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赤ちゃんには“背中スイッチ” ではなく“おなかスイッチ”がある!?実験からわかった5分+8分の法則とは【専門家】

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●写真はイメージです
maroke/gettyimages

抱っこでやっと寝たと思ったのに、ベッドに置いたとたん大泣き。そんな赤ちゃんの様子から、「赤ちゃんには背中スイッチがある」とか言われたり、「今日も背中スイッチが発動」などと表現されたりすることが多いですが、どうやらスイッチは「おなか」にあるようです。赤ちゃんの泣きやみと寝かしつけについて科学的にアプローチした実験結果について、理化学研究所 脳神経科学研究センター 親和性社会行動研究チーム 研究員の大村菜美先生に聞きました。

抱っこして歩くとおとなしくなるのは、哺乳類の赤ちゃんの本能

泣いている赤ちゃんを抱っこして歩くと、泣き方が徐々にトーンダウンして、おとなしくなることがあります。これは、哺乳類の赤ちゃんに見られる「輸送反応」という本能なのだとか。

「たとえば、母親マウスが子マウスを口にくわえて動き出すと、子マウスはおとなしくなり、運ばれやすい姿勢を取ります。これが『輸送反応』で、哺乳類の赤ちゃんに備わっている本能です。母親にくわえられて運ばれるときには、母親が安全にスムーズに運べるように協力しておとなしくなるのだと考えられます」(大村先生)

理化学研究所の研究グループは、生後6カ月以内の人間の赤ちゃんとママ12組の協力を得て、赤ちゃんを抱っこした状態で、ママに30秒ごとに「座る・立って歩く」という動作を繰り返してもらい、赤ちゃんの反応と心拍数を調べました。

「ママが歩いているときは座っているときと比べて、赤ちゃんの泣く量が約10分の1に、自発的な動きは約5分の1になり、歩き始めて約3秒後に心拍数が顕著に低下し、赤ちゃんがリラックス状態になりました。『抱っこされている』という触覚と、『揺れている(運ばれている)』という感覚が同時に刺激されることで、人間の赤ちゃんも輸送反応を示し、おとなしくなるのだと考えられます」(大村先生)

座って抱っこだと泣きやまないのは、輸送反応に必要な「動き」がないから

赤ちゃんを抱っこして歩く、抱っこして座る、ベビーカーを動かす、ベッドに置くという4つの行動で、赤ちゃんの状態を解析しました。

大村先生たち研究グループは、さらに、生後7カ月以下の赤ちゃんと21人のママの協力を得て、
・抱っこして歩く
・抱っこして座る
・ベッドに置く
・ベビーカーに乗せて前後に動かす
という4つの行動で、赤ちゃんの状態と心電図を記録しました。

「ママが上記の4つの行動を30秒間行った際の赤ちゃんの状態を、声や目の開閉から解析しました」(大村先生)

【泣いている赤ちゃん】抱っこで歩いたり、ベビーカーで動かしたりすると、おとなしくなっていく

Bは泣いている赤ちゃんに4つの行動を行ったときの、はじめと30秒後の状態スコアの推移です。

「泣いていた赤ちゃんは、抱っこして歩いたときと、ベビーカーに乗せて前後に動かしたときは、徐々に心拍数が少なくなっておとなしくなり、かなりの確率で泣きやみました。一方、座ったままの抱っことベッドに置いたときにはこのような変化は見られず、泣きやみませんでした」(大村先生)

【泣かずに起きている赤ちゃん】座って抱っことベッドに置いたときは、泣いてしまうことが多い

Cは泣かずに起きている赤ちゃんに4つの行動を行ったときの、はじめと30秒間後の状態スコアの推移です。

「おとなしくしていた赤ちゃんや少しだけぐずっている程度の赤ちゃんは、動いていた(抱っこして歩く、ベビーカーを動かす)ときには心拍数に変化はなく、様子も変わりませんでした。しかし、動いていない(座って抱っこ、ベッドに置く)ときは心拍数が多くなり、泣き出してしまう傾向にありました。
これらのことから、赤ちゃんが泣きやむには、動く(輸送)のが効果的であることがわかりました。

同じように抱っこされているのに、座った状態だと赤ちゃんが泣きやまないのは、『動き(輸送)』が伴わず、輸送反応が起こらないからだと考えられます」(大村先生)

座って抱っこでは泣きやまないことは、大村先生もママとして実感しているそうです。

「3才の娘が11カ月のとき、バスの中で大泣きされたことがありました。混んでいたので動けず、座わって抱っこであやし続けたけれどずっと泣きっぱなし。ところが、到着して抱っこで歩き出したとたん、ピタッと泣きやみました」(大村先生)

4つの行動の中で最も赤ちゃんの泣きやみに効果のあった抱っこ歩きについて、激しく泣いている赤ちゃんを5分間抱っこして歩くとどうなるかも調べました。すると全員が泣きやみ、約半数の赤ちゃんは寝てしまったそうです。

「このことから、抱っこして5分歩くことは、赤ちゃんの泣きやみに効果的なだけでなく、寝かしつけにも効果があることが判明しました。
ただし輸送による寝かしつけは、機嫌よく起きている赤ちゃんには、あまり効果がないようです。この理由は不明なので今後の課題ですが、泣いている赤ちゃんはもともと疲れていたり、眠くてぐずぐず泣いていたりすることが多く、その状態のほうが輸送による寝かしつけが効果を発揮しやすいようです」(大村先生)

ママ・パパとの接触面が離れると、危機感から「おなかスイッチ」がオン!!

眠っている赤ちゃんをベッドに置くときの変化。

抱っこ歩きで赤ちゃんが泣きやみ、寝たとしても、「起こさないようにベッドに置く」という難関をクリアしないといけません。今回の実験でも、抱っこ歩きで寝ついた赤ちゃんをベッドに置くと、約3分の1の赤ちゃんは起きてしまったそうです。

Dは抱っこで眠っている赤ちゃんをベッドに置く際、体が離れ始めたときに心拍数が増えて覚醒方向に向かうことを示したグラフです。体の一部がベッドに着地するときは、すでに心拍数が少ない状態になっています。

「赤ちゃんの心拍数は、睡眠や覚醒の状態をコントロールする自律神経の活動状態によって敏感に変化するため、心電図を解析しました。すると、抱っこで寝ている状態からベッドに置くとき、赤ちゃんの心拍数が多くなり、覚醒の方向に変化したのです。しかも、このタイミングは背中がベッドにつくより早く、赤ちゃんの体がママから離れるときだったことがわかりました。
ベッドに置く速さや体を置く順序を変えるなど、いろいろな置き方で調べましたが、どの方法でも赤ちゃんが覚醒し始めるタイミングは、ママとの接触面が離れるときでした」(大村先生)

つまり、ベッドに置くときに赤ちゃんが目を覚ます「スイッチ」は、背中ではなく、「おなか」にあったというのです。

「サルなど霊長類の赤ちゃんは常に親の体にしがみついているため、自分の体が親から離れるときは何かの危険に遭遇したときかもしれません。ヒトの赤ちゃんにもこのような本能が残っていて、抱っこしているママ・パパと接触しているおなかが離れると、眠りのレベルが浅くなるのだと思われます」(大村先生)

5分の抱っこ歩き+8分の座り抱っこで、おなかスイッチを“オフ”に

では、おなかスイッチを作動させずにベッドに置くにはどうしたらいいのか。その方法を探し出すために、ベッドに置くときに赤ちゃんが起きてしまったグループと、眠り続けたグループで、寝かしつけ方に違いがないか、大村先生たちは調べました。

「はっきり違っていたのは、ベッドに置く前に赤ちゃんが寝ていた時間の長さでした。起きてしまった赤ちゃんは眠り始めてから平均3分後、寝続けていた赤ちゃんは平均8分後にベッドに置かれていたのです。
寝ついてすぐの睡眠(ステージ1睡眠)は、まだ眠りが浅くてちょっとした物音でも起きてしまうことが睡眠の研究で明らかになっています。赤ちゃんのステージ1睡眠の長さは平均8分程度なので、これより深い段階の睡眠になってからベッドに置くと、赤ちゃんが起きにくくなると考えられます。

以上のような実験結果を踏まえ、赤ちゃんの泣きやみと寝かしつけには、
①赤ちゃんを抱っこしてできるだけ一定のペースで5分間歩く
②その後、抱っこしたまま座って5~8分程度待ってからベッドに置く
という手順を踏むと、ベッドに置いても赤ちゃんが起きにくく、さらに深い眠りに入れる可能性が高くなるでしょう」(大村先生)

座って抱っこしている間は、トントンしたり、体をゆらゆらしたりしたほうが眠りを深くするのに効果的でしょうか。

「トントンやゆらゆらは寝かしつけの定番ですね。でも眠った後は逆効果であることが、今回の実験でわかりました。赤ちゃんは眠っていても抱っこしているママ・パパの行動の変化を敏感に察知し、反応します。抱っこの手の位置が変わったり、体の向きが変わったりするだけで心拍数が増え、覚醒に向かってしまうのです。そのため座って抱っこの5~8分は、できるだけ同じ状態をキープすることが大切。すると、赤ちゃんが深い眠りに入りやすくなります」(大村先生)

何もせずじっと抱っこしているのは結構つらそうです。抱っこしたままスマホを触ったりするのはダメですか?

「赤ちゃんを抱っこする手の位置などを変えなければ、スマホなどを操作するのはOKです。ただし、寝かしつけは抱っこでも、抱っこのままよりベッドに寝かせたほうが赤ちゃんが深く眠れることがわかっているので、スマホは8分程度で切り上げて、ベッドに赤ちゃんを置いてくださいね。

今回の実験はママに行ってもらいましたが、ママ以外の人でも効果があると考えられます。パパもぜひ試してみてください」(大村先生)

赤ちゃんに心電図をつけて行った実験でわかった、赤ちゃんの「おなかスイッチ」を作動させにくい寝かせ方があります。ベッドに置くと赤ちゃんが起きてしまうと悩んでいるママ・パパは、試してみるといいかもしれません。

お話・監修・図版提供/大村菜美先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

大村菜美先生生(おおむらなみ)

PROFILE 
理化学研究所 脳神経科学研究センター 親和性社会行動研究チーム 研究員。鳥取大学大学院 医学系研究科 機能再生医科学専攻。博士(再生医科学)。鳥取大学大学院 医学系研究科 プロジェクト研究員を経て2015年5月より現職。3才の女の子のママ。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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