【女優・加藤貴子】「なかなか寝てくれない…」息子に困った。小児脳科学者が説く「夜寝かせる」ことより大切なこと
「寝かしつけに時間がかかる…」「朝起きても機嫌が悪い」などの子育ての悩みは、もしかしたら正しい睡眠がとれていないせいかもしれません。育児関連の悩みや気がかりについて女優・加藤貴子さんが専門家に聞く連載、第7回。7才と4才の2人の男の子のママである加藤さんが、「子どもの睡眠リズムと脳の発達」について、小児脳科学者 成田奈緒子先生に聞きました。
睡眠リズムを整えることが脳の発達に何より大切
加藤さん(以下敬称略) 新生児の赤ちゃんは昼夜の区別がないと思うんですが、睡眠のリズムは生後いつごろから意識し始めるといいでしょうか?
成田先生(以下敬称略) 新生児のときから、朝はカーテンを開けて部屋を明るくし、赤ちゃんが起きたら窓越しで日光を浴びさせてあげ、夜は暗い部屋で寝かせる環境を作ってあげてください。すると生後4カ月ころには、昼間は起きる時間が多く、夜は寝る時間が多いというふうに少しずつリズムができてくると思います。お散歩ができる月齢になってきたら、抱っこでもベビーカーでも、5分くらいでもいいので外に出て外気に触れさせるといい刺激になります。
成長によって徐々に活動する時間が長くなり、1才になるころから、昼寝が午後だけになり夜にまとめて寝るようになります。睡眠には、脳と体に休息を与え、成長ホルモンの分泌を促し、日々学んだことを記憶する役割があります。2才では約13時間、3〜5才では約11〜12時間の睡眠をとることが理想といわれています。暗い夜はしっかり睡眠をとり、明るい朝は起きる、このリズムによって体内時計を整えて、脳の土台を作ってあげることが大切です。
加藤 二男は今、4才です。何時くらいに起こすといいという目安はありますか?
成田 家を出る2時間前、たとえば8時に家を出るためには6時に起こすのが理想的です。
その理由として、朝起きることと脳の働きについてお話します。
私は「からだの脳」と呼んでいますが、脳幹、間脳、小脳など、脳の芯にあたる部分には、寝る・起きるなど生体リズムをコントロールする体内時計があります。朝、目から光が入ってきて「朝だ」と感じると自律神経が働いて目覚めやすくなります。
この「からだの脳」を覆うシワシワの脳(大脳新皮質といわれる)を私は「おりこうさん脳」と呼んでいますが、この領域は1〜18才の間に発達し、言葉・手指の微細運動・知識・スポーツなどに関連します。この「おりこうさん脳」は、「からだの脳」がしっかり起こしてくれないと働かないのです。
ですから、朝に「からだの脳」がしっかり目覚め、そして次に「おりこうさん脳」が目覚めることで、午前中の活動をするためのスタンバイができます。「おりこうさん脳」が目覚めて働く準備ができると、保育園の活動や学校での勉強などの知識や経験、記憶が蓄積されます。「からだの脳」は0〜5才に盛んに発達するので、この時期に睡眠リズムをしっかり作ることが非常に大切です。
「夜寝かせる」より「朝起こす」ことから始めよう
加藤 二男は夜寝る前にもお兄ちゃんと一緒に遊んでしまってなかなか寝つかず、朝起きる時も泣いてぐずったりしてなかなか起きられなくて困っています。
成田 睡眠リズムを整えるためには、「夜寝かせる」ことよりも「朝しっかり起こす」ことを優先するといいでしょう。抱っこできる年齢なら、朝起こしたい時間になったら抱っこしてベランダに出て朝日を浴びるのもいいですね。子どもの布団の中にママ(パパ)の手を突っ込んで「コチョコチョ星人がきたぞ〜!」なんてくすぐってみるとか、遊びながら起こす方法もおすすめです。
夏の間は寝汗をかくこともあるので、朝にぬるめのおふろを入れて泡ぶろにして水遊びをさせると、機嫌よく起きられると思います。朝から水遊びしてさっぱりすると、おなかがすくから朝ごはんももりもり食べて、うんちが出て、という流れを作れれば、子どもの機嫌がよくなるでしょう。子どもの機嫌がいいと、親もホッとしますし楽になります。
朝起きる習慣がつくと、夜は親が何もしなくても寝るようになりますので、寝かしつけの苦労も減ると思いますよ。
加藤 まずは朝起こすことが大切なんですね。7才の長男も夜寝るのが遅いので、どうしたものかと頭を抱えていたところでした。
成田 朝は起きて、夜暗くなったら寝る、という睡眠リズムがしっかりできていると、学業成績にも影響するといわれています。また、主に前頭葉がかかわる領域を私は「こころの脳」と言っていますが、ここは10才以降に発達のピークを迎えます。「こころの脳」は人間らしさの脳なので、人への優しさや、時間を見ながら自分で計画を立て、仕事を遂行する力などにかかわります。その土台となるのが「からだの脳」です。
「からだの脳」がしっかり作れていない状態だとすると、「おりこうさん脳」の知識・情報、つまり学習もうまく入ってこないし、最後に社会での役割を担っていくための「こころの脳」の機能もうまく育ちにくくなってしまいます。子どもの「からだの脳」を作るためには、小さい今の時期が頑張りどきです。
よく遊ぶこと、大人とコミュニケーションすることも脳を育てる
加藤 コロナ禍で外出自粛の時期から、わが家の子どもたちはゲームで遊ぶことや動画配信サービスを見ることが大好きになり、なかなか外遊びの機会も持てません。睡眠や脳の発達のためには運動も必要なんでしょうか?
成田 「からだの脳」の領域には、寝る、起きる、おなかがすく、ごはんを食べる、体を動かす、などの命を守るために必要な原始的な機能をつかさどっています。たとえば木登りをしてつるっと手が滑って落ちそうになった時、反射的に近くの枝をつかむ動作は、幼児期にいろんな運動をすることで鍛えられます。公園で子どもたちが自由に遊ぶのは、まさにからだの使い方を学ぶための大事なチャンスです。最近はその機会が減っているのは非常に残念なことですね。
もし公園に行けないとしても、家の中で少し運動ができるように工夫してあげるといいと思います。子どもとじゃれあうとか、プロレスごっこ、相撲ごっこをして遊んであげると、反射的な体の動きを鍛えるのに役立ちます。
加藤 息子たちもソファでジャンプしたり、2段ベッドから飛び降りたり、家の中を飛び回ってどこかにぶつかって泣いたり、毎日大騒ぎ。家がジャングルジム状態になっています。
成田 それは最高にいいことですよ。怒りたくなる気持ちもわかりますが、このご時世では多少目をつぶってみてもいいのでは。「からだの脳」がどんどん育っているということです。
また、子どもが段差から落ちたりぶつけたりしてけがをするのも、実はとっても大事なこと。転ぶ経験によって、次から転ばないように受け身の姿勢をとるとか、転んでもいちばん大事な脳やおなかを守る体勢を反射的にとるように訓練しているともいえます。
わが家は娘が小さいころは保育園に預けていてなかなか公園などに連れて行くことができなかったので、家で娘と一緒に狭いリビングでテーブルを挟んで周囲に注意しながら追いかけっこをしていました(笑)。このような遊びは、コミュニケーションの面でもいいんですよ。貴子さんは夏休みの予定はありますか?
加藤 夏休みに、お友だち家族と一緒にキャンプに行く計画を立てています。
成田 夏休みに家族以外の大人や子どもとコミュニケーションの機会があるのは素晴らしいですね。コミュニケーションにかかわる前頭葉の領域は10才以降に完成するんですが、その土台は幼児期から積み重ねられます。社会性の力をつけるには、家族以外の大人と多く接することが大事といわれています。だから保育園に預けるのも子どもにとって非常にいいことです。
家族以外の大人と接することで、いろんな大人の表情を見て状況を探ったり、同じことをやっても人によって反応が違うということを学ぶ機会にもなります。たとえば、足元の石ころをけとばしたら、お母さんは「だめよ」と言うけど、このおじさんは「子どもは元気でいいなあ」と言うとか…。そういった経験で人間の多様性について学びます。そして将来的に、人に合わせて適切な対応をするための経験値になります。
お話/加藤貴子さん、成田奈緒子先生 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
子どもの脳が発達するには、正しい睡眠をとることが何よりも大事なのだそうです。正しい睡眠は子どもの機嫌や体調のよさ、学力アップにもつながるのだとか。ぜひ小さいうちに睡眠リズムを整えてあげたいものです。
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加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。