「実優を助けて…」と号泣。生後3カ月で受けた手術から急変し、難病「先天性気管狭窄症」と闘う赤ちゃん【体験談】
9カ月の谷口実優ちゃん(仮名)には、生まれつき気管が狭い「先天性気管狭窄症」、肺動脈(心臓から肺につながる太い血管)が正常と異なる走行で肺につながっている「肺動脈スリング」、肺胞や気管支などに形成不全が見られる「右肺低形成」、心臓の一部である心房中隔に穴が開いている「心房中隔欠損症」といった大きな病気が4つあります。小さな体で大手術を乗り越えた実優ちゃんの闘病生活について、ママの谷口葵さん(仮名)に話を聞きました。(写真は、入院中の5カ月の実優ちゃん。ママ・パパと面会してにっこり)
6年におよぶ不妊治療をして、やっと授かった命。しかし予想外のことが
実優ちゃんが生まれたのは、2021年1月。予定日前日の朝に破水してお産入院し、微弱陣痛が長く続いたため、陣痛促進剤を使い、予定日ちょうどに経腟分娩で出産しました。出生時の身長は45.5cm。体重は2350g。出産時のママの年齢は34歳です。
「ちょっと小さいとは思ったのですが、私も身長149cmと小柄なので遺伝だろうと思い、とくに心配はしませんでした」(葵さん)
実優ちゃんは6年におよぶ不妊治療を経て授かった大切な命です。
「実優を授かるまでに2回流産しています。途中で3年ほど不妊治療を休んだ時期もあり、最後のタイミング療法にかけて授かったのが実優です。やっと“実った子”という思いを込めて、名前に実という漢字を入れました」(葵さん)
妊婦健診では異常がなかったのに、生まれてすぐ呼吸が荒くNICUへ
しかし生まれた直後から、実優ちゃんに異変が。
「出産してすぐに助産師さんが“呼吸がおかしいね”などと話していて、保育器に入りました。その夜、小児科の医師に“実優ちゃんの心臓ですが右側に寄っています。一度、専門医に診てもらいましょう”と言われました。妊婦健診では異常なしと言われていたので、驚きしかなかったです」(葵さん)
翌日には、実優ちゃんの呼吸がさらに荒くなり、ミルクが飲めなくなったためNICU(新生児集中治療室)がある総合病院に搬送されました。
「出産した翌日から、私と実優は別々になってしまったんです。私は入院中でしたが、毎日外出許可をもらって、片道90分かけて実優に会いに行きました。でもコロナ禍で、面会は15分しかできませんでした。
総合病院での検査の結果“心臓は右に寄っているけれど、心臓の動きに異常はありません。体重が2500gになったら退院できますよ”と言われて、10日ほどNICUに入院し1月末に退院しました。
退院後は自宅で過ごしていたのですが、ミルクを飲むのが遅いのが気になりました。100mlのミルクを飲むのに40分ぐらいかかるんです。今、思えば、呼吸が苦しくて飲みづらかったのかも知れません」(葵さん)
3カ月で行った卵巣滑脱ヘルニアの手術後、実優ちゃんに異変が
ミルクの飲みなどは気になるものの「すぐに小児科で診てもらおう」と思うようなことはなかったという葵さん。しかし1カ月健診で実優ちゃんに「卵巣滑脱ヘルニア」が見つかります。
「1カ月健診のとき小児科の医師に“おまたの上にポコッと出ているのわかる? お母さん、触ってみて”と言われて、初めて私も気づきました」(葵さん)
ヘルニアの治療のために総合病院を紹介されて「卵巣滑脱ヘルニア」と診断されました。3カ月になったら手術をすることになりました。
「手術は腹腔鏡手術で30分ほどで終わるというのが医師からの説明でした。ヘルニアの手術は、小児ではよくある手術とも説明されていたので、夫も私もそんなに心配はしていませんでした」(葵さん)
入院は2泊3日の予定で、2日目が手術日でした。手術の日の夜、葵さんがつき添い入院していたときに、実優ちゃんの様子の変化に気づきます。
「夜、呼吸が荒くなり、ナースコールで看護師さんを呼んで、酸素投与をしてもらいました。でも実優の呼吸は安定せず、心配で何回かナースコールをして診てもらいました」(葵さん)
一時は危険な状態に! 小児用ECMOがある病院へ救急搬送
夜、パパが面会に来たタイミングで、葵さんは一度自宅へ。用事を済ませて病院に戻ると、実優ちゃんのベッドのまわりが慌ただしくなっていました。
「実優のベッドのまわりには6人ぐらいの医師や看護師さんがいて何か相談しています。その後“すぐに検査して、ICU(集中治療室)に入ります”と言われました。翌日、医師から“呼吸状態がよくない”と説明されて、結局は小児用のECMO(体外式膜型人工肺)がある小児専門の病院に搬送されることになりました。
小さな体いっぱいに管がつながっている実優の姿を見て、私は頭が真っ白になりました。急な展開に心と頭がついていけず、夫婦で号泣しながら“実優を助けてください”と言っていたのを覚えています」(葵さん)
搬送時には、搬送先の病院の医師等も来て、ドクターカーのまわりには30人ぐらいの人がいたそうです。
「実優が搬送されるとき、私は実優の名前を呼びながら、泣き叫んでいて、1人では立っていられない状態でした。看護師さんが支えてくれて、やっと立っていられました」(葵さん)
搬送先の病院には、実優ちゃんはドクターカーで。ママとパパは車で向かいます。車で90分もかかる距離です。
「医師から“搬送中、万一のことが起きる可能性もあります。何かあったら電話します”と言われました。
私は“どうしてこうなったの?”と自問自答を繰り返しながら、助手席でスマホを握りしめて、ずっと泣いていました。夫もあれだけ泣いて動揺していたはずですが、冷静に車を運転していて、今、思えばすごい精神力だと思います」(葵さん)
検査の結果「先天性気管狭窄症」「肺動脈スリング」という大きな病気が判明
葵さんのスマホには、医師から緊急を知らせる連絡はなく、車は無事、搬送先の小児専門病院に到着しました。そして検査の結果、実優ちゃんの新たな病名が判明しました。医師から言われたのは「先天性気管狭窄症」と「肺動脈スリング」という聞きなれない病名でした。
「先天性気管狭窄症」は、生まれつき気管が狭い病気で、ひどくなると呼吸困難を起こす場合もあります。
「肺動脈スリング」は肺動脈(心臓から肺につながる太い血管)が正常と異なる走行で肺につながっている病気です。
どちらも手術が必要ですが、とくに「先天性気管狭窄症」は難しい手術で、特殊な設備が必要なため、できる病院が限られています。主治医と相談して、谷口さん夫妻は、東京都立小児総合医療センターで手術を受けることを選択しました。
「実優の病気はすべて、生まれてからわかりました。妊婦健診でも異常は見つかりませんでした。元気ですくすく育ってくれると思っていたので、まさかこんな大きな病気が隠れていたなんて…。当時は、夢であったほしいという気持ちでいっぱいでした。実優の手術は無事成功しましたが、わが子の病気を通して元気でいることは当たり前のことではないこと痛感しています」(葵さん)
お話・写真提供/谷口葵さん、取材協力/ドナルド・マクドナルド・ハウス ふちゅう、取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
実優ちゃんの東京での治療は当初2~3カ月ぐらいかかると言われました。東京での手術が決まったとき、葵さんが不安だったのは実優ちゃんの手術のことはもちろんですが、親の滞在費など経済的なことだったと言います。
病気の子どもとその家族のための滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス ふちゅう」は、1日1人1000円で利用することができます。運営はすべて寄付・募金とボランティアの活動によって支えられています。詳細は財団ホームページで確認できます。
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