人間以外の哺乳類にも見られます。母親が赤ちゃんを口にくわえて運ぶと、子どもはまるくなって運ばれやすい姿勢になり、おとなしくなります。これは“輸送反応”と呼ばれています」(吉田先生)
どうして運ばれている子どもがおとなしくなるのかは、これまで科学的にわかっていませんでした。
そこで、生後6カ月以内の赤ちゃんとママに協力してもらい、ママに赤ちゃんを抱っこした状態で30秒ごとに“座る・立って歩く”という動作を繰り返してもらい分析したところ、以下のような結果が得られたとのことです。
「ママが歩いているときは、座っているときに比べて赤ちゃんの泣く量が約10分の1になりました。また、赤ちゃんの心拍数が歩き始めて3秒程度で顕著に低下することがわかり、赤ちゃんがリラックスすることを科学的に証明することができました」(吉田先生)
本能的に赤ちゃんはママに協力している!
輸送反応を調べるために、さらに人間と同じ哺乳類である、離乳前の赤ちゃんマウスでも解析。マウスの場合は赤ちゃんの首のうしろを親が口でくわえて運ぶため、マウスの首の後ろの皮膚をつまみ上げて調べました。すると人間と同様に、自発運動や心拍数が低下したそうです。
「マウスには超音波で母親を呼ぶ習性があるのですが、この超音波の発生も約10分の1に低下しました。
赤ちゃんマウスが運ばれやすい姿勢になっておとなしくするのは、運んでくれる母親に協力するためであると考えられます。もし、運ばれているときに赤ちゃんが大きな鳴き声を上げたり、暴れたりしたら、敵に見つかって危険な目にあうかもしれません。自分たちの命を守るために、親子が協力し合っているのでしょう」(吉田先生)
監修/吉田さちね先生 取材・文/ひよこクラブ編集部
赤ちゃんを抱っこして歩き回ることにも、きちんと科学的に意味があることだと知ると、育児に向き合う気持ちも変わってきそうですね!
2020年6月4日現在、吉田先生は「生活スタイルの変革中における子育て家庭の生活リズム調査」を行っています。
外出自粛・リモートワーク・休園など、生活スタイルが急変する中で、妊婦の方や未就学児がいる家庭の生活リズムやストレスレベルがどのように変わるのか調査します。
保護者の方に睡眠計測ができる腕時計タイプのセンサーを貸し出し、普段の生活やストレスについては無記名のアンケートへの協力をお願いしています。
2021年3月末日までが応募期間です。興味のある方はぜひチェックしてください。
【生活スタイルの変革中における子育て家庭の生活リズム調査】の詳しい調査方法や申し込みは、東邦大学の吉田さちね先生ご担当「おやこ研究」ホームページからできます。
吉田さちね先生(よしださちね)
Profile
東邦大学医学部解剖学講座微細形態学分野 助教 理化学研究所脳科学総合研究センターや東京大学の研究員、JSTさきがけ研究者を経て、2014年より現職。専門は行動神経科学、発達生理学。親子の絆を科学的に解明しています。