「産後の妻は見るからにボロボロでした」男性育休を取ったパパ二人が実感した意義と課題
ニュースやドラマでは耳にするものの、男性の育休取得はなかなか進まない現状があります。そこで、実際に育休を取得した伊美裕麻さんと土屋貴裕さんに、経験者として感じた「男性育休」の課題や、それをどう乗り越えたのか、取得によるメリットなどについて話を聞きました。
育休取得には仕事の自動化や標準化も必要
――育休取得をはばむ要因として、職場に言いにくい雰囲気を感じる人は少なくありません。
育休を決めて職場に報告をしたときの様子や、業務の引き継ぎなどで大変なことはありませんでしたか?
伊美さん(以下敬称略) 報告をしたときは、みんな喜んでくれました。私が勤める会社は定期的に部署の異動があるためメンバーや業務の入れ替わりは比較的よくあることですが、業務の引き継ぎはきっちりやりました。
あとは引き継ぎしなくても作業が回るように自動化をしたり、チーム外のだれかに任せる、ということもしました。日ごろから仕事を効率化しておくことが大事ですね。
土屋さん(以下敬称略) 私も喜んでもらえたので安心しました。私の会社はフルリモートワークでメンバー約700人のほとんどが女性です。育休取得者も多いので、そもそも自分だけに依存するような仕事を持たないようにしています。だれでもできるようにするのが仕事だと思っています。
きっと男性育休取得は当たり前になる
――日本の男性の育休取得率は2019年度の厚労省の調査でわずか7.48%。制度自体の認知度も低い現状です。実際に2人はどう感じていますか?
土屋 業種にもよるかもしれません。私はベンチャー企業の技術職(エンジニア)なんですが、仕事やインターネットのつながりだと、男性育休の認知度はかなり広まっている実感はあります。
ただ、私が住んでいる岐阜市周辺では、近所の人や同級生と話しても浸透していないと感じますね
伊美 男性育休がニュースなどで取り上げられることも増え、数年前よりは話題になっていると感じますが、初めての出産を控える職場の女性に聞くと、制度を知ってはいても、無意識に「うちの夫は取らない」と思い込んでしまっている印象を受けます。
――令和2年12月15日に閣議決定された「全世代型社会保障改革の方針」では「男性の育児休業の取得促進」の方向性が打ち出され、今後は民間企業にも男性育休取得をうながす見通しです。法制度のバックアップに加え、育休の取得率を上げるには何が必要でしょうか?
伊美 上司や身近な人が少しずつでも取得して経験者が増え、「よかったよ」と部下や友人に伝えれば、それまで考えていなかった人にも「育休を取る」という選択肢が生まれると思います。
土屋 単純に職場のだれかが取っていたら取りやすいですよね。育休経験者が増えることで、きっと「育休は取って当たり前」になる瞬間がくると思います。
育児・家事・仕事はチーム夫婦で考えるべき
――男性育休が広まらない原因として、男性=仕事、女性=家事・育児というジェンダー問題の根深さもあります。2人は、夫婦の家事・育児分担に対してどう考えていましたか?
土屋 私の父は家事を何もしない人ですが、僕自身は家事・育児は妻と完全にシェアしたいと思っています。意識が変わったのは、昔勤めていた職場が「男が働いて女は家を守れ」みたいな文化で、それになじめず転職したことがきっかけです。自分のパートナーにはそういう思いをしてほしくない、と考えるようになりました。女性の社会進出をかなえるには、男性の家庭進出も同時進行する必要があります。
伊美 妊娠・出産は女性にしかできないことで、産後の体がしんどいのも女性です。
私の妻も産後、睡眠不足と疲労で見るからにボロボロでした。新生児育児は1人に任せるには激務過ぎますよね。
ワンオペ育児は、長時間残業・徹夜・休日出勤が常態化した過酷な労働状況と同じ。代わりがきかない状態が続き、ストレスと疲労がたまる一方です。
育児・家事・仕事、どれも夫婦2人のチームでどううまく回すかを考えると、出産する女性とのバランスを取るためには、男性が休んで育児をやるのが必須だと思います。
家事・育児のシェアはリスクマネジメント
――では、育休を取得してよかったことを教えてください。
土屋 私は妻の産後すぐから1年弱の育休を取りましたが、育児のスタートダッシュを一緒に切れたのは大きいと感じます。どちらも家事・育児ができるので、万が一相手に何かトラブルがあってもなんとかなる状態。それがお互いのストレス軽減に大きく影響しています。
もし、ワンオペで妻だけ育児レベルが上がると、どうしても甘えてしまうので。2人ともできる状態じゃないと結局片方が負担することになってしまいます。
一緒にいる時間が長いと、そのぶんけんかも多くなったりはしますけどね(笑)。
伊美 確かに、けんかはしますよね(笑)。でもそれもプラスの効果があると思います。私たちは育休期間に、食い違う価値観や考えをすり合わせて話し合いを重ねたので、これからの生活を安定して快適に過ごすための土台ができたと思います。
夫婦も別々の個人なので、合わないことは大前提。対話を投げ出して衝突するだけでは、いつまでも平行線のままですよね。
育休取得でストレスコントロールもできるように
――育休中にお子さんや家族と過ごした経験は、復帰後のキャリアにどんな影響がありますか?
土屋 仕事の急なトラブルにストレスを抱えがちな性格でしたが、ストレスコントロールやアンガーマネジメントができるようになり、あわてず対処できるようになりました。
イレギュラーなできごとの連続である育児と比較すると、仕事のトラブルは全然です。そもそも赤ちゃんには日本語が通じませんから、言葉が通じればなんとかなる、と思えますね(笑)。
伊美 息子とのかかわりもそうですが、妻と向き合って話し合うことで、コミュニケーション力や、意思決定のスキルがついたと思います。
たとえば子どもに見せるテレビの時間をどうするか、という日常のこまかいことも、意外と価値観が違ったりするので、2人で話して決めて実行して、を繰り返しています。
お話・写真/伊美裕麻さん、土屋貴裕さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
1996年度の統計開始以来、男性の育休取得率は0〜6%台で低迷してきましたが、ここ数年でやっと少しずつ増加の傾向が見られ始めています。男性の育休取得が進むことが女性の働きやすさにつながり、家族が助け合える生き方につながるのではないでしょうか。
伊美裕麻さん(いみゆうま)
Profile
千葉県在住。通信事業会社で子ども向け事業のプロダクトマネージャーを担当。副業で株式会社キャスターで採用代行事業プロダクトのマネジメントも行う。育休に関するメディア「YASUMO」(https://yasumo.me/)を運営。2020年3月、土屋さんとの共著で『育休はじめてガイド』を制作。
Twitter:@13imi(https://twitter.com/13imi)
土屋貴裕さん(つちやたかひろ)
Profile
岐阜県在住。700人以上がリモートワークで働く組織 株式会社キャスターにてソフトウエア開発、採用関連の仕事を担当。2020年3月、伊美さんとの共著で『育休はじめてガイド』を制作。
Twitter:@corocn(https://twitter.com/corocn)