超低出生体重児の娘の誕生が人生を変えるきっかけ。会社員を辞めてカメラマンになったパパ
佐賀市川副町で写真館を営む外尾和義さん(35)。会社員を辞めてカメラマンの夢を実現させたきっかけは、超低出生体重児だった次女の祷結(とうり)ちゃん(6)の誕生でした。現在小学1年生となった祷結ちゃんのこれまでの成長の様子や、家族の話を、和義さんと妻の星羅さん(35)に聞きました。
きょうだいのおかげでモリモリ食べる子になってくれた
――妊娠25週、431gの超低出生体重児として生まれた祷結ちゃん。生後7カ月でNICUを退院したのち、奇跡的に大きな病気や障害もなく成長し、2021年の春には小学校に入学。祷結ちゃんの現在の成長や生活はいかがでしょうか。
星羅さん(以下敬称略) 低出生体重児はホルモン注射をしないと、統計上120cmくらいまでしか伸びない可能性があるということで、3才くらいから毎日、寝る前に私がホルモン注射を打っています。身長が140cmくらいになるまでは薬や注射の公的補助が受けられるので、3カ月に1回、通院してホルモン分泌の検査をしています。あとは、弱視用のメガネをかけています。
和義さん(以下敬称略) 2021年4月に小学校に入学しましたが、周囲の子に比べてひとまわり体が小さいのはやっぱり心配ですね。
星羅 本当なら5月生まれの予定が、2月に、しかも431gで生まれ、1つ上の学年で頑張っているんですよね。本人はきついと思います。勉強についていくのもやっとで、学校に行きたがらないこともあります。入学前、市に、下の学年での入学にしてもらえないか聞いてみたものの、就学猶予の前例がなく対応できないと言われてしまいました。今後、そういう点が見直されていくといいなと思います。
――上の2人のお子さんと祷結ちゃんのかかわりはいかがでしたか?
和義 お姉ちゃんは祷結の誕生も、初めての面会のときもすごく楽しみにしていました。退院した日は、上の子たちがおふろの間にこっそり祷結をベビーベッドに寝かせておいたんですよね。そしたら2人が裸のままベッドに駆け寄って「わぁー!」と喜んでくれました。
星羅 祷結が生まれた当時3才だったお兄ちゃんは、祷結の入院中は全然無関心だったんですよ。でもある日、保育園のお迎えのあと、近所の神社にターッと走っていって、いきなり手を合わせてお祈りを始めたんです。「とうりちゃんが早く元気になりますように」って。そのやさしさに、私は泣いてしまいました。
和義 2人とも、今も祷結をかわいがってくれているよね。
星羅 うん。それに、きょうだいの力ってすごいな、と思います。2人のおかげで、祷結の成長はすごく早かったんじゃないかな。1才4カ月で胃管チューブが外れて離乳食が食べられるようになってからは、食事もおやつも、上の子たちが食べているのを欲しがって、モリモリ食べてくれるようになりました。今では手加減なしのきょうだいげんかもしますが、それも成長には必要かなと思っています。
縁や出会いの大切さを知り、いろんな人に支えられていると実感した
――祷結ちゃんが生まれる前とあとで、子育てに対しての気持ちに変化はありましたか?
星羅 子育てだけじゃなく、すべてのできごとがあたりまえじゃないな、と強く感じるようになりました。上の2人の子が元気に生まれてきたことも、家族で毎日生活していることも恵まれているんだなあと思います。NICUにかかわる人たちとの出会いで視野が広がり、価値観はかなり変わりました。
和義 あとは、人との縁の大切さです。低出生体重児の子育ては、やっぱりママがいちばん大変ですよね。義両親・友人、いろんな人がママを気にかけて支えてくれています。祷結が生まれて、子育ては自分たちだけでやっているんじゃないなと、強く感じるようになりました。
祷結ちゃんの誕生が、パパの夢をかなえるきっかけに
――和義さんは、祷結ちゃんの誕生が、カメラマンへの転向のきっかけになったそうですが、それも縁なのですね。
和義 はい。カメラはずっと好きで、祷結や上の子たちの写真を撮り続けていたんですが、NICUで偶然、昔のカメラの先生に再会したんです。そのときに彼が、土日だけ自分のやっているスタジオで働かないか、と誘ってくれて、ブライダルのカメラマンとして働くことになりました。続けるうちに、徐々にブライダル以外の写真も撮りたいな、と思うように。でも子どもも3人いて、なかなか踏み出せなくて…あるとき妻が「やってみたら」と背中を押してくれたんです。
星羅 子どもの行事だけじゃなくて、ショッピングモールに行くだけでも本格的な機材を持ち歩くほどでしたから(笑) カメラじゃなくて子どもの手をつないでよ、って思ってましたね(笑) 彼が独立したいのはわかっていたので、それならやってみなよ、と。
和義 あはは(笑) でも、祷結が生まれなかったら、きっと会社員を続けていました。カメラマンの夢がかなうこともなかったと思います。
――和義さんは2019年9月に独立後、2020年2月には写真館「MukuMuku(ムクムク)」を佐賀県川副町にオープンしたそうです。お客さんの反響や今後の目標を教えてください。
和義 MukuMukuは子どもたちの無垢(むく)で自然な表情を撮りたい、という思いでつけました。普通のスタジオにはない、アットホームな感じがいいと言ってもらっています。
今は妻も一緒に働いてくれていて、撮影中にツッコミを入れてくれるので、夫婦漫才のようだとお客さんも楽しんでくれています。クチコミで来てくれるお客さんが多いですが、妻がいないと「あれっ、いないんですか?」と言われたり(笑)。もう妻なしではダメですね。
一度撮影に来てくれた子どもたちに、道で「ムクムクさんだ」と呼びかけられたりすると、とってもうれしいし、子どもの成長をその家族と一緒に見守れるような写真館でありたいな、と思っています。
星羅 写真だけではなく、ぜひ家族の思い出づくりに来てほしいです。もともとカフェだった場所なので、子どもたちにかき氷を出したりしてワイワイ撮影しています。記念撮影に来るだけじゃなく、普段も気軽に遊びに来られるようなスタジオにしたいなと思っています。
お話・写真提供/外尾和義さん、星羅さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
小さく生まれた祷結ちゃんがすくすく育ってきたことに、「自分たちは、運と周囲の人たちに恵まれていろんなことがうまくいった」と話す星羅さん。自分たちと同じような体験をしている人に向けて「パパはとにかくママをサポートしてあげてほしい」と話していました。
写真館「MukuMuku(ムクムク)」
【住所】佐賀市川副町早津江津470
【電話】080(4281)7046
【営業時間】10:00-18:00(予約制)
【休日】不定
【料金】平日1時間2万円~、土日祝日同2万5500円~