370gで生まれた赤ちゃんのママ。子育てで感じるつらさや悩み。集団健診では歯がゆさも【医師監修・体験談】
坂上芽(めい)ちゃんは、妊娠24週のとき体重370g、身長26.0cmで生まれました。胎児発育不全と妊娠高血圧症などのため神奈川県立こども医療センター(以下こども医療センター)に緊急搬送され、帝王切開での出産でした。今は3才になり、保育園に通っています。
小さな体で頑張っていくつもの壁を乗り越え、4カ月後には2326gにまで成長し、無事退院することができた芽ちゃん。退院後の芽ちゃんの成長について話を聞きました。(上の写真は生後71日、初めて芽ちゃんを両腕で抱っこできた日の様子)
集団健診のルールに感じた歯がゆさ
出産前には、生まれても助からない可能性もあるとも言われていた芽ちゃんですが、NICUで脳出血や胎便病などを予防するための管理により、無事に合併症を起こすことなく成長し、生後4カ月には退院。退院時には貧血の薬やビタミン剤、リンやカルシウムを補充する薬は処方されたものの、そのほかの医療ケアはなく、自宅に戻れたそうです。成長がゆっくりな芽ちゃんは、退院後、こども医療センタ―を定期的に受診し、成長の様子を診てもらっていましたが、1才半健診、3才児健診などの自治体の集団健診の際には戸惑ったこともあったと言います。
「集団健診の案内では、実月齢(※1)で健診を受けるように、とのことでした。芽は早産なので、実月齢の1才半でも実際の発達は1才2カ月くらいです。『指さしができますか』『簡単な単語を言えますか』などの、1才半健診でのチェック項目は、『いいえ』の欄にしかチェックをすることができません。
芽の成長が正常かどうかの判断は、修正月齢(※2)でないとできないはず。
そのときはかかりつけ医だった市民病院の医師に保健センターに電話をしてもらい、修正月齢で健診を受けさせてもらえることになりましたが、歯がゆい思いをしました」(彩さん)
白米しか食べない偏食に悩み、試行錯誤した日々
芽ちゃんは退院後は大きな病気はしていませんが、ぜんそくを持っているほか、RSウイルス感染症などで、3回入院をしたそうです。そのほかに、1才ころから芽ちゃんの偏食が始まったことも、彩さんの悩みの一つでした。
「1才までは離乳食はすごく順調に進んでいたんです。ところがあるとき、40度の高熱が5日間続いたときにミルクだけに戻ったのを機に、芽は離乳食を食べなくなってしまいました。私も仕事復帰をする予定があり、保育園に預けるには給食が食べられるようになっていないといけないので、こども医療センターの主治医の齋藤先生に、同センターの偏食外来を紹介してもらい、2019年12月から通いました」(彩さん)
偏食外来では、芽ちゃんのかみ方などに異常はないことから、食事の与え方や環境作りなどの指導を受けました。
「1回の食事を小さじ1くらいの少量ずつ5回に分けるとか、パンの銘柄や切り方を変えて食べさせてみる、などの食べさせ方の指導を受けました。気が散らないようにまわりにおもちゃなどを置かないこと、テーブルの向かい側に鏡を置いて4人で食べているように見せる、などの環境面も工夫しました。
そのほかに、私のかかわり方も『食べてごらん』『おいしいよ』などと言い過ぎずに楽しい雰囲気にするようにと指導され、食事の様子をビデオ録画してチェックしてもらいました。
3時間おきの食事で、準備にも時間がかかり、外出もなかなかできず、けっこうしんどかったです」(彩さん)
3カ月ほど偏食外来に通い、彩さんの努力のかいもあって芽ちゃんは50品目くらいの食品が食べられるように。
「小さく生まれた赤ちゃんは、生まれてすぐから口の中に管が入って長い期間治療をすることが多いので、その違和感があったために偏食に悩むことが多いという話を耳にします。芽は現在も、基本は米と食パンとお菓子、たまに揚げものと、食べられる種類は数えられるほど。私も悩みながら試行錯誤してきましたが、『お米は好きだし、まぁいっか』とのんびり構えられるところまではメンタルが強くなりました」(彩さん)
職場復帰にあたり、保育園を探すのにも苦労した、と彩さんは言います。
「育休を2年取得したのち、仕事復帰のために保育園を探したときには、電話で『小さく生まれて発達がゆっくりです』と問い合わせただけで『うちは保育士数が少ないから』と断られたことも。見学に行っても『いいところが見つかるといいですね』とだけ言われて終わってしまったこともあります。
何カ所も問い合わせ、運よく芽の発達に合わせた対応をしてくれる保育園に出会うことができました。偏食のことを相談したら『できる限りのことをします』と言ってくださって…。幸運でした。
今でも芽が保育園の給食で食べてくるのは白米だけです。園では、焼きおにぎりが好きな芽のために、冷凍食品の焼きおにぎりを用意してくれて、芽が給食を食べないときに出してくれているそうです」(彩さん)
リトルベビーハンドブック作成に向けてサークルを立ち上げた
芽ちゃんの成長について、悩んだり試行錯誤する日々。そんな中で、インスタグラム(以下インスタ)をきっかけに低出生体重児のママたちとのつながりができ、情報交換や気分転換ができるようになったそうです。
そしてあるとき、彩さんはリトルベビーハンドブック(以下LBH)の存在を知ります。LBHとは、1500g未満で生まれた赤ちゃんの成長を記録する母子健康手帳のサブブックのこと。静岡県や佐賀県で作成されたLBHを見て「神奈川県でも作りたい」と思い立ちました。
「静岡や佐賀のLBHには、経験者のママたちの心に響く言葉がたくさん書かれていて、すごくあったかかったんです。
LBHがあれば、低出生体重児のママたちが抱えるだれにも言えない悩みや苦しみ、健診などで感じた歯がゆさも軽くなるのかもしれない、と。インスタで知り合った日本各地の低出生体重児のママたちにも、要望書の作成に向けた動きがあり、私も、2021年7月にリトルベビーサークル『pena』を立ち上げ、LBH作成を県にお願いするための要望書の準備をすることになりました」(彩さん)
2021年10月には、神奈川県知事にLBH作成の要望書を提出。2022年3月末に予算案が通り、作成されることが確定したのだそうです。
【齋藤朋子先生より】医療面の発達支援だけでなく、家族が交流できる場を
NICU退院後も両親と一緒に外来で元気な姿を見せてくれる芽ちゃん。生まれたときから診ている赤ちゃんの成長を見守ることができるのはフォローアップ外来の喜びです。
早い週数で誕生するほど発達に影響があり、集団生活の中でそれぞれの発達状況に合わせた支援が必要になることが多いです。食事のこと、周囲のお友だちとのやりとり、小学校の選択、学習の中での困りごとなど、人生のさまざまなステージで立ち止まり悩むことがあり、その都度外来で一緒に考えています。病院でのフォローアップ外来は少なくとも9歳まで行っていますが、9歳以降も継続する場合もあります。
とはいえ、病院は医療の面からの支援はできても、家族の思いや不安をすべて受け止められていないと感じます。小さく生まれたからこその喜びや悩みを周囲に話しても、理解してもらえず孤独を感じる、というご家族の声を聞きます。小さく生まれた赤ちゃんのご家族が交流できる場は、お互いを支え合い前向きになれる機会になりますし、これからのご家族にもぜひ紹介したいです。
幼稚園や保育園で、早産で生まれたお子さんとご家族の喜びや悩みに心を寄せてくださる人たちが増えることを願っています。
お話・写真提供/坂上彩さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
小さく生まれた赤ちゃんの子育てで感じる歯がゆさやつらさがあったからこそ、「ママたちが自分を責めることなく、もっと笑顔で子育てできるようになってほしいと」坂上さんは言います。「大切なこのサークルをこれからも守っていきたい」と、笑顔で話してくれました。
※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
(※1)生まれた日から数えた月齢
(※2)もともとの予定日を生まれた日と仮定して数えた月齢