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高血圧症での死産をきっかけに「悲しい思いをする人を1人でも減らしたい」。日本初のプレコンセプションケアセンターの設立に尽力【専門家】

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●写真はイメージです
west/gettyimages

「女性やカップルに、将来の妊娠のための健康管理を提供すること」を目的に始まった「プレコンセプションケア」。現在、妊娠を考える人だけでなく、若い世代の健康を守るためにも注目されています。国立成育医療研究センターで日本初のプレコンセプションケアセンターの設立に尽力し、スタンフォード大学に留学した三戸麻子先生に、日本とカリフォルニア州の相違点などについて聞きました。三戸先生がプレコンセプションケアの大切さを実感したのは、ある悲しい出来事がきっかけだそうです。

妊娠を考えている人だけでなく、より若い世代にも考えてもらいたい「プレコンセプションケア」

――「プレコンセプションケア」とはどのようなことでしょうか。

三戸先生(以下敬称略) コンセプション(Conception)は「受胎・妊娠」を意味します。プレコンセプションケアとは、女性やカップルがより健康になり、元気な赤ちゃんを授かるチャンスを増やすこと、さらにすべての人がより健康な生活を送ることをめざします。妊娠中の人だけでなく、将来妊娠を考える人や、産後の人、若い人も、きちんとした生活習慣を身につけ、健康を維持していこうという考えです。

――三戸先生はもともと腎臓高血圧内科が専門だったとのことですが、プレコンセプションケアの重要性を考えることになったきっかけを教えてください。

三戸 2011年、高血圧症をもつ22歳の妊婦さんを担当したのがきっかけです。仮に美春さんとします。もともと美春さんは妊娠前から高血圧だということは言われていたようなのですが、大きな自覚症状がありませんでした。だから高血圧は妊娠に関係ないだろうと考え、高血圧についてとくにケアをすることもなく妊娠をしました。
美春さんとしては結婚→妊娠→出産が当たり前のことで、妊娠したら出産できるだろうと考えていたようです。ところが、妊娠前から高血圧があると、妊娠後に症状が悪化することがあり、おなかの中の赤ちゃんに十分な栄養や酸素を与えられなくなります。そして本当に残念なことに、美春さんの赤ちゃんは妊娠中期に死産となってしまいました。
おなかの中の赤ちゃんは薬などを使って分娩しなくてはならない、そして赤ちゃんは亡くなっているのに分娩することで母乳も出てきます。
美春さんのつらそうな様子は、担当医師として私にも大変つらい経験になりました。妊娠前のケア、病気の管理がいかに大切かを強く感じました。

その後美春さんは、健康管理をきちんとした結果、血圧は正常にコントロールでき、2年後再び妊娠し、今度は元気な赤ちゃんを無事に出産することができました。

――「無事に出産するためには妊娠前から健康でいることが大切」だと感じる出来事です。

三戸 「妊娠するためには健康に気をつけることが大切」と多くの人は漠然と考えています。でも、具体的に何をしたらいいかまではわからない、実際に意識して行動している人は少ないのではないでしょうか。また、調べていくと、日本では若い世代が婦人科を含めた健診を受診する機会が少ないなど、まだたりない部分が多いと感じました。そこで、妊娠を考えている人、産後の人、将来妊娠を考えるであろう若い人など、妊娠をキーワードにすべての人たちに情報を届けようと、2015年に国立成育医療研究センターで日本初のプレコンセプションケアセンターをみなで立ち上げました。

「自分を大切にしよう」と思えることが、プレコンセプションケアの第1歩に

――三戸先生がアメリカに留学されたのは?

三戸 アメリカのプレコンセプションケアについて学びたかったからです。以前から「妊娠前の女性の健康が大切」ということは、世界中で言われていましたが、国家政策として推奨されたのはアメリカが最初で、2006年のことでした。そういう意味でプレコンセプションケアはアメリカ発祥といわれることもあります。

――実際、アメリカではプレコンセプションケアの考え方は浸透していますか?

三戸 アメリカは州ごとに法律が違い、性に対する考え方、方針なども異なります。そのため、個人的にはアメリカ全体としてとらえると、プレコンセプションケアや性教育に関して先進的ではない印象を受けました。
とはいえ、アメリカではただ情報を発信するだけでなく、当事者にその情報を届ける努力をしているように感じます。たとえば、アメリカには「show your love today」という当事者に正しい情報を届けるサイトがあります。そのサイトでは、インフルエンサーなどの有名人がアンバサダーとなり、「健康的なプレコンセプションケアを意識した生活の大切さ」を発信しています。こうした取り組みにより、多くの人に影響を与えているようです。

――先生が留学されたカリフォルニアでのプレコンセプションケアに対する考え方はどうでしょうか?

三戸 2021年10月から2023年3月までカリフォルニアのスタンフォード大学に留学しました。カリフォルニアでは、プレコンセプションケアの考え方が進んでいると感じました。日本と比べ、女性も男性も「自分のことが好き、自分を大切にしよう」と思う気持ちがきちんとある印象です。
たとえば、生理痛がつらい場合、日本だと、ついがまんしたり、なかなかそのことを他人に言わなかったりする印象があります。一方で、カリフォルニアでは、「今日は生理痛だから部活を休みます」など、若い人もフランクに言えているように思います。プレコンセプションケアにおいて「自分を大事にしよう」と思うことはとても重要です。自分のことを大切に思えたら、ほかの人のことも大切にしよう、理解しようという気持ちに、よりつながるのではないでしょうか。家庭にもよるかもしれませんが、カリフォルニアでは、親世代も子どもの身体に不調があった場合、受け入れる準備がある気がします。親だけでなく、近所の人も顔見知りの子どもに相談されたら聞いてあげようという受け皿があるように思いました。

日本でも社会全体でケアしていく体制を作りたい

――スタンフォード大学に留学された経験をもとに、日本でも新しい取り組みをされるそうです。

三戸 私は高血圧が専門で、日本妊娠高血圧学会で仕事をさせていただく機会があります。カリフォルニアでの取り組みを参考に、日本妊娠高血圧学会で「妊娠高血圧ヘルスケアプロバイダー制度」を始めることになりました。高血圧の妊婦さんは、出産をして1カ月健診が終わると、医療関係者とのつながりが切れてしまう人が少なくありません。そのため、医師だけでなく、看護師、助産師、薬剤師、栄養士、保健師等、すべての医療者で妊娠高血圧になった人や家族を支えようという取り組みです。

たとえば、当事者が高血圧とは関係ないことで薬局に行った際、ヘルスケアプロバイダーの薬剤師さんがいたら、ちょっとした健康相談ができるような環境づくりをめざしています。いずれはチェックリストを作り、「こういう症状があったら病院に行ったほうがいいですね」などアドバイスできるようになったらいいなと思っています。今年9月に開催される、第43回日本妊娠高血圧学会学術集会で第1回目の認定講習が開催される予定です。また、当学術集会では、市民公開講座も行われ、妊娠高血圧症候群を経験した女性が集い、意見交換をするなど、知識を得る場にもなっています。

2022年の報告では、アメリカの妊娠前の18歳から49歳の女性が何かしらの理由で定期的に病院に通っていた割合は88%でした。この数字は、ヨーロッパやカナダと比べてそれほど高くありません。それに対し、日本はその現状すらわからない状態です。

日本でももっと、自分の健康について意識する人が増えることを願っています。
もちろん、一人一人が自分の健康に関する知識を持つことは大切です。それと同時に、すべての人が健康で安全な生活を送り、教育を受けられるコミュニティーがあることが重要だと思います。そのうえで、社会全体で人々の健康を支え、医学的に正しいことを伝えていくためにアプローチしていく必要があるでしょう。
「妊娠高血圧ヘルスケアプロバイダー制度」は、妊娠高血圧症候群を経験した女性や家族が対象ですが、将来的には妊娠高血圧症候群だけではなく、ほかの妊娠合併症を経験した人、さらには妊婦さんや産後の人全体を支えられるしくみができればいいなと思います。

お話・監修/三戸麻子先生

取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

まだなじみのない「プレコンセプションケア」ですが、妊娠前に健康管理をきちんとすることはとても大切です。アメリカでは、情報を発信するだけでなく当事者に届けるようにする取り組みがあることも印象的。日本でも、たとえば有名人が発信するなどして、もっと多くの人が健康を意識するようにできればいいと感じます。

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