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赤ちゃんへの注射は腕?それとも太ももに?【小児科医が解説】 

更新

医者は病院で聴診器で赤ちゃんを調べるします。
※写真はイメージです 
Prostock-Studio/gettyimages

生後2カ月の赤ちゃんの予防接種にやってきたお母さん。注射について事前にネットで調べていたら、打つのが不安になってしまうような情報も出てきたとのこと。そこで陽ちゃん先生は、これまでの日本で赤ちゃんへの注射の打ち方がどう変わってきたのかをていねいに説明し始めます――。

赤ちゃん、ママやパパにいつもやさしく寄り添う陽ちゃん先生こと、小児科医の吉永陽一郎先生が、日々の診察室で起こった、印象深いできごとをつづります。先生は育児雑誌「ひよこクラブ」でも長年監修として活躍中です。「小児科医・陽ちゃん先生の診察室だより」#34

赤ちゃんへの注射、筋肉注射と皮下注射はどう違う?

予防接種のために初めて来院された、2カ月の赤ちゃんとお母さん。注射を打つ前に聞きたいことがあるようです。

「初めての子ですし、注射のことを勉強しようと思ってネットであれこれ調べてみたんです」

――そうですか。何か気になることが書かれていましたか?

「最近は、腕ではなく太ももに注射することもあるようですね」

――そうですね。世界的に太ももへの注射は広く行われています。

「私の母に聞いたら、そんな話は聞いたことがないと言うんです」

――腕に注射するのが常識みたいになっていますからね。

「それに昔、日本では脚に注射して歩けなくなった子が問題になったという情報も出てきて、不安になってしまって…」

――なるほど。そんなことを聞くと、心配になりますよね。

まず、脚に注射して歩けなくなった子が問題になったという件です。昭和30~40年代、臀部(でんぶ)などに筋肉注射した赤ちゃんのうち、大腿四頭筋拘縮症(だいたいしとうきんこうしゅくしょう)といって、脚の筋肉が伸びなくなり、歩くこともできなくなる事例がたくさん報告されました。

これは、当時、強い酸性やアルカリ性の薬、濃度が濃い薬を筋肉注射していたことが原因だったとわかっています。また、原因の多くは治療のための薬で、ワクチンでの障害はなかったといわれています。

当時は、薬を飲むよりも注射のほうが早く効くと考えられていたり、点滴の方法が未熟だったりした時代です。積極的に筋肉注射されていたのでしょう。


――今使われているワクチンは、ほぼ中性ですし、濃度も体に近いものなので心配はいりませんよ。それに、日本では過去の経験から、多くの予防接種が筋肉注射ではなく、皮下注射で行われています。

「筋肉注射と皮下注射はどう違うんですか?」

――筋肉注射は、その名のとおり筋肉の中に薬液を入れます。皮下注射はもう少し浅くて、皮膚と筋肉の間に入れます。腕や太ももをつかんだときにできるたるみの部分だと思ったらいいでしょう。

「先生たちは、どうやって打ち分けているんですか」

――筋肉注射は直角に針を刺しますし、皮下注射は斜めに刺します。

「そういえば、テレビで新型コロナのワクチンを注射するシーンを見たら、まっすぐ突き刺していて見た感じ痛そうでした」

――そうですね。新型コロナウイルスワクチンは筋肉注射ですからね。

「では、皮下注射のほうが安全なんですね」

――そう単純ではないんです。アメリカなどでは、不活化ワクチンは、ほぼ筋肉注射が行われています。ワクチンは筋肉を痛めないことがわかっているのと、皮下注射に比べて痛みや腫(は)れが少なく、効果もいいと考えられているからですね。

「では、先生も筋肉注射をするんですか?」

――いえいえ、日本のルールに従う必要があります。そうでないと、何か副反応が起こっても患者さんがさまざまな補償が受けられなくなります。
日本で、筋肉注射が認められているワクチンは限られていて、主なものは、新型コロナウイルスワクチン、子宮頸(しきゅうけい)がんワクチンや、10歳以上のB型肝炎ワクチンなどです。

「じゃあやっぱり基本的には皮下注射なんですね」

――そうですね。それでも十分な効果がありますから大丈夫です。

赤ちゃんの予防接種、太ももに打つ理由は?

「ところで、皮下注射でも腕ではなく脚に注射するんですか」

――そうなんです。現在は昔と比べて乳児期に打てるワクチンが増えたので、複数のワクチンの同時接種が一般的になっています。そうすると、赤ちゃんのかわいい腕だと何本も注射をするにはちょっと場所が狭いんですね。

「確かに、この小さな腕に何本も針を刺すのは痛そうです」

――針を刺す場所は、2.5㎝間隔を開けないといけません。それに、腕に通っている神経の場所を避ける必要もあります。そうするとなかなか窮屈なんです。
その点、太ももは面積も広くて皮下組織もたっぷりあり、腫れたり赤くなったりの副反応も少ないといわれています。

「腕と比べて、痛かったりしないんでしょうか」

――痛みも太もものほうが少ないと言う人もいますが、その程度は赤ちゃんに聞かないとわかりませんね。

「今では太ももが一般的なんですか?」

――日本小児科学会の医師や自治体向けのガイドラインにも、イラストで太ももへの接種がすすめられています。太もものやや外側に打つことになっています。
でも、慣れ親しんだ手技から、腕への注射のみをされている先生もいらっしゃいます。それは間違いではありません。
これまで安全に接種されてきたベテランですから、信頼していいと思います。

「わかりました。ありがとうございます。先生にお任せします」

――ところでお母さん、問診票の記載がまだですよ。たくさんあるので大変ですから、次回から自宅で書いてきてくださると助かります。

「あー、そうですね。そうします」


文・監修/吉永陽一郎先生 構成/ひよこクラブ編集部   


※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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