ペットから人に感染する「ズーノーシス」って?赤ちゃんを感染症から守る方法【専門家】
![伝統的なタイのソンクラーン祭りに身を包んだ小さな子供たち](https://img.benesse-cms.jp/tamahiyo/item/image/normal/42cb2bf6-ed04-489b-a690-ae0ba15da6da.jpg?w=720&h=490&resize_type=cover&resize_mode=force)
コロナ禍が続く中、家庭内での癒やしや触れ合いを増やそうと、ペットの飼育を検討していませんか。
子どもにとっても、幼いころからペットのお世話をしながら一緒に暮らすことで、心の成長にプラスになるといわれます。とくに、フロリダ大学の調査では、犬と触れ合うことにより子どものストレスレベルが低下するとの報告があるようです。
そのようにいい面がある一方、ペットとの生活では、動物から感染する病気“動物由来感染症(ズーノーシス)”のリスクもあることを知っていますか。動物と一緒に暮らす上での注意点について、国立感染症研究所獣医科学部第1室長の今岡浩一先生に聞きました。
動物から人に感染する病気“ズーノーシス”とは
動物由来感染症(以降ズーノーシス)とは、動物から人に感染する病気の総称です。人も動物も発症するもの、動物は無症状で人だけ発症するものなど、病原体によってさまざまなのだとか。
「主な感染経路は、かまれる、引っかかれる、なめられるなどの接触のほか、動物の被毛や排せつ物に触れて汚染した手指や食べ物を介した経口感染、ベクター(病原体を運ぶ蚊・ノミ・ダニ)による感染 などがあります」(今岡先生)
ズーノーシスにはどんな病気があるのでしょうか。今岡先生に、代表的なものを教えてもらいました。
パスツレラ症
<原因・症状>
犬や猫などの動物の口腔内の常在菌が原因の感染症。かまれる、引っかかれることでの感染のほか、飛沫を介した経気道感染も多い。患部の腫れと痛みのあと、急速に炎症が拡大し、蜂窩織炎(ほうかしきえん)になることがある。関節炎や骨髄炎、まれに髄膜炎(ずいまくえん)や敗血症(はいけつしょう)になることも。
「生後間もない赤ちゃんが睡眠中、猫が頭に飛び乗って引っかかれてしまった、猫が遊んでいたおしゃぶりを赤ちゃんが口に入れた、犬に顔をなめられた…などで感染した例があります。いずれも、局所の炎症だけではなく髄膜炎を引き起こしました。乳幼児の場合、かまれたり引っかかれたりだけでなく、なめられて感染した例も多いことが特徴的です」(今岡先生)
ネコひっかき病
<原因・症状>
保菌した猫にかまれたり引っかかれたりして、皮膚から直接感染。1週間前後で受傷部の丘疹(きゅうしん)、水疱(すいほう)、発熱などの症状が出る。その後、傷から心臓よりのリンパ節が痛みを伴って腫れる。
「引っかかれた自覚はないものの、多数の子猫と接触していたという7才の男の子の例があります。40度の発熱、頭痛、右ひざ関節痛があり、1週間ほどして化膿性リンパ節炎、右鼠径部蜂窩織炎(みぎそけいぶほうかしきえん)と診断されました。
127例の子どもの症例を解析した国内報告によると、60%は典型的な症状ですが、40%は非定型的な症状が出ています。長期の発熱を示したもの、リンパ節腫脹(しゅちょう)がなく局所の炎症にとどまるものなどが報告されています。原因不明の発熱が長引く場合は、ネコひっかき病の可能性も考えられます」(今岡先生)
そのほかの病気
紹介した2種以外にも、さまざまな感染症があるそうです。
「犬や猫が排せつした回虫卵によって感染する「イヌ・ネコ回虫症(トキソカラ症)」、犬や猫とのスキンシップを通じて真菌類(カビ)により感染する「皮膚糸状菌症」、爬虫(はちゅう)類との直接接触や飼育槽内の水から感染する「サルモネラ症」なども注意が必要な感染症です」(今岡先生)
赤ちゃんの感染が疑われるときは、まず小児科へ
感染が疑われる場合や、実際に症状が出た場合は、どの病院を受診するべきでしょうか。
「子どもなら、まず小児科を受診します。大人は、外傷があるなら外科、かゆみがあるなら皮膚科など、症状にあった科を受診してください。受診の際は、ペットを飼っていることを伝えることが大切です。医師が診断するときの手がかりとなり、治療がスムーズに進められます」(今岡先生)
赤ちゃん側、ペット側それぞれで感染防止のアプローチを
それでは具体的に、赤ちゃんを感染症から守るには何に気をつけるべきでしょうか。先生によると、赤ちゃん側、ペット側の2通りのアプローチが大切だそうです。
赤ちゃんとの生活で気をつけること
□赤ちゃんを寝かせるときは、ペットが簡単に近づけない場所に(ベビーベッドなど)
□同じ空間に赤ちゃんとペットだけにはせず、必ず大人がつきそう
□ペットに赤ちゃんをなめさせるなど、過剰なスキンシップをさせない
□赤ちゃんがペットに触るとき、何かあったらすぐにペットから引き離せるよう大人がつきそう
□ペットに触ったあとは、必ず赤ちゃんの手指を洗ってあげる
ペットとの生活で気をつけること
□赤ちゃんのほうがペットよりも上位であることをしつける(犬の場合)
□おしっこやふんを決まった場所でさせ、こまめに処理する
□食べ残したエサはすみやかに廃棄し、室内に落ちた毛はこまめに掃除する
□ペットのかかりつけ医を決め、定期的に健康管理をする
□ペットを清潔に保つ
コロナ禍、ペットとのつきあい方も見直して
コロナ禍で在宅時間が増え、ペットと過ごせる時間も増えていますが、ペットとのつきあい方に注意が必要な点もあると先生は言います。
「テレワークで飼い主の在宅時間が増え、ペットも飼い主が在宅していることが当然になると、今後また通勤や外出が再開した途端、ペットは見捨てられたと勘違いする懸念があります。必要以上にほえる、鳴く、家の中で暴れるなどの可能性があります」(今岡先生)
環境の変化によって、ペットのストレスが赤ちゃんに向く可能性もないとは言えないとのこと。
「それではどうするかというと、ペットとの距離感をあまり変えないことが大切です。増えた在宅時間はつかず離れずの距離を保ち、これまで飼い主が不在だったときにあったはずのペットのプライベートな時間を残すようにするといいでしょう」(今岡先生)
また、赤ちゃんがいる家庭では、感染に加えて物理的な事故にも注意が必要だと先生は言います。
「大人の場合、かまれたとしても、手足をかまれることが多いので軽傷で済みますが、赤ちゃんの場合は重傷になりやすい頭や首に受傷する可能性が高いです。そのため、物理的な事故のリスクを下げることがまず大切。それが、結果的に感染症予防にもつながります」(今岡先生)
取材・文/ひよこクラブ編集部
幼いころからペットとともに育つことで子どもにいい影響もあるということですが、一方で大人が事故や感染症をしっかり防ぐことが前提になります。
正しい感染予防策を取り入れて、人間も動物も安全に楽しく暮らせる環境づくりをしましょう。