パパの「育休推進」はあっても「育児支援」がない。仕事と育児の両立に悩む父親と、産婦人科医が出会って始まった【「子育てのミライ応援プロジェクト」エントリー団体の活動紹介1】
これからの子育ての未来を広げるために、現在たまひよでは「子育てのミライ応援プロジェクト」を実施中。生み育てやすい社会の実現に向けて頑張る3つの団体の活動に対して、ママやパパに投票してもらう取り組みです。本日は、エントリー団体の1つである「Daddy Support協会」担当者に、活動の誕生秘話をお話してもらいます。
「赤ちゃんはいつ産まれるか?」も知らない父親たち
いきなりですが、「赤ちゃんが産まれるのは、妊娠何週から何週まで?」
この質問に自信を持って答えられる男性は、どれくらいいるでしょうか。
正解は37週から42週。実はこの質問を多くのプレパパ・育児中のパパに聞いたところ、わずか1割しか正しく答えられませんでした。「40週0日が“予定日”」というのはよく知られていると思いますが、「予定日前後1週間くらいで産まれる」と考えている方も決して少なくありません。
結果として、37週で出張に行ってしまうパパや、予定日前後で休暇を決めてしまうパパなど、色々なトラブルが現場で起き、パパもママも苦しんでいる。そんな現状があるのです。
近年、男性も育休を取ることが推奨されるようになりました。男性育休に関する法律も変わり、取得率もどんどん上がっています。これ自体は素晴らしいことですが、男性が育休を取って、育児をできる「環境」は整っているでしょうか?
妊娠したら母子手帳を渡され、妊婦健診に定期的に行き、助産師や保健師のサポートを受け、母親教室で学び、産後うつのスクリーニングもされている母親。しかし父親には、これらのサポートは全くありません。
もちろん、男性は妊娠をしないため身体の変化はありません。父親に健診は必要ないでしょう。しかし専門職のサポートや学ぶ機会なくして、「父親」になれる男性はどれくらいいるのでしょうか。
母親も、赤ちゃんが生まれたら自然に育児ができるようになるわけではありません。初めての育児は、学んで、教えてもらって、支えられて、ときには失敗もして、そうして少しずつ「親」になっていくのです。パパだってこれは同じ。「母性神話」がないのと同じで、「父性神話」だってないのです。
男性の育休などが進む今だからこそ、こういった「社会的支援」が必要なはずなのに、日本ではほとんど行われていない現状があるのです。
男性の育休、「推進」しても「支援」がないと?
「育休推進」ばかりが先行し、「育児支援」が置いてけぼりになると、どんな問題が生じるのでしょうか。
このリアルな現状を表している言葉が、「取るだけ育休」です。これは育休を取得したものの、短期間のためほとんど育児に携われなかったり、そもそも育休期間中に育児を全然していない状態を指す言葉ですが、この背景には「育休前後の支援不足」があると考えています。
女性は妊娠40週を通じて、妊婦健診などで専門職と接することもあり、ある程度準備をしながら「母親」になっていきます。それでも産まれたらすぐに上手に育児をできるわけではありませんが、男性にはこのような機会はありません。「育休を取る」としても、その育休までに学んだりする機会は少なく、多くの男性は準備なしで育休に突入するのです。
そして育休が始まったときには、既に家には赤ちゃんがいて、すぐにお世話をしなければならないのです。全く知識もない父親がいきなり育児を頑張ろうとしても、「わかっていない」「なにもできない」状態になりかねません。結果として、「何をやろうとしてもママに怒られてしまう」というパパも少なくありません。
さらに育休明けも、会社や周囲の支援がなければ、育児と仕事の両立は難しくなります。残業ばかりでは当然育児に関われないですし、両立を頑張ろうとした結果、どちらもキャパオーバーしてしまうパパも少なくありません。
実際に、産後にメンタルヘルス不調を起こしている父親は10%程度いるという国立成育医療研究センターの調査もあり、この割合は母親と同程度。片方のメンタルヘルス不調は、もう片方の不調のリスクでもあり、本当は母親・父親関わらず、親として育児をしているのであれば、周囲が支援し、孤立させないことが重要なのです。
だからこそ、育児支援がほとんど「母親だけ」に向けられている現状を変える必要があるのです。「育児をするなら、誰だって支援されるべき」。そのためにはまず、父親向けの支援が必要だということを広めていかなければなりません。
苦しんだ父親たちと、産婦人科医で「男性育児支援」を変える
このような問題を解決しようと立ち上がったのが、(一社)Daddy Support協会のメンバーたち。
きっかけは、代表理事で産婦人科医・産業医の平野が発信していた「男性の産後うつ」に関する記事を、まさに当時育児で追い込まれていた、理事の斉藤が読んだことでした。
「この人に聞くしかない、とすぐにFacebookで探して、メッセージしました。」と語る斉藤は、娘の育児も、自身が経営するプロジェクトデザイン事務所の経営も全部頑張ろうとして、追い込まれてしまっていました。
同時期に育休を1年×2回取り、男性の育児環境に疑問を感じていた、理事で男性保育士の中西と平野も出会い、意気投合。
この2人を平野が引き合わせ、3人になったところから、活動がスタートします。
「それまで、医師・ジャーナリストとして、『こういう問題がある』という分析や発信はしていました。でも『どうやって解決するか』が見えていなかった。この2人と出会ったことで、そこがぐっと進みました。」と平野が語るように、このあと団体として様々な活動をスタートしていきます。
2023年4月にクラウドファンディングを行い、400名を超える方から500万円近くの支援を獲得。現在は父親向けに妊娠初期から使えるリーフレットや父子手帳の開発・メンタル不調の早期発見などの取り組みを、自治体や企業と進めています。
また代表理事の平野が4月に「ポストイクメンの男性育児」(中公新書ラクレ)という新書を出版。「男性の育児環境を、社会問題として捉える」という姿勢で、様々な場所で啓発活動も続けています。
そんな団体のスローガンは、「父親を支える、家族を守る」。
「育児をする全ての人が、多様な生き方を選べる社会」と「誰もが健康に育児をできる社会」を目指して、色々なアプローチを続けています。
次回は私たちの活動や、提供するサービスの中身について、様々な方の声も交えて紹介していきます。
文/ Daddy Support協会 広報担当 構成/たまひよONLINE編集部
【10/2から!ぜひ投票にご参加ください】
「子育てのミライ応援プロジェクト」では、ほかにも、妊娠育児の社会課題に取り組む団体をご紹介しています。妊娠中・0歳1歳のママパパのみなさま、「これからの子育ての未来を広げる」ため、ぜひ応援したいと思う活動や団体に投票をしてください。投票は10/2(月)からスタートの予定です♪
プロフィール
一般社団法人 Daddy Support協会
代表理事 平野 翔大(産業医・産婦人科医・医療ジャーナリスト)
慶應義塾大学医学部卒業後、初期研修・産婦人科専門研修を経て、現在は産業医として20社近くを担当。産婦人科・産業医の現場で「男性の育児環境」に問題を感じ、男性育児支援の推進団体として2022年に(一社)Daddy Support協会を創設。経済産業省「始動 Next Innovator」に採択され、自治体・企業と協働した活動を進めている。また医療ジャーナリストとしても同問題を論じ、単著「ポストイクメンの男性育児」(中公新書ラクレ)はじめ、多数のweb記事執筆・講演も行う。
twitter:@waterfall27fly
※記事の内容は2023年9月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。