「ママが笑顔でいるのがいちばん、という言葉がプレッシャーに」「育児ノイローゼ寸前だった」孤独な育児を体験してやっと行き着いた先【奥山佳恵×加藤貴子】
家族ぐるみで仲よしという俳優の加藤貴子さんと奥山佳恵さん。2人とも男の子2人のママで、奥山さんは二男のダウン症を公表しています。『たまひよONLINE』で連載を持つ加藤さんと奥山さんが対談。たまひよ世代のママやパパからは子育ての少し先輩の2人に、やんちゃな子どもとの向き合い方や、乳幼児期の育児を振り返って思うことなどについて聞きました。
状況は変わらなくても受け止め方一つで状態は変えられる
――20歳と11歳のママである奥山さんと8歳と5歳の男の子のママである加藤さんは、家族ぐるみで旅行にも行くほど仲よしだそうですが、お互いのママとしての姿をどう見ていますか?
奥山さん(以下敬称略) うちは上の子が10歳のときに2人目が生まれたから、長男が親側の子育て要員になってくれていたけど、貴ちゃんは歳の近い子を2人同時に育てているから、いつも嵐の中にいるっていうイメージ。大変だろうなぁ~って、いつも見ています。海やキャンプ場に遊びに出かけると、あっちをつかまえればこっちはもうぬれてる、みたいな(笑)
貴ちゃんの車の中には洋服でぎゅうぎゅうの収納ケースが入っているんですよ~。何があってもすぐ着替えられるようにってことみたいで、車の中になんでもそろっている感じ。でも、初めて見たとき「えっ!家出?!」って思いました(笑)
加藤さん(以下敬称略) うちの子たちは海近くの佳恵ちゃんの家に遊びに行くと「海なんか入らねーよ」なんて言ってるそばから、次の瞬間には波をかぶっていたりするんだよね(笑)。だから子どもたちの着替えは1着や2着ではたりないんです。
奥山 遊びに行くと子どものどっちかが、いつもびしょびしょだもんね(笑)。やんちゃで、想定外のことをしてくれる楽しい子どもたち。母として日々鍛えられているんだろうな、と感じます。
でも貴ちゃんは「それはダメ」と頭ごなしに言わずに、子どもたちの言い分を受け止めてあげているよね。1人は海に行きたい、1人は行きたくない、って2人の意見が違うと、意見が一つになるまでちゃんと寄り添ってあげる。だからきっと子どもらしくのびのび育つんだなぁって思います。
加藤 52歳にもなると戦えないんだよね(笑)。やめて、って言ってもどうせやるんだから、次に備えておこうってだけだよ。
よく、“ママが笑顔でいるのがいちばん”って言葉を聞くけど、私にとっては結構プレッシャーだったんです。子育ては大変なことが多いしそんなにいつも笑ってられないじゃないですか。でもね、おおらかな佳恵ちゃんと一緒に過ごしていると、気づくと私もずっと笑ってられるんですよね~。そんな私を見て、子どもたちも楽しく過ごせてる気がします。佳恵ちゃんと一緒に過ごすようになってから、ママが笑顔でいると子どももきっと楽しいんだなって、大切なことなんだって理解できるようになりました。
奥山 私は子育ての早い段階で「自分1人では育てられない」とさじを投げましたから(笑)。いろんな人に甘えて助けてもらって、おかげで2人の子どもが育っているなって思います。「状況は変わらなくても自分の受け取り方ひとつで状態は変わる」と思っています。雨が降っているなら、その状況で楽しめることを探したほうがいいなって。
加藤 佳恵ちゃんはまさにその言葉どおりに実践している人。今をどう楽しむかの発想の違いだけで、どれだけ1日を豊かに過ごせるようになるか、佳恵ちゃんと子どもたちとの過ごし方で学びました。
長男の産後は、ほとんど育児ノイローゼだった
――子育てをおおらかに楽しんでいる奥山さん。周囲を巻き込んで子育てできるようになったのはどんな経緯があったのでしょうか。
加藤 佳恵ちゃんは大家族の長女だよね?長女のイメージって、自分で頑張ってしまいそうだけど、まわりの人に甘えられるようになったのはどうして?
奥山 長男の産後はたしかに1人っきりで頑張ってしまって、すごく大変だったんです。長男を出産したのは2003年、28歳のとき。私は東京出身で、当時の私の身近には、学生時代からの地元の友だちはいるけれど、子育てをしているお友だちは1人もいなくて。自営業で毎日お店を開けている実家には頼れないし、夫が仕事に出かけると家の中でずっと長男と2人きりで孤軍奮闘してました。
長男が生まれて3〜4カ月は、頼れる人もいないし、頼り方もわからないし、不器用だし情報もなくて、笑うことができない日々でした。
おまけに長男は全然寝なくてずっと泣いている子だったんです。私が神経質にピリピリしていたから余計に悪循環だったのもしれません。
長男は6月生まれ。いちばんお世話が大変だった夏の時期、私は10日間おふろに入れないことがありました。今思えば、多少赤ちゃんが泣いてもベッドに置いてシャワーを浴びればいいってわかるんですけど、当時はとにかく寝かさなきゃ自分の時間はないって思い込んでいました。
そんなとき応援に来てくれた母に「あなた公園のにおいがする」って言われたんです(笑)。「おふろに入ってきなさい」って。
加藤 いつも笑顔の佳恵ちゃんにも、つらい時期があったんだね。
「甘え上手」になれたきっかけは、移住したことと仕事で得たメッセージ
――一生懸命子育てしようとするあまり、つらくなってしまっていたんですね。そこから何か変わるきっかけがあったんでしょうか。
奥山 あのときは追いつめられていて、ほとんど育児ノイローゼになる寸前、「育児ノイロー」ぐらいまではいっていた感じだったかと・・・。子どもがあまりにも寝なくて、自分も寝ていないから健康的な発想になれなくて「こんな泣きやまない子いらない」なんて思ってしまったことも何度もありました。今思うと、当時のマンションの6階の部屋の窓からよく落とさなかったなっていうくらい、つらい毎日だった。テレビで虐待のニュースを見ると、本当にこれは紙一重でだれにでも起こりうることだって思っています。
鬱屈した子育てをしている私を見て、夫が「環境を変えてみよう」って、長男が生後9カ月のときに神奈川県の藤沢市に引っ越すことにしました。
加藤 環境を変えるといっても、まったく知らない地域に行くのは決して楽じゃなかったはず。どうしてたの?
奥山 東京にいても孤独だったから、どこでもよかったんです。藤沢に居を移してみたら海も広いし、なんだか心が解放された気がします。長男が9カ月のころに藤沢に移住して、ちょうどそのころにNHKさんの子育て番組「すくすく子育て」のMCの仕事が始まったのも大きかったと思っています。
いろんな分野の子育ての専門家の先生の話を聞くことができて、夜泣きとか本の読み聞かせとか、知らないことだらけの子育てのいろいろをリアルタイムで勉強することができました。
その中でなるほどと思ったのは、子育てのキーワードは「いかに甘え上手になるか」ってこと。1人でできることには限界があるから、甘えられるカードを1枚でも多く持ったほうが子育ては楽になる。何人もの専門家の方から「助けてください」をできるだけ言いなさい、1人で頑張らなくていいってメッセージをもらえました。
それで、藤沢では長男の保育園でできた同世代のお友だちや地域の人と知り合って、いろんな人に声をかけ始めてネットワークを作っていきました。「甘え上手は子育て上手」って考えられるようになりました。
お話/奥山佳恵さん、加藤貴子さん 撮影/山田秀隆 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
いつも笑顔で明るいイメージの奥山さんも、長男の産後は精神的にとてもつらかったのだとか。今は周囲の人を巻き込みながら楽しく子育てをする奥山さんの姿から、加藤さんもたくさんのことを学んでいるそうです。
奥山佳恵さん(おくやまよしえ)
PROFILE
1990年、映画の全国オーディションにてグランプリを射止め、92年主演でスクリーンデビュー。翌年日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。以降、ドラマ・バラエティー番組などで活躍。2001年結婚、翌年長男を出産。2011年には二男を出産、その後二男がダウン症候群であることが判明。現在は、2度の子育て、ダウン症の二男を迎えての家族の日々などを伝えることでダウン症への理解を深めてほしいと、TVやイベント出演、講演活動なども積極的に行っている。著書に「眠れぬ森の育児」(主婦の友社)「生きてるだけで100点満点!」(ワニブックス)がある。
加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。2014年に第1子となる男児、2017年に第2子となる男児を出産。著書に自らの妊活や不妊治療についてを語った『大人の授かりBOOK~焦りをひと呼吸に変える がんばりすぎないコツ~』がある。
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。