「生まれつき手足の形が多くの人と違う」先天性四肢障害のわが子のために…。親たちがたどり着いた結論【先天性四肢障害を知る②】
特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
小学3年生の「りっちゃん」のママ、浅原ゆきさんは、先天性四肢障害の当事者や家族をサポートするNPO法人「Hand&Foot(ハンド アンド フット)」の代表理事を務めています。りっちゃんは生まれつき右手に3本の指しかなかったことから、「人によって、いろいろな手や足の形があることを知ってほしい」という思いで活動を続けてきました。
先天性四肢障害といっても、さまざまな種類があり、ひとりひとりその症状も違います。たくさんの人の「知ってる!」を増やすことで、先天性四肢障害をはじめ、さまざまな“違い”を持つ人たちへの差別や誤解をなくすことができると浅原さんは言います。第2回は、浅原さんが「Hand&Foot」を立ち上げてからこれまでの活動を聞きました。
「私だけ5本の指だ!」と驚いたお姉ちゃん
浅原さんの次女「りっちゃん」は、生まれつき右手が3本です。りっちゃんが生まれた翌年、浅原さんは「同じ先天性の四肢障害を持つ子どもの親が、気兼ねなく情報交換や相談ができるように」と、会員制のクローズドなSNSを作りました。
「私自身、産後は何も知識がなくて不安ばかりで、本当に落ち込んでいました。SNSを立ち上げたことで、同じ立場の方々といろいろな情報を交換し合えることがとてもありがたかったです。子どもの手の手術はどうしよう、周りの人たちになんて説明しよう、学校でリコーダーはどうすればいいんだろう…。みんな同じようなことで悩んでいました」(浅原さん)
最初は9家族で始まった「Hand&Foot」ですが、一人、また一人と会員が増え、2年後には200家族を超えました。次第に、実際にみんなで集まったり、遊びに出かけたりする機会も増えてきました。同じような指を持つ子に出会うことは、子どもたちにとって何より嬉しいことでもあります。
りっちゃんには、2歳上のお姉ちゃんがいます。ある時、「Hand&Foot」の親子の集まりに参加したお姉ちゃんは、「5本の指の子、ここに私しかいない!」と大発見したかのように驚いて声を上げました。
「確かに、学校や保育園だと逆なんですよね(笑)。視点を変えれば“普通”が変わるんだなと、長女の言葉でハッと気付かされました」(浅原さん)
ありのままの手で、自分なりのやり方を見つけていく
「Hand&Foot」には、成人した当事者の人たちも参加しています。ある時、浅原さんは生まれつき2本の指を持つ40代の女性に出会いました。
「その方に、『浅原さんにとって、私の手は“5分の2”に見えますよね?』と聞かれました。そうですねと答えると、『違うんですよ。この指は私にとって5分の2じゃなくて、“2分の2”なんです』と言うんです。その言葉がすごく腑に落ちました。
それまでりっちゃんの指が欠損していることを、たくさん周りから言われもするし、私自身も思ってきました。でも、本人にとっては、生まれた時のそのままが自分の手で、失われているという感覚がないんですね。ありのままの手で自分なりのやり方を見つけて、いろいろなことができるようになっている。ここでもまた、“普通”に対しての考え方がすごく変わりました」(浅原さん)
女性の言葉をきっかけに、りっちゃんの手は「5分の3」ではなく、最初から「3分の3」だったと気付いた浅原さん。出産当時に抱いていたネガティブな感情もどんどん変化してきたといいます。
「実は、りっちゃんが生まれた時に、とんでもなく大変な人生が待ち受けているんじゃないかと思っていたんです。先天性四肢障害の方々に対して何も知識がなかったばかりに、勝手に大変だ、苦労しているというイメージを持っていて、娘もそうなると思い込んでいました。
でも、全然そんなことありませんでした。成長するたびに、やりにくいことがあっても工夫して、やりたいことであれば自分なりに方法を見つけて、できるようになっていくんです。もちろん、やる気がない、興味がないことはやりません(笑)。それは指が5本のお子さんと同じなんですよね。よく考えれば当たり前のことなのですが、最初は気づくことができませんでした。少しでも知識があれば、気持ちは変わるんだなと今では思います」(浅原さん)
お互いの違いを理解して、「違うから楽しい」を広げたい
「Hand&Foot」の会員数は、2021年11月に1110家族を突破しました。手足に違いを持った赤ちゃんが生まれて、最初は不安や孤独にさいなまれていたお母さんやお父さんが、「Hand&Foot」の人たちの経験談や日記を読んだり直接会ううちに、どんどん大丈夫になっていく――そんな人たちの様子を浅原さんはたくさん見てきました。「感謝の気持ちをよく伝えられますが、その気持ちは私も一緒です」と浅原さん。そして、これからは啓発活動にも力を入れていこうと考えています。
「小学校に入学する時、先生から『給食のお盆は持てますか?』『椅子は持てますか?』などと心配していただくのですが、子どもたちは自分なりに工夫して持てるようになっています。私たち親にとっては“あるある”で、笑い話になることも。でも、私たちのこういう“普通”は、ほとんど知られていません。私もそうだったのですごく分かるのですが、実際に当事者に出会わないと分からないことも多いんですよね。
四肢障害をサポートする団体がいろいろある中で、私たちの団体ができるのは『知っている』を増やすこと。今後は子ども向けの絵本の出版やSNSなどでの発信を通じて、もっとたくさんの人たちに知ってもらえたらと考えています」(浅原さん)
「Hand&Foot」のホームページには、「いつかふつうに出会えるように」というキャッチフレーズが記されています。この言葉の意味は何でしょうか。
「人それぞれの普通って、それぞれ違います。誰かの普通を押し付けるのではなく、それぞれが持っている普通を理解し合えたらいいねという思いを、『いつかふつうに出会えるように』という言葉に込めています。
例えば、手の指の数に違いがある子の中でも、鉄棒ができる子もいればできない子もいます。それは機能的な問題ではなくて、運動が得意かどうかだったりして、5本の指がある子と何も変わりません。決して障害があるからといって特別扱いするのではなく、お互いが持っている“違い”を理解し合えれば、“違うから楽しい”という出会いにつながるはずだと思っています」(浅原さん)
取材中、「指がないのにすごいね、頑張っているねというイメージを持たれがちなのが悩みです」と言う浅原さんの言葉が印象的でした。まだまだ世の中には「障害=頑張る、一生懸命生きる」というイメージが根強くあり、どこかで特別視してしまう傾向があります。
でも、障害のあるなしにかかわらず、人には誰しも頑張れることやそうでないこと、得意不得意があります。一人ひとりがお互いを見つめて知ろうとすること、その人個人を尊重することが「違うから楽しい」につながり、真の多様性を認め合う社会への第一歩なのだと感じました。
浅原ゆきさん(プロフィール)
NPO法人Hand&Foot 代表理事。次女のりっちゃんが裂手症で生まれたことをきっかけに、2013年に手足にちがいをもって生まれてきた子どもたちとその家族、当事者を支援する「Hand&Foot」を設立。情報共有クローズドSNSサービスの運営・管理、インターネットなどでの情報発信・啓発活動を行う。
(取材・文 武田純子)