いじめ問題のレスキューとなる?文科省の「スクールロイヤー制度」
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今年も残すところ、あとわずか。「2017年の重大ニュース」なども報道され始めるなか、記憶に新しい座間事件をはじめ、いじめや自殺などにまつわる痛ましい事件も数々ありました。この問題に、解決策はないのでしょうか?
そこで思い出されるのは、9月頃にニュースサイトなどで話題となった「スクールロイヤー(学校弁護士)」。その背景には、文部科学省(以下、文科省)の来年度(2018年度)予算の概算要求で、「スクールロイヤーの調査研究費用として約5000万円が計上された」ことがあります。本年度(2017年度)の予算が300万円だったので、要求額としては約17倍ものアップです。
国が力を入れているスクールロイヤーとはいったいどういったものなのでしょうか?文科省の担当者に話を伺いました。
学校内の問題に法的な視点からアドバイス
「学校内で深刻となっているいじめ問題。SNSの普及によりネットいじめも増加しており、いじめによる不登校や自殺…など、目を覆いたくなる事件もたびたびニュースになっています。ほかにも、児童生徒への体罰、世界一激務ともいえる教員の勤務状況、保護者や地域からのさまざまな要望への対応など、学校ではさまざまな課題が。それらを法律の専門家である弁護士が学校と連携し、法的な視点から予防や解決を図っていくのがスクールロイヤーです。
来年度事業では、事業を行う自治体がスクールロイヤーにふさわしい弁護士を選び、学校への指導等を進めていきます。具体的には以下のような活動を想定しています」
1 いじめの予防教育
「いじめは法的にどのような罪となりうるのかを生徒たちに伝えることで、いじめ予防をねらいます。たとえば、いじめに関するワークシートを弁護士が作成し、総合的な学習の時間などでワークシートをもとに先生が生徒たちと考え、話し合うなどの試みです。
子どもたちが軽はずみに手を出しがちなSNSによるいじめも、時には刑事罰の対象になったり、損害賠償責任を問われたりすることもあります。それらを裁判例などを示しながら教えるとともに、時にはワークシートなどを活用して具体的ないじめのケースを例にあげ、『こんな時にどうするべきか?』といった指導を行うことが考えられます。その結果、生徒たちは、いじめられたときの解決法や、いじめがいかに重い罪となりうるのかを具体的に理解することができます」
2 学校での法的相談への対応
「学校を取り巻く問題について学校側が弁護士に相談し、法的アドバイスを受けたり、教員向けの研修で法的な知識を学んだりすることで、効率的に問題解決が図られることが期待できます。
たとえば、地域や保護者からのさまざまな要望に対しても、法的な知識をもとに対応することで、教員の精神的な負担も軽くなり、早期の問題解決にもつながると考えています」
3 法令に基づいた対応の徹底
「『いじめ防止対策推進法』などに基づいて、学校でいじめ問題への対応が徹底されているかを弁護士が法的側面から確認します。要するに学校のお目付け役といったところです」
実践している学校での成果は大きいスクールロイヤー
「スクールロイヤーの活用に関する調査研究事業は、本年度からすでに始まっていて、本年度は、全国2カ所(大阪府箕面市、三重県)が手を上げ、小中学校・高校でいじめ予防授業が実施されています(本年度事業では、いじめ予防教育のみを実施)。
このほか、国の取り組みとは別に、大阪府では大阪弁護士会と行政が連携して平成25年度からスクールロイヤー事業を導入し、岡山県でも岡山弁護士会と一緒になって独自にスクールロイヤーを活用しています。
調査研究事業を行った学校への聞き取り調査によると、授業を受ける前とあとで、いじめに対する生徒たちの意識が『いじめは絶対にいけない』『いじめはなくせると思う』という方向へ変わっているといいます。文科省ではスクールロイヤーを『大きな成果が期待できる』と考え、来年度も予算要求を行うとともに、予算額を大幅にアップさせました」
教員たちの精神的負担減! 教育現場にいい影響も
「教員の負担を減らすねらいもあります。教員の長時間労働や精神的な負担が問題視されていますが、地域・保護者などへの対応に多くの時間を取られるという現場の声もあがっています。
そうしたとき、先ほど紹介したように、弁護士からアドバイスをもらうことで、法令等に基づき、適切な対応策を講じることできます。教師の負担が軽くなり、子どもと向き合う時間が増えれば、教育現場がより充実することが期待できますね」
スクールロイヤーは、予算が要求どおり確定すれば来年度は全国10カ所への拡大を予定しています。学校のしくみや問題に詳しい弁護士の育成や、制度を導入したことによる成果の検証など、まだまだ調査段階ですが、数年後にはスクールロイヤーも当たり前となり、深刻ないじめなどの問題が今よりもずっと少なくなっていることを願います。(取材・文/井上裕紀子、ひよこクラブ編集部)
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