ほぼすっぴん!私のアパートにイケメン部長が…【小説「ご懐妊!!」Vol.11】
『ご懐妊!!』Vol.11
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。
●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司のイケメン鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜を共にしてしまい、後日、妊娠が判明!不安と途惑いの中、佐波はある決心をし部長に「赤ちゃんがいます」と告げた……、部長の答えは「結婚」、どうする佐波?
三ヵ月
そんな和泉さんのお言葉に甘えて、今週、私は休みをもらっている。そして、この件の冒頭に戻る。ベッドで身体を丸めて呻いていたわけ。
休み初日の月曜日、二十二時過ぎに部長が私のアパートを訪ねてきた。行くとは言われていたけど、ろくに片づけられないまま、初めて部屋に通すことになり、誠に遺憾(いかん)であります。
私は眉毛しか描いてない顔に部屋着。ひどい有り様だ。やっぱり遺憾であります。
「ほら、生きてるか?」
そんなことはお構いなしの部長は、いつもの調子で私にコンビニのビニール袋を手渡す。私はベッドの上でそれを受け取った。
中身はスポーツドリンクがたくさんと、ゼリーやプリン、アイスクリームもある。
あー、普段なら嬉しいラインナップだ。でも今は見るだけで胸が悪くなってしまう。
「和泉さんが、おまえはインフルエンザだと俺に言ってたぞ」
「あ、はい。表向き、それで部長には言っといてくれるって……」
彼は真顔で頭をかく。
「悪いことしたな。和泉さんには、あとで丁重に謝罪しよう」
「はい。それはもう」
「あと、これ見ろ」
部長がクリアファイルをベッドに載せる。それは新居候補の間取りや写真の資料だ。
「わぁ、ありがとうございます。さすが、仕事が早い」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」
新居はこの土日にふたりで見に行くつもりだったんだけど、私の体調を考えて、部長がひとりで探しに行ってくれた。
私たちは何軒分もの資料をベッドに並べて、チェックを始める。
「会社が新宿だからな。通勤のしやすさと、住環境の静かさ重視だ。中古マンションだが、築浅ばっかり選んできたぞ」
「こことかいいですね。駅から遠くないし、公園も近くにあるみたい」
「間取りも悪くないよな。2LDKだ。子ども部屋も取れる。あ、でも……」
彼は言いよどんで黙った。
「なんですか?」
「なんでもない」
「気になるじゃないスか!」
食い下がる私に、部長は歯切れ悪く小声で言う。
「いや……子どもが増えたら……このマンションは手狭だなと……思っただけだ」
子どもが増えたら……その言葉に、私は頬がかあっと熱くなるのを感じた。
「あはは、……気が早いなぁ」
「そ、そうだよな! うん、梅原さえよければ、ここにしよう。俺が先に移り住んで、おまえは体調がよくなったら引っ越してこい」
彼は早口で言い、話を打ち切った。私もなんだか恥ずかしいので、助かった……。
「ところで、体調はどうなんだ?」
「よくはないですけど、部長と話してたら、ちょっと紛れました。ありがとうございます」
「腹で育てるのと産むのは、代わってやれないからな。俺にできることは……する。言ってくれ」
部長、なんだか優しいですね。こうして向き合っていると、あの夜感じた、ぐらっとくる引力を感じてしまう。優しいキスが胸をよぎる。
「あ! 思い出したぞ!」
私の胸の高鳴りを無視して、部長が大きな声を出した。バッグから分厚い本を取り出す。
「これも読んどけ」
彼が出した本には『プレママさんが読む本』というタイトルがついている。
プレママ? ああ、妊婦ってことか。
「妊娠の経過と出産、育児までが簡単にまとめられてる。どうせ梅原のことだ。こんな気の利いた本は買ってないだろう」
「やー、確かに買ってないです。こんな本があることも知らなかったです」
「ちなみに俺はもう、ざっと目を通した。おまえが持っておけ」
自信満々に本を押しつけてくる部長に、私は「はぁ」と気のない返事。
もしかして、部長、ちょっと浮かれてませんか? いや、そんなことないよね。仕事バリバリ精神で妊娠に挑むと、こうなるんだよね。
彼が帰っていき、私は久しぶりに少し楽な気持ちになっていた。
すごい。部長と話したら、身体が楽。もしかしてお腹の赤ちゃんが『パパが来た!』って、つわりを緩めてくれたのかな?
なーんて、私らしくもなくロマンチックな思考。そもそも、赤ちゃんがつわりを緩められるなら、もっと早くそうしてくれて当然だ。だってこのまま私が食事できなきゃ、ベビーだっておまんま食い上げなわけだもの。
ベッドに横になる。
部長が次に来てくれるのは土曜日。今週は忙しいから、夜に来るのは難しいみたい。
この調子なら、次に部長に会うときには結構元気になっちゃってるかもしれない。そしたら、引っ越しの相談をしよう。
来週はクリスマスなんだし、できたてカップルとしてデートでもすべきかな。
うふふとにやけながら、眠りにつく。吐き気は減っていて、私はすっかり油断していた。
つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに
大浦先生アドバイス
妊娠初期、胎芽は卵黄嚢から栄養をもらっています。胎盤が形作られるまで、ここから栄養をもらうため、母体が食事ができなくても赤ちゃんの発達には問題ありません。食べられるものを好きなだけ食べてください。3日たっても食べられなかったり、改善しない場合は主治医に相談してください。夏や暑いときには脱水に気をつける必要があります。水分もとれないときは医師に相談してみてください。
著者/砂川雨路 イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生
この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。
砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。
大浦 訓章先生
Profile
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。現在、周産期メンタルヘルス学会評議員、女性スポーツ研究会理事、2020年産科婦人科学会、医会産科診療ガイドライン作成委員、2023年同評価委員。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。
ご懐妊!!3~愛は続くよ、どこまでも~
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