【小児科医リレーエッセイ 15】 子どもたちは大人をよく見ています。そして成長するのはあっという間です
「日本外来小児科学会リーフレット検討会」の先生方から子育てに向き合っているお母さん・お父さんへのメッセージをお届けしている連載の第15回です。今回は東京都・板橋区で開業29年を迎える萩原温久先生がご自身を振り返りながら最近感じていることをお寄せくださいました。
クリニックに来た子どもに年齢を聞くと、その子の個性や保護者との関係もわかります
長崎生まれですが、気づいた時には現在地にあった古い建物の玄関の前に立っており、それ以前のことが思い出せずにいます。周囲から「砂浜でよく遊んだ」と言われますが、その情景がまったく浮かびません。いわゆる幼児期健忘ですが、その影響もあり診療に訪れた2~3歳の、とくに一人で座って診察できる子どもたちには必ず「何歳?」と尋ねます。子どもたちの反応や個性、たとえばうつむいて黙っている子や逆によくお話しする子、診察が終わったとたんにほほ笑む子など、それぞれの特徴や発達状況ばかりでなく、保護者との日常のやり取りを知るうえで、今ではとても貴重な習慣になりました。
子どもの成長は著しい。子どもはある日突然、クリニックで泣かなくなります
ここ数年「ワクチン・ラグ」が解消され、生後2カ月から複数の予防接種を受けるようになりました。こうした子どもたちにとって、私たちは“恐ろしいイメージ”しかないことでしょう。ことに生後9カ月健診のころは「人見知り」「保護者(母親)の姿が見えない時の不安感と後追い」が特徴です。そのようなときには、お母さんに「こんなに泣き叫んでいる子でもある日突然、泣かなくなる」と話します。
先日、「早くそんな姿が見たい」と言うお母さんがいましたが、次の受診日には泣かずに済み「本当だ」とうっすら涙をためて感激していました。そんな時、私は「悟りを開いたんだろう」とつぶやきながらハイタッチします。でも、そんな子どもたち実はかなり緊張しており、それを一人ひとりの心拍数から想像するのも楽しみの一つです。
5世代にわたって診察している家族がいますが、子どもたちからはパワーをもらえます
父の代から数えて今では5世代目に当たるお子さんを診ますが、その子も小学2年生になりました。年を重ねて得する?のは、いつのまにかおじいさんになれることです。
昔は朝の目覚めがさわやかでしたが、年を重ねるごとに寝起きは必ず身体のどこかしらが痛くなります。老眼も強度を増し、子どもたちが「これ見て」とおもちゃを目の前に出してくれても、いったん離してくれないと細部が確認できません。
でもこの仕事が続けられるのは、笑っていても泣いていても、子どもたちから毎日パワーをもらっているからだと思います。
ネット検索で不確かな情報に頼るより、かかりつけ医に相談を
最近では、あふれるほどの情報がインターネット、SNSで入手可能です。でもネットによる正しい情報はせいぜい10%程度で、ことに上位検索では正しい情報は得られないばかりか、もともと気になることを検索するので不安を増す(あおる?)ものしか頭には入りません。そんなことより目の前にいるお子さん、家族の症状や様子をメモしたり、呼吸状態やせきの様子などをスマホで録音・録画して、かかりつけ医に相談するほうが手っ取り早いと思います。
子どもは大人をよく見ています。お手本になる行動をとりたいものです
雨の日に狭い道で、傘をさした者同士がすれ違うときには、互いに傘を外側に斜めにすれば気持ちよくスッと通れます。こういった「しぐさ」は、道徳の問題ではなく、相手を思いやる気持ちから自然に出る行動です。電車に座ってスマホ操作に集中すれば、お年寄りがいても気づきません。人通りや車が少ないからといって赤信号で道路を渡る姿を見せてはいけません。「○○したほうがいい」と諭す側のわれわれ大人が子どもたちのお手本にならないといけません。案外“いじめ”も大人同士のほうが多いかもしれませんね。子どもはとかく大人が力を入れて教えることは覚えずに、瞬間耳にしたことや目にしたものをインプットする天才なのです。
私の母は、お年寄りなら必ず伴うひざや腰などあちこちが痛むようですが、頭脳明晰で口達者です。記憶もしっかりしており、2年ほど前に「そろそろあなたが持っておきなさい」と言って、きり箱に入ったへその緒と母子健康手帳を渡されました。出生時の体重と身長以外は真っ白でしたが、ありがたいことです。
文/萩原温久先生(萩原医院・院長)
長崎県に生まれ、1958年に東京都に転居。1979年川崎医科大学卒業後、同付属病院小児科学教室に入局し、副医長(講師)を最後に1991年に東京都板橋区で開業。35歳のときに右足首を骨折するまでラグビーを続ける。2019年の日本開催RWCを存分に観戦。「自分の身内と思って診療する」が信条。