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500人に1人の赤ちゃんが発症?! 繰り返す嘔吐や下痢を起こす「食物たんぱく誘発胃腸症」が増えている【専門医】

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哺乳瓶でミルクを飲む赤ちゃん
※写真はイメージです
kuppa_rock/gettyimages

じんましんなどの症状が出る即時型の食物アレルギーとは異なり、原因食物をとってしばらくしてから嘔吐(おうと)や血便などの症状が現れるタイプの食物アレルギー「食物たんぱく誘発胃腸症(ゆうはついちょうしょう)」を発症する子どもが増加しているといいます。国立成育医療研究センター アレルギーセンターの野村伊知郎先生は「すぐに症状が現れるわけではないため原因がわかりにくい病気。気づかれずに症状が重くなってしまった場合、赤ちゃん自身がつらいことはもちろん、発育への影響が出ることも。気になる症状が続くようであればかかりつけの小児科医へ相談してほしい」と言います。どのような病気なのかを詳しく聞きました。

見た目や検査ではアレルギーとはわかりにくく、診断しにくい病気

食物たんぱく誘発胃腸症の反応の現れ方

――どのような症状が現れる病気ですか?

野村先生(以下敬称略) この病気は以前は「新生児・乳児消化管アレルギー」と呼ばれていましたが、2017年に「食物たんぱく誘発胃腸症」というのが正式名称になりました。
新生児期〜乳幼児期に、ミルク・母乳・卵などの原因となる食物をとると、数時間後から数日後に何度も吐く、血便が出る、体重が増えなくなる、下痢が長く続くなどの症状が出る病気です。

2000年ごろから世界的に急増していて、日本では2009年の東京都の全数調査で発症率がおよそ0.21%、およそ500人に1人の乳幼児が発症していることがわかっています。2019年2月には診療のガイドラインが作成されました(※1)。
最近私が診療している中では、さらに増加していると感じます。病気の原因や、世界的に増加している理由は今もまだわかっていません。

――じんましんなどの症状が出る食物アレルギーとはどのように違うのでしょうか?

野村 一般的に知られている即時型食物アレルギーは、原因となる食物を摂取すると体の中のIgE抗体(※2)が免疫反応を起こし、1〜2時間以内にじんましんや発疹(ほっしん)など、全身に反応が現れます。
これに対して「食物たんぱく誘発胃腸症」は胃腸などの消化管が炎症を起こす病気で、原因となる食物を摂取してから数時間、遅くて数日後に発症します。じんましんなど見た目でわかる症状は現れず、アレルギーの血液検査をしても陰性となります。食べてから時間がたって症状が出るため、原因となる食物がわかりにくいこともあります。発症のメカニズムもまだ十分に解明されていません。また、同じような症状を示すほかの病気もありますので、これらを見分けることも大切です。

消化管が炎症を起こし、数時間から数日後に発症する

――数時間や数日など、症状が出るタイミングに差があるのはなぜでしょうか?

野村 「食物たんぱく誘発胃腸症」にもいくつかタイプがあります。まず、原因食物をとることで、食道から直腸までの消化管のどの部分が炎症を起こすかによっても症状が変わります。
胃が炎症を起こすと何度も吐いてしまう、小腸では下痢・栄養がとれずにやせてしまう・体重が増えない、大腸では下痢や血便などの症状が多いです。

また、症状が出る速さでも急性タイプと慢性タイプに分けられます。急性タイプは、原因食物を食べてから3時間後ぐらいに何度も嘔吐するので気づきやすいです。一方慢性タイプは、原因食物を食べて数日してから症状が出ることが多く、原因がわからないまま継続して食べてしまうので症状が続きます。

中でもいちばん見つかりにくいのは、小腸で炎症が起きている慢性タイプの場合。体重が増えず、元気がなくなるなどの症状がありますが、ほかの症状が現れず外から見てはっきりわからないので、気づかれにくいのがこわいところです。
「赤ちゃんがずっとグズグズしていて機嫌が悪い」「なかなか体重が増えない」など育児のしかたが悪いのだろうか、と悩んでいるママやパパも多いと思われます。

離乳食開始ごろに発症する例が増えている

――最近ではどのような症状で受診する患者さんが多いのでしょうか?

野村 2000年から2015年ころまでは、新生児期にミルクが原因で起こることがいちばん多かったのですが、最近報告が増えているのは、離乳食を開始する5〜6カ月で卵黄が原因となる患者さんです。典型的な例を紹介します。

「5カ月ごろに離乳食を開始し、かたゆでにした卵黄を少し、何度か与えたときには症状は出なかったが、2週間後にまたかたゆでにした卵黄を与えると数時間後に突然何度も吐き、顔が蒼白になってしまった。小児科を受診し血液検査をしたが、卵白や卵黄に対するアレルギー反応(IgE抗体)は陰性で、卵アレルギーではないと言われた。7カ月ごろにまたゆでた卵黄を与えたら、前と同じように嘔吐が始まりぐったりした」

このような経過で、一体なんの病気なんだろう、と悩むママやパパが増えています。

――卵以外の食物でも発症することがありますか?

野村 離乳食が始まる前の乳児期は、牛乳由来のミルクによって嘔吐や血便などの症状が出ることがあります。そのほか、母乳、米、大豆などでも発症することがあります。世界中で患者さんが増えているのですが、原因になる食物には国によって少しずつ違いがあります。

――発症には遺伝などの要因もあるのでしょうか? 妊娠中に注意したほうがいいことなどはありますか?

野村 遺伝はほとんど関係しません。きょうだいが発症するということも少ないので、2人目を計画するときは心配せずに普通に生活して大丈夫です。妊婦さんの牛乳の摂取量などを調べたこともありますが、妊娠中の食事の内容と赤ちゃんの発症とは関係がないと考えられます。妊娠中は食物制限はせずにしっかり栄養をとるようにしてほしいと思います。

治療は原因食物の除去。3才までにはほとんど改善する

――では、治療はどのように行うのでしょうか。

野村 まずはこの病気を疑ったら、診察や血液検査などでほかの病気がないかを調べます。そして、原因と思われる食物を完全に除去します。アレルギー用のミルクに替えてみる、卵黄を食べさせるのをやめる、などです。
それで元気になり、体重も増えてきたなら、負荷テストを行って原因食物を確定し、さらに除去を続けます。原因食物の除去を適切に行えば、多くが3才までに治ります。

この病気の困るところは、エピペンが効かないことです。食物アレルギーでひどい症状が起きると、エピペンを打つことで症状が緩和されますが、「食物たんぱく誘発胃腸症」にはエピペンはあまり効果がないです。そのような点からも即時型の食物アレルギーとは異なるといえますね。

――治療を続けると、いずれ完治するのでしょうか?

野村 はい。いったん治ったら再発することは非常に少ない病気なので、主治医と相談し負荷試験などを行って、摂取可能と判断されたら、原因食物だったものも食べたり飲んだりできるようになります。

――卵が原因と聞くと、離乳食で食べさせないほうがいいのかと心配になってしまいますが…

野村 2010年ころから世界的にアレルギー発症予防の考え方が変わり始め、卵・牛乳・小麦などのアレルゲンの与え方も、それまでの「離乳食で食べさせるのを遅らせよう」という考え方から、「遅らせないようにしよう」という考え方に変わりました。そして離乳期前から肌トラブルを改善することも大切だとされています。
そのおかげで、現在即時型の食物アレルギーの発症数は減少しています。これはすばらしいことです。

一方で、「食物たんぱく誘発胃腸症」は、最近では離乳食開始時期に卵黄の摂取で起きるという報告が多くなってきました。しかし卵黄の場合、急性タイプで嘔吐症状が出ることが多いので比較的わかりやすいです。やはり、離乳食は適切な時期に開始してほしいと思っています。早めにこの病気だとわかれば、医師と相談して治療することができます。
もし離乳食開始のころに卵黄を食べて嘔吐や血便などを繰り返すなら、「食物たんぱく誘発胃腸症」である可能性を考えて医師に相談してみてください。

この病気はまだあまり広く知られていないこともあります。厚生労働省 難病情報センターの公式サイト(※3)や、成育医療研究センターのサイト(※4)では正しい情報を公開していますので、受診の際に医師に見せてみるのもいいかもしれません。

お話・監修・図版提供/野村伊知郎(のむらいちろう)先生

取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

まだ原因などは明らかになっていない病気ですが、「患者数は増加傾向にあるため、ぜひ多くの人にこの病気のことを知ってほしい」と野村先生は言います。発熱などはないけれど嘔吐や下痢・血便を繰り返す、体重が増えないなどの症状が見られたら、早めに医師に相談しましょう。

(※1)新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症 診療ガイドライン(実用版)

(※2)アレルゲンを認識して即時型反応をおこす抗体。免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質の一種

(※3)難病情報センター 好酸球性消化管疾患

(※4)国立成育医療研究センター 消化管アレルギー 

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