妊婦健診でも1カ月健診でも異常なし。「絶対何かおかしい」と不安の日々…。難病アンジェルマン症候群【体験談】
アンジェルマン症候群は、1万5000人に1人の割合で見られるという難病で、重度の発達の遅れや知的障害などが特徴です。日本に住む5歳のアップルビー・リッキーくんも、1歳11カ月のときにアンジェルマン症候群と診断されました。ママの沙織さんは、生後1カ月もしないうちに「病名はわからないけれど、何か大きな病気が隠れている」と思ったそうです。妊娠中から生まれて間もないリッキーくんの様子について聞きました。
(写真は、生まれたばかりのリッキーくん。吸てつ反射が弱く、生後すぐからミルクの飲みが悪いのが気になっていたそう)
パパはオーストラリア出身。リッキーくんは、3人兄弟の次男
リッキーくんのパパは、オーストラリア出身で、日本でITエンジニアとして働いています。1年の交際を経て、ママは大学の看護学部に通いながら20歳で結婚しました。
「わが家は7歳、5歳、2歳の3人の男の子がいます。
長男が生まれたとき私は28歳、夫は29歳でした。その2年後に次男のリッキーが生まれました。
長男は、“できるだけ自然分娩で ”という病院だったので、出産に63時間もかかり本当に大変でした。しかしリッキーは、妊娠37週1日に突然、陣痛が来て、経腟(ちつ)分娩でわずか4時間で生まれました。出生体重は2294gです。しかし生まれてからしばらくして、“長男とは違う。何かおかしい”という不安が募っていきました」(沙織さん)
妊婦健診で心臓に穴が見つかったけれど、1カ月健診のときには異状なし
アンジェルマン症候群は、妊婦健診ではわからない病気です。
「妊娠中、気になったのは妊娠31週のときに、子宮内胎児発育遅延と言われたことです。私は体質的な問題なのか、妊娠するといつも、つわりがひどい重症妊娠悪阻(にんしんおそ)になり、長男のときは3カ月入院しました。リッキーを妊娠中は、長男の預け先がなかったので通院しながら点滴を受けていました。そうしたことが関係があるのかな!?と思うのですが、長男のときは子宮内胎児発育遅延とは言われませんでした。
また後期スクリーニング検査のとき、エコー検査で心室中隔欠損が見つかりました。
医師からは、心臓に1つ穴が開いているけれど途中でふさがる可能性もあるから、様子を見ましょうと言われました。私もずっと大学病院の小児科やGCUで、看護師として働いていたので、大きな病気を持つ赤ちゃんをたくさん見ていました。そのため心臓の穴1つではショックは受けませんでした。医師の言うとおり、経過観察するしかないと思っていました。
1カ月健診のとき医師から“リッキーくんの心臓の穴、ふさがっていますよ”と言われました」(沙織さん)
退院後、心配なことが次々と…。熱がないのにけいれんも
リッキーくんが生まれてから気になることがいくつか出始めます。
「まず初めに上の子と違うと感じたのは、新生児期に見られる原子反射の1つである吸てつ反射が弱くて、ミルクがなかなか飲めないことでした。産院に入院中も10ml飲むのに毎回40分ぐらいかかっていました。あまりに飲まないためNICUに入院することをすすめられたのですが、上の子のお世話を頼める人がいないので、ミルクの飲みぐらいならば家庭でどうにかなる!と思い、親子で退院しました」(沙織さん)
しかし退院して間もなく、ミルク以外にも心配なことが次々と現れます。
「ミルクの飲みが悪いうえ、授乳後マーライオンみたいに勢いよく吐くようになりました。そして、寝てもわずか数分で目を覚まします。
また体が棒のようにかたくピーンとつっぱっているのも気になりました。泣くとさらにつっぱります。リッキーが生まれたとき、友だちが産院にお見舞いに来て、リッキーのことを抱っこしてくれたのですが“体がかたくて抱っこしにくいね”と、何人かの友だちに言われました。今思えば、新生児期から筋肉がつっぱっていたのだと思います。
呼吸もずっとゼロゼロしていました。何の病気かはわからないけれど、絶対、何かあると思いました。
近所の総合病院を受診すると、神奈川県立こども医療センターを紹介されました。そこで肥厚性幽門狭窄症と診断されて通院することになりました」(沙織さん)
肥厚性幽門狭窄症とは、1カ月前後に診られる病気で、胃と十二指腸の間にある幽門の筋肉が厚くなっていて、通り道が狭くなるため飲んだおっぱいやミルクが胃から十二指腸にうまく流れず、逆流して噴水のように吐いてしまう病気です。
リッキーくんは、どうにか手術をせずに済みましたが、数日おきに通院し投薬の治療を受けました。
また肥厚性幽門狭窄症が見つかったあと、1カ月過ぎで発熱し、市民病院に緊急入院しました
「市民病院では尿路感染症を疑われたのですが、病院で熱が下がったあとにけいれんを2回起こしたので、嫌な予感がしました。
しかし検査をしても異常なしと言われ、何の病気なのかわかりませんでした。
リッキーには何か病気がある、絶対、何か大きな病気があるとは思っていても病名がわからず…。どうしていいのかわかりませんでした。
3カ月になり、2歳の上の子を遊ばせるために子育て支援センターによく行っていたのですが、子育て経験のあるスタッフにも“リッキーくん、何かおかしいね。ほかの赤ちゃんとは違うよね”と言われました。スタッフの中には、子どもが障害を持っている人もいたのですが、その人にも“何か気になるね”と言われて、第三者が見てもそう感じるんだ…と思い、不安でいっぱいな日々が続いていました」(沙織さん)
お話・写真提供/アップルビー・沙織さん、監修/露崎悠先生(神奈川県立こども医療センター 神経内科医長、 小児科医)、取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
アンジェルマン症候群はまれな病気のため、初めからアンジェルマン症候群を疑って検査をしないと見つけにくいと言います。一般的な血液検査だけではアンジェルマン症候群は見つかりません。またこの病気は、今のところ有効な治療法が確立されておらず、対症療法が中心となります。早期に発見されても進行を遅らせたりすることはできないそうです。
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