【小児科医リレーエッセイ 36】 子どもの冬靴、ムートン調のブーツには注意が必要!子どもの靴の選び方には4つの条件が
「日本外来小児科学会リーフレット検討会」の先生方から、子育てに向き合っているお母さん・お父さんへの情報をお届けしている連載です。今回は、早稲田大学教育コーチ 吉村眞由美先生から「寒い季節の子どもの靴の考え方」について、積雪の中で生活する地域の場合と、雪があまり降らない地域に分けての内容です。
【積雪がある地域】寒冷地仕様の長靴で、元気に外遊びを
冬、北海道や東北など、積雪の中で生活する地域の場合、雪の中で日常生活を送るので、子どもたちも元気に外で遊びます。その際に欠かせないのが「寒冷地仕様の長靴」です。冬靴と呼ばれ、運動靴(夏靴)と呼び分けられているくらい日常的に履かれています。
また、この靴は北国でしか売られていません。靴底の刻みは深く、筒部の内張は保温のための起毛素材などが張られて、足元が冷えない工夫がされています。また、保温のためのあったかい靴下も充実しています。素材がやわらかく足首を曲げてしゃがんだり、つま先立ちをしてしゃがんだりなど、足や脚の動きに応じて曲がってくれます。なので運動靴と同じ動きができ、機能的なので多く選ばれています。
【積雪がある地域】寒冷地仕様の靴の選び方とは?
寒冷地仕様の長靴の場合、左右の足長のうち長いほうと同じ、もしくはプラス0.5㎝のものを選びましょう。また長靴の場合はふくらはぎの太さ(筒回り)が入るかどうかということも大切なので、雪遊びの装備(靴下やスノーウエア、雪よけ足カバーなど)をして試し履きをしてみるのがベストです。
また、寒冷地用長靴の中には、靴底のかかとの部分に滑り止め防止の金属びょうスパイク(折り畳み式になっていることが多い)がつけられているものがあります。親が滑りにくくて安心だろうと思って履かせてしまうと、思わぬけがの落とし穴があります。
幼児の遊びの状況を想像してみてください。雪上でも構わず転げまわって遊びますし、凍った雪面で走り、スピードが出た状態でしりもちをつきながら滑りながらお友だちにぶつかって衝突する、というような場面がめずらしくありません。その際、運が悪いと足を前に突き出して突進することになるため、かかとのスパイクがお友だちの頭部や顔面に激突して激しい出血を伴うけがをする、といったケースが起きることがあるそうです。そのため、保育園ではスパイクつきの長靴は禁止というところも珍しくないことを知っておくと便利です。
【雪があまり降らない地域】冬仕様の靴でなくても大丈夫。ムートンブーツには注意を
関東以南の雪があまり降らない地域では、冬になると雪遊び用の靴を買ったほうがいいのかが気になると思います。寒いと言っても、靴を暖かい素材のものにする必要があるのは、東北以北の雪が積もるほど寒い地方です。雪のない地方でも、雪専用のスノーブーツなどが売られていますが、これはスキー場など、あくまでレジャー旅行用であり、雪のレジャーに出かけることがある家庭が購入されればいいと思います。また、自宅近くでの雪遊びには、そこまで本格的な靴はなくても間に合うものです。
ここ10年ほど、防寒用というより冬のおしゃれ用として、女児のムートンブーツはとても人気があります。しかし、機能的には、問題があることを知って履かせましょう。なぜなら、足に固定できるベルトもなく、足部の形状もデザイン重視で、幼児の足の形状に合っていません。また、靴底もフラットでかたく簡単な作りです。そのため、幼児期にいちばん身に着けてもらいたい歩き方『かかとで足を着地させ、つま先でけり出して前に進む”踏み返し動作”』ができず、正常な歩き方が阻害されてしまいます。具体的には、かかとを開き気味に足の内側に重心がかかり、靴底を引きずった状態で、足の指をやや浮かせた歩き方(浮き指が起きる足のバランス)になりやすいので要注意です。
もし、おしゃれブーツを履かせたいなら、比較的短時間のお出かけなど走り回らない時にしてください。運動目的で公園などに遊びに行くには向いていません。なぜなら、走りにくい、つまずきやすい、不自然な歩き方や走り方になる、結果として長時間遊べない(すぐに疲れてしまう)靴だからです。さらに、高さのある公園遊具などで遊ぶ際は要注意です。高いところに登ったり降りたりする時に、段差を踏み外してしまったり、引っかかってしまって転落したり、バランスを崩すことでのけがをする危険性も増大します。なぜならブーツのつま先が分厚く、指先に遊具などに触れた感覚が伝わらないためです。
【雪があまり降らない地域】靴の選び方と大切さは?
冬でもいちばん重要なのは、元気に走り回るときに履く運動靴です。冬の外遊びはおっくうに感じますが。夏にはできない経験ができるチャンスです。たとえば、気温が低い中で動くことで、息を大きく吸ったり吐いたり、身体がだんだん温まる気持ちよさを覚えたり、心肺機能や体温調節機能など体力を育てる好機です。
また、1歳以降は靴を履いている「足感覚」が芽生える重要な時期。面テープをしっかり締めて、フィットした靴の感覚を育てましょう。この感覚は将来の靴の履き方を左右する重要な感覚で、幼児期に身に着けるのが最も自然です。その第一歩として、自分で靴を脱いだり、履いたりしたがるようになったら、声かけをしながら正しい手順を教えましょう。靴教育の「適齢期」。とても重要な時期です。
子どもの運動靴の選び方には4つの条件が
では、どんな靴を選べばいいのでしょうか。推奨する運動靴選びの条件はたったの4つです。
①面テープがついていて、足にフィットさせられること。
②かかとがかたくて足のかかとに合った幅(市販のものは幅広すぎるものが多い)であること。
③ファーストシューズでは靴底は平らでぐらぐらしない安定性があること。
セカンドシューズ以降は、踏み返し動作をしたときに曲がる足の部分(親指つけ根の足関節)と同じ部分に曲がりやすい工夫がされている(しなやかに曲がり、自然に戻る柔軟性)こと。
④カップインソールと呼ばれる形状の中敷きが入っていて、取り出せること。
インソールのかかとの端と赤ちゃん・子どもの足のかかとの端の位置を合わせて足を乗せることで、指先に差が出るので、その長さで靴内での足の状況の判断ができます。
つまり、その差を計ることで、まだ履けるか、もう履けないないかの確認の判断ができるのです。指先のゆとり量(捨て寸)が5㎜以下になったら5㎜上のサイズに変更します。すると、指先のゆとりは約1㎝になり、ゆとりを持って履けます。
また、インソールが取り出せることは、衛生面でも重要な役目を果たしてくれます。足は全身の中でもっとも細菌の繁殖が多く起きる場所なのをご存じですか?細菌は湿って温かな場所で繁殖し、低温で乾燥に弱いことはよく知られていますね。なので、サッと取り出して洗い、短時間で乾かせる中敷きは優れモノなのです。汚れやすい子ども靴にとって、時短で清潔を保てることがでは大きなメリットです。お母さん・お父さんたちのお悩みでよく聞く、靴や靴下のにおいも細菌の繁殖が原因。そのお悩みも防げるのです。