【経済学者に聞く】コロナ禍で世界中の出生数が急減?今後の子育てで大切なこと
新型コロナウイルスの影響で、赤ちゃんが生まれる数(出生数)が世界中で急減しています。日本は新型コロナ前から少子化が問題になっていたので、新型コロナによってさらに出生数が激減したら、経済的にさまざまな弊害が出そうです。結婚、出産、子育てなどを経済学的に研究している、東京大学大学院経済学研究科教授の山口慎太郎先生に、この問題について聞きました。
新型コロナの影響で日本は出生率が14%減。中には20%以上下がった国も!!
日本経済新聞の報道によると、ヨーロッパで最初に新型コロナの感染が広がったイタリアでは、2020年12月の出生数が前年同月比で22%減ったとのこと。スペインは2021年1月の出生数が前年同月比で20%減少。フランスは13%の減少ですが、フランス国立統計経済研究所によると、1975年以来の減少幅となっています。
また、2020年のアメリカの出生数については、アメリカ疾病対策センター(CDC)が前年比で4%減ったという暫定値を発表しました。減少幅が小さいように思えますが、これは約40年ぶりの低水準です。
では、日本はどうでしょうか。2021年1月に生まれた赤ちゃんは6万3742人で、前年同月は7万4672人。14%減少しています。ほかの国と同じく、大幅に減少していました。
――減少幅に違いがあるとはいえ、世界の多くの国で出生率が低下しています。新型コロナによる経済的な不安や、収束の見えないコロナへの恐怖心が原因でしょうか。
山口先生(以下、敬称略) 家族が1人増えたら間違いなく家計費は上がりますから、「コロナ禍で今の収入を維持できるかわからない」という状況では、子どもを作ることに不安を感じるのは当然ですね。また、コロナ禍の中で妊娠・出産することの健康リスクを考えて、妊娠を控えた人も多かったのではないでしょうか。
そうした不安やとまどいなどが、出生数に現れていると考えられます。
――新型コロナ前から少子化が進んでいた日本では、この状況が続くと、2049年には人口が1億人を切る(第一生命経済研究所の分析)という試算もあるようです。人口が1億人を切った場合、どのような不都合が考えられますか。
山口 少子高齢化社会のまま人口が減ると、「働き手が減る=税金と社会保険料が減る」ということになるので、社会保障の財源がたりなくなり、年金や医療、子育て支援などの社会保障が劣化することが考えられます。また、インフラを支えるにはある程度まとまった人数で生活を営んでいる必要があるので、とくに地方はインフラの維持が難しくなるでしょう。その結果、都市部と地方の生活格差が大きくなってしまうことが考えられます。
でも、出生数の急激な低下は、それほど長く続かないと私は考えています。これまでの歴史を振り返ると、戦争や感染症、災害などの渦中は出生数が下がるけれど、その状況が終わると、反動で出生率が上がりベビーブームが起こることが多いからです。新型コロナ前から少子化が進んでいる日本では、大幅に出生数が増加することはないかもしれませんが、コロナ前と同程度までは回復するだろうと予測しています。
出生率を上げるには、“普通の生活”ができる環境を整えることが必須
――コロナ禍で子どもを育てる不安は、経済的なことだけではありません。行動制限によってママと赤ちゃんが孤立化することなども問題になっています。こうした問題が解決しないと、子どもを持つことに積極的になれない気がします。
山口 実は、コロナ禍での子育て支援の弱体化がとても気になっています。感染拡大防止のために保育園・幼稚園が休園になる、公園が使えなくなる、育児相談の場がなくなるなど、子育てをしづらい状況が続いていますよね。
コロナ禍での子育て支援というと、国や政治家は支援金を給付することばかり考えがちですが、それよりも大切なのは、「普通の子育てをできる環境を確保すること」だと私は考えています。
私は内閣府の「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」に参加したのですが、会議の場では「子どもと親ができる限り平時と同じ生活をできる環境を整えるべき」と主張しています。
――欧米では新型コロナのワクチン接種が進み、コロナ前に近い生活ができるようになった国も出てきていますね。
山口 ワクチン接種の普及によって経済活動も回復してきているので、世界の企業業績がコロナ前に戻りつつあります。欧米ではゴールが見えてきたと言えるでしょう。
残念ながら、日本のワクチン事情は相当に遅れているため、まだ「トンネルの先が見えた」は言えませんが、欧米の状況を見ていると希望は持てます。子どもがほしいと考えている夫婦は、ライフプランについてよく話し合い、出産のタイミングを検討していい時期に来ているのではないでしょうか。
出生数が少ない年代の子どもは、競争が少なくて有利!?
――ベビーブームの時期に生まれた子どもは、受験や就職などのときに倍率が高くなって大変だったとよく言われます。コロナ禍で出生数が減っている今、子どもを作ることはメリットもありますか。
山口 出生数が少ない時期に生まれた子どもは、競争が少ない中で生きていけるという考え方はあると思います。それをメリットと考えてもいいのかもしれません。
また、この1、2年は新型コロナの影響で生まれる子どもの数が激減したとしても、その前後の年代に一定数の子どもが生まれれば、将来の社会生活に不具合が出ることはないと思います。
こうしたことを考えると、コロナによる経済的なダメージを受けていない家庭は、「コロナが終わるまで子どもを作るのを待つ」と考えなくてもいいのではないでしょうか。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
新型コロナの影響で急激に出生数が落ち込んでいる現状ですが、その流れがずっと続くわけではなさそうです。経済面で不安を感じることもあるかもしれませんが、家族のライフプランについては、夫婦でしっかり話し合ってみるといいかもしれません。
子育て支援の経済学
山口先生の近著。多くの人が働き方や家族の在り方を模索する今、必要なのは「子育て支援=次世代への投資」という考え方。そのエビデンスが詰まっています(日本評論社)