【5歳児健診とは?】任意健診って受けたほうがいいの? 子どものかんしゃくや緘黙、ネット依存傾向などで悩む人も
0歳代には頻繁にあった健診ですが、1歳6カ月健診のあとは、3歳児健診、5歳児健診、そして就学前健診と、期間があくことになります。3歳児健診と就学前健診は、どちらも理由がない限りほとんどの子が受診しますが、その間の5歳児健診は受けない子も少なくないです。5歳児健診は任意健診で、自治体によっては有料の場合も。5歳児健診とはどんな内容で、どんな子が受けたほうがいいのでしょうか? 子どもの発育・発達や、発達障害に詳しい小児科医の綾部敦子先生に聞きました。
5歳児健診では、就学前健診よりも子どもの様子をこまかくチェックできることが多い
就学前健診は、一般的に年長の秋~冬ごろに行われます。一方5歳児健診は、5歳の誕生日を迎えた子が対象で、年中の間または年長の前半に受けることができます。早生まれの子は5歳児健診から就学前健診までの間があまり空かないこともあります。就学前健診の前年に5歳児健診を受ける意味はどこにあるのでしょうか。
「就学前健診は集団で受けることもあり、集団での適応については確認できますが、一人一人の子がどこまで言葉の意味や指示をわかっているかはこまかく確認できない面もあります。その点、5歳児健診は個別健診なので、それぞれの子の発達の状態をよりしっかり確認できると思います。発達障害の可能性があれば、療育施設や専門の医療機関による支援につなげることもできます。
発達障害は子どもが小学校に入学後、行動やコミュニケーションの問題が顕在化することで気づくケースも多いです。5歳児健診のタイミングでコミュニケーションの問題や、発達障害が疑われれば、就学までの1年間に療育などを受けて小学校入学の準備ができるかもしれません」(綾部先生)
5歳児健診は自費負担になる自治体も多くあります。そのため、受けるかどうか迷う親もいるでしょう。
「有料の場合もありますし、すべての子に5歳児健診を受けることをおすすめしているわけではありません。任意なので、親が問題を感じていなければ受けなくてもいいでしょう。
健診はあくまでも診断を伴わないスクリーニングです。ママやパパが育児に悩んでいる、発達障害について気になっているという場合は、ぜひ相談がてら気軽に受けてもらえたらと思います。
また、幼稚園の年少、年中と2年くらい集団生活の中で過ごしてきて、『集団だとちょっと浮いちゃう』とか、発表会などイベントのときなどに『やっぱりうちの子落ち着きがないな』などと感じていたら、就学前健診まで待たずに5歳児健診のタイミングで医師に相談することをおすすめします」(綾部先生)
問診は、医師と子ども本人とのやりとりありきで進むのが基本
5歳児健診の実施内容は、自治体や担当する医師によって若干の違いがありますが、問診、身体計測、内科診察が基本です。これに視力検査が加わることもあります。
「自治体にもよりますが、5歳児健診で視力検査をすることも。視力の発達は小学校入学までにほぼ完成するといわれていて、5歳のときに片目が乱視、強い遠視などがあると斜視や片目の弱視を起こす心配があるため、5歳児健診で診ておこうというねらいがあります。また、視力は学習にとって重要な情報入力源でもあります」(綾部先生)
問診では生活習慣が身についているかどうかを聞き、子どもにさまざまな質問をして言葉で答えさせたり、ある一定の動作をまねさせたり、言葉の概念の理解を確認したりします。
「医師によって質問はさまざまですが、『なんという保育園に通っていますか?』『おうちのカレーはおいしいですか?』などの会話ができるか、両腕を上や横に上げる動作を見てまねできるか、目を閉じて立ったり片足ケンケンしたりといった協調動作ができるか、『靴って知っている?何をするもの?』と物の概念を聞いて、ちゃんと理解し、言葉で表現できるかなどを診ます」(綾部先生)
5歳児健診の問診は、就学前健診よりもかなり詳しい内容であることが多く、3歳児健診とも大きく異なります。
「3歳児健診との大きな違いは、医師が子ども本人に質問し、どう応じるかを診るのが格段に増える点です。5歳になると、3歳に比べて本人が出す情報量が圧倒的に増えるので、そのやりとりの様子から、医師は自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、発達性協調運動症などの発達障害の疑いを探ります」(綾部先生)
5歳児健診の時期に多い悩みは、かんしゃくや緘黙、ネット依存傾向
綾部先生が5歳の子のママやパパから相談を受けることが多い悩みは「かんしゃく」だそう。ただ、発達障害が疑われる場合と、そうでない場合が混在するため、頻度やおさまるまでの時間、起こす場所が自宅だけか外でもかなどを確認する必要があると言います。
「発達障害の診断を受ける子のかんしゃくは床にひっくり返って1時間ギャーッと泣きっぱなしとか、気を取り直すまで1時間以上かかるなど、行動の激しさと気持ちを取り直すまでの時間の長さが全然違います。かんしゃくの症状を抑えないと子ども自身もかわいそうですし、ママ・パパもストレスがたまって子どもに接するのがしんどくなってしまいます。まずは漢方薬の服用をすすめることもありますし、話を聞きながら解決法、対応法を考えます。一方、発達障害の診断までにはいたらない子の場合は集団生活に慣れるにつれて、だんだんとおさまっていくことがほとんどです」(綾部先生)
そのほかに5歳ごろの悩みで目立つのは、家では話せるのに外では話せない緘黙(かんもく)、タブレットやスマホなどのネット依存傾向だそうです。
「緘黙については、話すことを無理強いしないよう指導しています。指さしで意志を確認したり、特定の先生とこしょこしょ話ができたりするなら、私はそれでいいと思います。本人が安心して園生活を送ることがいちばんですから。小学校に上がったあとも困るようなら相談にのるというスタンスです。
ネット依存傾向は小学校に上がったらますます問題になるのは目に見えています。一度リセットして使う頻度や時間などのルールを決めて親が管理することをおすすめしています。また、タブレットやスマホで動画などを長時間見ている子は、パズルやブロックなど手先を使った遊びする時間が短い分、不器用なことがあります。学習障害でなくても就学後、字を書くのに苦労するといった影響もあるので、5歳のタイミングで相談されたら、注意が必要だと話しています」(綾部先生)
監修/綾部敦子先生 取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部
5歳は集団での適応に明らかな問題が出てくる時期です。まわりのお友だちがだんだんと集団に適応していく中、「どうしても浮いてしまう、なじめない」「一度かんしゃくを起こすと、気持ちがおさまるまで時間がかかる」という場合は5歳児健診を受けて医師に相談するといいでしょう。医師のアドバイスで、気になっていたことが解決するかもしれません。また、もしもそこで発達障害が疑われれば療育などの支援を受け、就学までに準備ができることがあります。
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。
綾部敦子先生(あやべあつこ)
PROFILE
ゆうすずこどもクリニック副院長。小児の発達診療を専門とし、東京都立城北特別支援学校学校医、埼玉県立蓮田特別支援学校巡回医、埼玉県南部保健所子どもの心の健康相談相談医などを歴任。日本小児科学会小児科専門医・小児科指導医、日本小児心身医学会認定医、日本小児保健協会所属。二児の母。
多機能の子育て支援施設「アンチクラムジーステーション」を運営し、人それぞれが持っている、いろいろな「ぎこちなさ」をやわらげるプログラムを提案している。