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不妊治療と育休制度だけでは足りない…!『子育て罰』の著者に聞く、日本の子育てのイマ

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ピクニックで家族
※写真はイメージです
maruco/gettyimages

少子高齢化が急速に進む日本では、出生率の回復が急務といわれています。しかしその一方、「日本の子育て支援は国際的に見て非常に貧弱」ともいわれます。今の日本に足りないことは何なのでしょうか。教育行政学、教育財政学が専門の、日本大学文理学部教育学科教授の末冨芳先生に聞きました。

日本は子育て世帯に厳しい「子育て罰」の国!?

――末冨先生が2021年7月に出された本のタイトルにもなっている「子育て罰」。かなりショッキングな言葉です。

末冨先生(以下敬称略) 子育ては楽しく素晴らしいものですが、親子をさまざまに苦しめる「罰」のような制度・政策や考え方の多い日本の問題を明らかにする言葉です。

「子育て罰」は、立命館大学産業社会学部准教授の桜井啓太先生が「チャイルドペナルティー」の和訳として作られた言葉。「チャイルドペナルティー」は本来、子育てしながら働く母親と、子どもを持たない非母親との間に生じる賃金格差を示す経済学・社会学の概念です。

「子育て罰」はこの定義をさらに広げ、子どもと子どもを持つ世帯に冷たく厳しい国である日本の現状を表す言葉として使っています。

内閣府の「平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告」によると、「自国は子供を産み育てやすい国か」という質問に対し、日本は「そう思わない」(「全くそう思わない」+「どちらかといえばそう思わない」)が52%で、調査対象となった日英仏スウェーデンの中で唯一、否定的な回答が過半数を超えました。
「子育て罰」を実感している子育て世代の多さを表していると思います。

――高所得世帯の児童手当を廃止する改正児童手当関連法案が2021年5月に可決、成立し、22年10月から世帯主の年収が1200万円以上の家庭は給付がなくなることが決まりました。これはまさに「子育て罰」ですね。

末冨 そのとおりです。しかし、「子育て罰」を受けているのは、高所得層だけではありません。内閣府が発表した2020年に発表した「子供の貧困の状況」によると、子育て世帯の16.9%が食料を買えない経験を、20.9%が衣服を買えない経験をしています。さらに、ひとり親世帯に限定すると、34.9%が食料を買えない経験を、39.7%が衣服を買えない経験をしているのです。

――先進国といわれる日本で、子どもの貧困がそれほど深刻な事態になっているのはなぜでしょうか。

末冨 政府の所得再分配の失敗で、子育て世代が十分な支援を受けられないからです。所得再配分とは、大企業や高所得者など所得の大きいところにはより多く税を負担してもらい、それを社会保障給付などの形で渡すことで、所得の低い人も生活できるようにすることです。

日本国民は所得に応じて税金や年金を国に納めますね。低所得層は納めている金額に対して、支援される内容が貧弱なため、「働いても働いても生活が困窮する」状況から抜け出せなくなっているのです。とくに、ひとり親世帯への再分配の失敗が、子どもの貧困に大きく影響しています。

――割合としてはいちばん多い、中所得層についてはいかがでしょうか。

末冨 残念ながら安心はできません。来年秋に高所得層の児童手当廃止が実現したら、次は中所得層もターゲットになるのは明らかです。つまり中高所得層は、稼げば稼ぐほど子育て支援から切り離され、「子育て罰」を受けることになってしまうのです。

政府の少子化対策は「場当たり的」で、子育て世代が求める支援になっていない

――今の政策は、すべての子育て世帯に「子育て罰」を与えているということですね。でも、政府は「少子化対策が急務」ともいっています。少子化対策に子育て支援は含まれないのでしょうか。

末冨 政府の「少子化対策」はいつも場当たり的で、長い子育て期間全体を見すえての対策が採られていないと私は考えています。

今、政府が力を入れているのは、男性の育休取得と不妊治療の保険適用です。もちろん、これらも少子化対策には重要な政策です。でも、妊娠・出産をして、育休を取って1年間子どもを育てたら終わり、ではありませんよね。むしろ子育ての本番はそこからです。子どもが大学を卒業するまで、安心して子育てできると実感できなければ、子どもを作ろうとする夫婦は増えないでしょう。

つまり、子育ての入り口である不妊治療と育休だけ手厚くしても、日本の子どもの数は増えないのです。政府にはその視点がまったく抜けていると思います。

――先生も子育て中のママですが、「子育て罰」を実感されたことはありますか。

末冨 私は小学校高学年と低学年の子どもを育てながら仕事をしています。今のところ、いちばん経済的にきつかったのは保育園時代ですね。0~2才の保育料が非常に高くて、家計を圧迫していました。共働きの夫婦がよく言われる「保育料のために働いているようなもの」を実感しました。

2019年10月から「幼児教育・保育の無償化」が始まりましたが、0才児~2才児クラスの子どもが対象になるのは住民税非課税世帯だけ。今でも、多くの子育て世帯が高い保育料に苦しんでいます。

――頑張って働けば働くほど「子育て罰」を受けることになるのであれば、仕事を続けることに意味を見いだせなくなる人も少なくないでしょう。これは、国の税収減につながると思うのですが、政府はそのあたりのことをどう考えているのでしょうか。

末冨 子どもが減り、税収も減ったらこの先日本がどうなっていくのか、だれにでもわかりますよね。日本はどんどん衰退していくことになります。しかし、そこまで突き詰めて考えている人は、残念ながら今の政府の中にいないと思います。

子育て世代が声を上げないと、「子育て罰」の国は変えられない

――「日本の子育て支援は国際的に見て非常に貧弱」ということは、末冨先生をはじめ多くの研究者が発信しています。日本の子育て支援の貧弱さの根底にあるのは、何だと思われますか。

末冨 子育て世代、とくに20代、30代の投票率が低いため、「子育て支援策は票に結びつかない」と政治家が考えているのが大きな原因だと思います。逆にシルバー対策が充実しているのは、シルバー世代は投票率が高いからです。非常に単純な話です。

――「子どもがほしい」「子どもはあと2人ほしい」などと考えていても、国の子育て支援策に不信感・不安感があったら子どもを作ることをためらってしまうのは当然だと思います。今まさにそういう状況にある人たちが、国や政府に対してできることはあるでしょうか。

末冨 子育てで不安に思うこと、困っていることなどについて、率直に声を上げることです。たとえば、地元選出の議員のホームページやFacebook、Instagramなどに、子育てで困っていること、改善してほしいことや意見を送ってみてください。有権者の声を国政に届けるのが議員の仕事です。子育て世代の声が大きくなるほど、国を動かす力になります。

――子育て世代が声を上げたら、高所得層の児童手当廃止も覆るでしょうか。

末冨 一度決まった政策を覆すのはかなり困難ですが、声が大きくなれば延期になる可能性はあります。そして、延期している間に所得制限の内容を見直すなどの動きが出ることは期待できます。

子育て世代1人1人の行動が、「子育て罰」の日本を「子育てボーナス」の国、子どもと子どもを育てる親にやさしい国に変えることにつながる。このことを忘れないでほしいと思います。

取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部

お話・監修/末冨芳(すえとみかおり)先生

安心して子育てをできる国にしてほしい、それは子育て世代すべての願いです。これを実現するには、子育て世代のリアルな声を国に届けるための行動が重要になる、ということのようです。

子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには


子育て世帯に福祉的な「ボーナス」を与えるどころか、金銭的・社会的に「罰」を与えるよう政策を続ける日本を変え、「親子にやさしい国」にするための方策を論じています。光文社刊。

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