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子育ての悩みを聞いて欲しい…利用率99.8%のフィンランドの子育て支援とは?【専門家】

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自宅で屋内で妊婦を診察する医療従事者。
※写真はイメージです
Halfpoint/gettyimages

「ネウボラ」という言葉を知っていますか?ネウボラは妊娠期から切れ目なく親子を支えるフィンランドの制度。これを参照した取り組みが日本でも広がっています。いったいどのような取り組みなのか、吉備国際大学保健医療福祉学部 教授の髙橋睦子先生に話を聞きました。

ずっと同じ専門家に、健康と心の相談ができるネウボラ

現在日本では、妊娠から出産・就学前まで切れ目なく親子を支援するための「子育て世代包括支援センター」(以下、包括支援センター)の全国展開が進んでいます。この制度のモデルとなっているのが、フィンランドの「ネウボラ」です。

ネウボラは、フィンランド語で「助言の場」を意味し、フィンランドで1920年代に始まった母子保健・子育て支援拠点のこと。妊婦健診、両親学級、出産後の乳幼児健診や予防接種など、妊娠初期から子どもの就学まで、同じネウボラ保健師が個別に継続してサポートするしくみです。

「妊娠中は10回ほど、出産後は就学まで15回ほど定期的に通い、医療的な健康チェックと30分ほどの個別面談をします。ママや赤ちゃんだけでなく、パパやきょうだいの家族全員が保健師や医師と面談をする機会も設け、不安や気になっていることを相談できます。その中で何か問題が見つかれば、専門機関へつなぐ役割をします」(髙橋先生)

ネウボラの利用や分娩は無料で、妊婦の利用率は99.8%。ネウボラは家庭の状況を継続して把握し、孤立化や産後うつ、虐待の防止や早期発見に役立っているそうです。

「ポイントは親たちから見て、支援者の顔が見えること。ネウボラ保健師は親せきのような近さで、親子の心身の健康と育ちを支える専門家です。親たちが不安や悩みを打ち明けても大丈夫だ、という信用関係を培えると、一歩踏み込んだ支援への糸口になり得るでしょう」(髙橋先生)

フィンランドでは「里帰り出産」はない。パパの育児参加への課題も

フィンランドでは、日本のように出産前後に里帰りをする習慣はないと髙橋先生は言います。

「フィンランド人にとっては“里帰り出産”はすごく変なこと、という印象があるようです。子どもはママとパパで一緒に育てるもの、という考え方がしっかりしていて、里帰りするなんて言ったら『ママだけ出産前後に実家に帰るなんて、そのカップルは大丈夫!?』とカップルの関係性を心配されるでしょう(笑)。

子どもを産み育てることは、“家”ではなく“カップル”のプロジェクトだからです。

仮に里帰りをしたとして、結局自宅へ戻ったあと、ママやパパがしなければならないのは核家族の子育てです。出産前後の時期にパパがほとんどかかわらないことで、赤ちゃんとの関係や父性の形成、ママの心身の変化への理解やサポートといった点で課題もあると思います。

フィンランドでも今の70〜80才代の男性では育児に消極的な人もいましたが、今の30〜40代は“パパが子育てするのは当然”という意識を持っています。これは、私たち日本でも行動変容は可能だということ。あきらめてはいけませんね」(髙橋先生)

SOSを出しやすい、フィンランドのネウボラの核は「対話」

コロナ禍の日本では、産後うつが増えているとも言われます。コロナ禍以前にも、育児の困りごとをどこに相談すればいいか迷った経験がある人もいるでしょう。これにはフィンランドのネウボラの「対話」の形を取り入れることが役に立つのでは、と髙橋先生は指摘します。

「日本での母子保健の考え方は、診察・治療・健康観察などの医療的な側面からのアプローチが長い間基本とされてきました。
乳幼児健診の集団健診などは、支援する専門家側の段取りを中心にシステムが作られ、支援される側のママ・パパたちの声を個別にしっかり聞くこと(対話)が難しい状況だと感じます。
もちろん医療アプローチも大事ですが、子育てをフォローするには、個々のママ・パパたちの話を聞く場が必要です」(髙橋先生)

日本でも乳幼児の虐待死や子育て家庭の孤立化が社会問題となっていますが、その予防としても“対話”による支援は有効だそうです。

「ママたちが抱えるさまざまな困りごとの共通点は、SOSを出しにくいということではないでしょうか。日本では産む体を持つ女性側に自己責任論が強い風潮があります。ママたちが困った時、『あの人に聞いてみよう』とパッと支援者の顔が浮かび、助けを求めるハードルが下がることが大事です。フィンランドのネウボラはそのような面が上手に機能しています」(髙橋先生)

子育ての悩みにはアドバイスより、自分の言葉で語ることが大事

日本では子育ての悩みを保健師や医師などに相談し、アドバイスをもらうことが多いですが、フィンランドのネウボラの「対話」では、保健師が一方的に助言や説明をすることはないそうです。

「親たちが自身のことや子育ての状況について、自分で語れるようにサポートすることが現在のネウボラ保健師の専門性の核です。自分の言葉で話すことは、“主体”になるということ。
自分の言葉で話してみることで少しずつ状況を整理でき、自分ができることを見つけ、自分の強みに目を向けられ、希望が見えてくることが多いのです」(髙橋先生)

確かに、人に自分の相談を聞いてもらうだけでも心が軽くなることはあります。逆に「こうしてみれば」というアドバイスは受け入れにくかったり「それじゃだめよ」などと問題指摘をされると、心理的に追い詰められてしまったりすることも。

「ママたちが心を開いてSOSを発信できるためには、いくらでも泣き言を聞いてもらえる人と場所が必要です。日本の包括支援センターでも妊娠期からの面談支援を始めている自治体もあります。形だけの制度ではなく、ママ目線の支援をしていく必要があるでしょう」(髙橋先生)

取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

お話・監修/髙橋睦子先生

妊娠・出産を経て体だけでなく心も大きく変化するママにとって、困った時に相談できる存在がいることは心強いでしょう。全国の自治体で包括支援センターの設置が広がっています。自治体で利用できる相談制度があれば、ぜひ利用してみましょう。

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