今日からイケメン部長とふたり暮らし!!【小説「ご懐妊!!」Vol.15】
『ご懐妊!!』Vol.15
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。
●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司のイケメン鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜を共にしてしまい、後日、妊娠が判明!不安と途惑いの中、佐波はある決心をし部長に「赤ちゃんがいます」と告げたところ、部長の答えは「結婚」。途惑いながらも前進しだした佐波は…。
四ヵ月
四ヵ月
妊娠四ヵ月(十二~十五週目)
胎児(十五週末)…十センチメートル、百十グラム
子宮の大きさ…新生児の頭大
年が明け、三週目。成人の日に私は引っ越しをした。
長らくひとり暮らしをしていたアパートを引きはらい、部長との新生活が始まる。引っ越しに伴い、病院も新居に近いところに転院することに決めた。
引っ越しはつわりを理由に、梱包から不用品の廃棄まで全部お任せのパックにした。
だって、本当にまだつわりがあるんだもん。部長の愛読書『プレママさんが読む本』によれば、四ヵ月になるとつわりは軽くなり……なんて書いてあるけど、そうでもない。まだ立派に苦しいし、食事だってジャガイモ系か、トマト系か、レモン系しかとれない。病院からもらった軽い吐き気止めだって飲んでいる。
まぁ、一時の地獄と比べれば軽くなったと言えるけど。
昼には新居に荷物が入った。トラックの助手席が揺れそうで嫌なので、私は電車で移動して待っていた。
なにからなにまでやってくれる引っ越しパック。私の荷物だってそんなにない。
部長も私もやることがなく、ぼーっとキッチンにいるうちに、引っ越し業者は去っていった。整頓された新居にふたりでいると、手持ち無沙汰感が半端ない。
「ちょっと早いけど、夕飯でも食いに行くかぁ」
部長が提案してくれて助かった。
「じゃあ、ちょっとハンカチ持ってきます」
外食の匂いはだいぶ気にならなくなったけど、鼻をふさぐハンカチは必須。私は初めて、ふたりの寝室に入った。あ、ベッドが……ふたつある。
すごく拍子抜けした。ダブルベッドを期待していたわけではない。でも、やっぱり、そうだよね。一緒に寝るわけないか。
「おい。行くぞ、梅原」
部長が顔を出して呼んでいる。私はコートを羽織り、ハンカチと財布をポケットに入れた。
微かな落胆は、なかったことにしよう。
近所のファミレスで向かい合った。時間は十七時過ぎだけど、店内はすでに家族連れで混み始めている。
「部長、マンションや家具の購入費用、ありがとうございました。私も半分出します」
注文を終え、ドリンクバーで飲み物を取ってくると、あらためて私は頭を下げた。部長はコーヒーをひと口飲んで答える。
「バカにするな。俺だって一応、結婚資金くらい貯めてたんだ。充分賄(まかな)えたから、気にするな」
当然とばかりに言うけれど、それなりに貯蓄が減ったことは想像に難くない。部長ひとりに払わせたくないなぁ。
「私だって貯めてましたよ」
「それは式に使おう。あと、これからおまえの給料は、全部貯めておけ。家計費は俺が渡す」
彼は決定事項として言っているみたいだ。
「え? でも」
「急にまとまった金が必要なときもあるだろう。予備費にしておけ」
部長……頼りになりますね。
友達の話だけど、結婚のときにお金の話をしておかなかったせいか、ふたりで自由に遣っちゃって貯金ができないという話を聞いたことがある。
私の旦那さん、堅実でよかったなぁ。って、まだ正式には旦那さんじゃないけど。
「今週末のご挨拶は、予定通り伺ってもいいんだよな?」
「はい。うちの両親、張り切ってました」
今週の土曜日は、遅くなったけど、群馬にいる両親に結婚の挨拶に行く予定だ。婚姻届を出すのも、式の日取り決めも、それからの話。
「なにか好きなものはあるか?」
「えーっと、うちの父はゴルフが好きですけど」
「手土産の話だ、大バカ」
ナチュラルに怒られた。やっぱり、部長はちょっと怖いです。
目の前に来た料理は、本日もフライドポテト。それにトマトサラダ。安定のラインナップだ。
部長は目の前でミックスグリルを食べているけど、匂いはだいぶ気にならなくなってきたと実感する。むしろ、今日はアイスクリームくらいデザートにつけられそう。
「おう。食べられるならもっと頼め」
再びグランドメニューを手に取った私に、彼が言った。
「じゃー、リンゴシャーベットを……」
「食え食え。食べられるっていいことだな」
「本当にそうですね」
「あ、そうだ」
部長がなにかを思い出したように、一瞬宙を仰いだ。それから私をじっと見る。
なんだろう? 私は店員を呼ぶボタンを押しかけて、やめた。
「梅原」
「はい」
「今日からふたり暮らし、よろしくな」
「え!? ああっ! はい!! こちらこそ、よろしくお願いします!」
慌てて額をテーブルにくっつけた。
なんの脈絡もなく、このタイミングで言うとは……。この人、読めない!
つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに
大浦先生アドバイス
つわりで体重が減少したからといって、無理して体重をもとに戻そうとするのはあまりおすすめしません。妊娠初期は体に脂肪として蓄えられてしまいます。少しずつ自然に食べる量を増やしていきましょう。
著者/砂川雨路 イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生
この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。
砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。
大浦 訓章先生
Profile
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。現在、周産期メンタルヘルス学会評議員、女性スポーツ研究会理事、2020年産科婦人科学会、医会産科診療ガイドライン作成委員、2023年同評価委員。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。
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