コロナでまさかのLINE立ち会い出産、いたしかたなかったはずが、家族がひとつに
ワンオペ育児、孤育て、長時間労働、少子化…。長年、妊娠・育児雑誌を制作してきた「たまひよ」ですが、最近取材していると、どうしても日本の子育てが、厳しい問題に直面していると感じてしまいます。
本特集「たまひよ 家族を考える」では、だれもが産み育てやすい社会と、サステナブルなこどものミライの実現をめざして赤ちゃんをとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けします。
今回は「withコロナ時代の出産」について。2回にわけてお届けします。
コロナ対策で、出産時の立ち会いと面会が禁止に
新型コロナウイルスの影響により、一部の病院で出産時の立ち会いや入院中の面会ができない事態になりました。実は筆者である私も、2月中旬に子どもを出産したばかり。分娩台の上にいる間、手を握ったり、飲み物を差し出したりと、夫が献身的にサポートしてくれたおかげで初産を無事に終えることができました。もし夫がいなかったら、どれほど心細かったことか……。しかし、4月に病院を訪ねると妊婦以外は来院を控えるよう案内が出ていました。
そんななか、来院しなくても家族とつながっていられる「リモート立ち会い」が一部の助産院などで始まったと耳にしました。一体どのような状況でお産が行われているのでしょうか?今回は、「リモート立ち会い」を実施した、神奈川県・川崎市のウパウパハウス岡本助産院の院長、岡本登美子先生にお話を聞きました。
初めての「リモート立ち会い」 結果は……?
ウパウパハウス岡本助産院は、日頃からアットホームな空間づくりを大切にしているそうです。そこにまさかの緊急事態宣言。立ち会い出産ができないと知った多くの妊婦さんがショックを受けました。「出産には家族の存在が欠かせない」と考えた岡本先生は、立ち会いができなくても家族のあたたかさを感じられる方法はないかと模索しました。
「まず導入したのが、応援うちわです。家族が笑顔で写っている写真を貼ったうちわを部屋に飾ると、妊婦さんを応援する声がすぐ近くで聞こえるようでした」
そしてある日、助産師として働く女性が岡本先生の助産院で出産することになりました。「デジタル機器を使って立ち合いに近い状況を作れたら、うちわ以上に家族の応援を感じられるはず」と考えた岡本先生は、「リモート立ち会い出産」を提案。当初は前向きな返事が得られませんでしたが、家族とともに出産を乗り切りたいという気持ちから、挑戦することになりました。
家族は「生まれた時間」を確認する係
まず分娩を行う部屋に三脚を立て、妊婦の頭側に設置します。そして出産前にLINEのビデオ通話画面を開き、家族のスマホとつないでデモンストレーションを行います。
いよいよ出産になると、子宮口が全開大になったタイミングで家族に連絡し、「リモート立ち会い」を開始。「赤ちゃんの頭が少しずつ見えてきたよ」「あと○回いきんだら生まれるよ」と、助産師が状況を説明しながら出産を進めました。無事に生まれたら、家族は時計をチェック。生まれた時間を画面越しに伝えたのだそう。この時計を見るという行為が重要だったと岡本先生は言います。
「助産師ももちろん時間を確認しますが、家族にもチェックしてもらうことで一体感が生まれました。パパや子どもたちが大声で時間を叫ぶと、まるで自宅で出産をしたかのようなあたたかい雰囲気になって、助産師の間にも笑顔が広がりました」
初めてのリモート立ち会いは大成功。意外にも、誰よりも大きな声で応援してくれたのはパパだったそうです。「がんばれ!」「もうすぐだぞ!」という声に支えられながら、出産は無事に終わりました。その後「リモート立ち会い」を希望する人が増え、現在は選択肢の一つとして選べるようになっているそうです。
リモート立ち会いで思いがけず「感動」
リモート立ち会いを経験した人から寄せられた感想文のなかで最も多いのは「感動した」という声。「立ち会えないと知って最初はショックだったけど、リモートができたおかげで家族とつながっていると思えた」「夫や子どもとの連帯感を感じられた」という声が、岡本先生のもとに多数届いたそうです。
ウパウパハウス岡本助産院では、妊婦健診・両親学級・産後ケアを行う際にも必要に応じてリモートを導入。感染予防のため妊婦さん以外の来院を断らざるを得ず、助産院に来られなくなってしまったパパのため、超音波検査の様子を画面越しに伝えることもありました。コロナ収束後も、リモートでの立ち会いや診察を実施していきたいと、岡本先生。とくに産後のママのケアにリモートは良い面があったと感じているそうです。
「産後もリモートでつながることによって、産後うつの予防ができるのではないかと感じています。ただでさえ不安なお母さん、来院して相談するのはハードルが高いけれど、リモートならできる、という人も増えそうだと思いました。大病院など、個人の要望に合わせた柔軟な対応が難しい場所では導入できないケースもあるかもしれませんが、私の助産院では今後もリモートを活用する予定です。新しい選択肢として考えてもらえたらと思います」
取材・文/華井由利奈