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「障害のある子も外出の機会を増やし、たくさんの経験をしてほしい」自身の経験をきっかけに、ポータブルチェアを開発したママに聞く【体験談】

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屋内にも屋外にも持ち運んで使えるポータブルチェア。飲食店の椅子にも、ピクニックにも使用可能。

長男が生後8カ月で脳性まひによる運動機能障害があると診断された松本友理さん(39歳)。現在は7歳になる長男と夫との3人家族です。松本さんは、当時働いていたトヨタ自動車を休職して3年間長男のリハビリに取り組む中で「障害がある子と家族が社会から気づかれにくい」という課題に気づきました。その課題解決のため、それまで勤めていたトヨタ自動車を退職し、折りたたみ式の子ども用チェア「IKOUポータブルチェア」を開発。
松本さんに、長男の子育てで感じた課題や、ハードルを乗り越えるために試行錯誤してきた経験について聞きました。

障害がある子は自分自身で「やりたい」をかなえることが難しい

――息子さんの子育ての中で、障害のある子とその家族の課題としてどんなことに気づきましたか?

松本さん(以下敬称略) 息子は生まれつき発達がゆっくりで、生後8カ月のときに脳性まひによる運動機能障害と診断されました。息子が1人で床の上で座れるようになったのは3歳半のころ。7歳の今でもサポートがないと長時間座り続けることが難しい状態です。自宅では特注の福祉機器の椅子に座って過ごしていますが、大きくて重いので持ち運ぶことはできません。そのため、家族での外出のあらゆる場面で課題を感じていました。

たとえば家族での温泉旅行では、のんびり温泉に入って部屋でおいしいごはんをゆっくり食べるのが醍醐味(だいごみ)ですよね。でもわが家の場合は息子が座れるものがないとごはんも抱っこして食べさせないといけません。旅行だけでなく家族での外食や買い物など、たくさんの場面で外出のハードルを感じていました。
そこで、障害があっても生活や外出が少しでも楽になるようなプロダクトがないか、実益を兼ねた趣味みたいな形でいろいろ探したりしていました。

――どんなものを探していましたか?

松本 私の場合はいちばん困っていたのが椅子だったので、「こんなに椅子があってどうするの?」というくらい、いろんな椅子を買って試してみていました。最終的によく使っていたのは首がすわった赤ちゃんをおすわりの姿勢に保ってくれる椅子やおふろのバスチェアなど3種類くらいです。空気を入れてふくらませて使うバスチェアは持ち運びに便利なんですが、おふろで使うものを外に持ち出して使っていたので、気づかないうちに穴があいたりして・・・同じものを5個くらいリピートして買いました。
そのほかいろいろと試行錯誤しながら、息子と一緒に生活や外出がしやすくなるように工夫していました。

――障害のある息子さんとの外出は、家の外での体験をさせてあげたい思いもあったのでしょうか?

松本 子どものころからいろんな体験を積むことはすごく大事なことだと思います。でも障害があるために自分で移動することが不自由な子どもたちは、興味があっても自分でそこに行くことができなかったり、「これに触りたい」「これで遊びたい」と思っても、うまく実現できなかったりします。自分自身で新しい体験を獲得することがすごく難しいんです。

子どもに障害があるからこそ、いろんなところに連れて行っていろんな経験をさせてあげたいという思いは、私自身も強く持っていました。周囲の障害児を育てる家族もそういう思いが強いと感じます。ただ、それには物理的なハードルがあるから、それをどう乗り越えるかを課題に思っていたんです。

家族の気持ちに寄り添う「インクルーシブデザイン」の椅子を開発

姿勢が安定する座面の形状の工夫によって、乳幼児が座りやすく、そのまま眠ってしまうことも。

――そのような課題を感じていたことから、障害のある子の家族が気軽に持って外出できる「IKOUポータブルチェア」を開発したんですね。

松本 息子のように運動機能障害がある子どもは体幹が弱いことが多く、座った姿勢を自分で保つことができないので、市販されているベビーチェアが使えません。そこで、障害がある子も気軽に持ち運んで家族と外出できるような椅子を作りたいと思いました。

――こだわったポイントはどんなところですか?

松本 設計前に、息子と同じような運動機能障害がある子どもと家族の生活をリサーチしました。そこで見えてきたのは、障害のある子の姿勢を保持する機能に特化するよりも、使う子どもたちとその家族の「気持ち」に寄り添うことを優先したい、ということです。そのため、ユーザーのみなさんと一緒にプロダクトを作っていく「インクルーシブデザイン」のアプローチを採用しました。

――「インクルーシブデザイン」というのは「ユニバーサルデザイン」とは違うのでしょうか。

松本 よく聞かれるようになった「ユニバーサルデザイン」は、すべての人が使いやすいようにデザイナーがユーザーの普遍的な困難を想定して考案するのに対して、「インクルーシブデザイン」の考え方では、個々のユーザーの困難を起点に、デザインや製品開発のプロセスを当事者と一緒に行い、フィードバックを取り入れながら作りあげていくことを特徴とします。

私たちは、IKOUポータブルチェアを開発する際に、①コンパクトに折りたたんで気軽に持ち運べる ②障害のある子もない子も心地よく座れる姿勢保持機能③使い手を選ばないミニマルなデザイン の3点にこだわり、何十個もの簡易試作品を作りました。その試作品を、健常児から、ダウン症児、息子同様の肢体不自由児など、ニーズの異なる子どもたちに座ってテストしてもらったり、保護者に持ったときの重量感なども確認してもらったりもしました。
とくに、障害のある子だけのための福祉機器ではなく、障害のある子もない子も使える新しいカテゴリーのものを作ることをめざしました。

――このチェアには、体の角度を保ったまま傾けられる「ティルト機能」という特徴があるようですが、これはどんな機能ですか?

松本 IKOUポータブルチェアはもともと太ももよりおしりのほうが低く作られているので、生後7カ月くらいから3歳くらいなら、障害のある子もない子もしっかり安定して座れます。さらにティルト機能は、座りやすい角度を維持したままリクライニングできるので、全体を後ろにかけてリラックスした姿勢が取れるのが特徴です。障害のある子は体幹が弱いことが多く、普通の椅子ではずり落ちてきてしまうのですが、ティルト機能があることで、このまま寝てしまっても、体に負担がかかりにくい設計です。

障害のある子も家族も、一緒に楽しむ経験が増える

スポーツ観戦のときも、子どもをひざに抱っこせずに親子で楽しむことができます。一部のスポーツ施設ではレンタルを開始しているそう。

――実際に使用したユーザーからはどんな声が届いていますか?

松本 インスタグラムで「この椅子があるから行きたかった場所に行くことができた」「生活が変わった」と実際に使った写真や感想を投稿してくれる人もいますし、その投稿を見た人が購入を考えてくれることもよくあります。

先日も、障害のある子の家族からの感想が届きました。そのおうちのパパは学生時代から通っている大好きな中国料理屋さんがあって、家族にもその味を経験させたいと思っていたけれど、すごく狭いお店で子ども連れで行くことをあきらめていたというんです。でもポータブルチェアを使うことで、そのお店で家族並んで食事を楽しめたんだそう。
ユーザーのみなさんの行動範囲が広がることを実現できたと感じ、本当にうれしいです。

――ポータブルチェアがあることで、障害のある子のきょうだいとも体験を共有できることも、いい機会になりますね。

松本 障害のある子がいても、ほかのきょうだいを我慢させることなくいろんな経験をさせてあげたいと思う家族がたくさんいます。このポータブルチェアは、キャンプやピクニックなどの場面でも使えてうれしかったという声もよく届きます。

スポーツチームやスタジアム、レストランなどへの導入も進めています。プロバスケットボールチームの「アルバルク東京」は、いち早くホームである国立代々木競技場の観覧席で導入してくれました。これまでのスポーツ観戦ではキッズチェアがない環境で、小さな子どもは大人のひざの上に座るか、大人用の椅子に座るしか選択肢がありませんでした。小さな子ども安定して座れるポータブルチェアがあることで、家族みんながより落ち着いて観戦を楽しめると好評です。


――今後の目標について教えてください。

松本 障害児の子育てで気づいた課題をもとに作られるプロダクトは、障害児だけじゃなく健常児の育児にも役立つことがあると思います。私自身も、仕事を休んで3年間、全力で息子との生活に向き合ったことで、障害のある子どもとその家族を取り巻く課題に気づき、起業につながりました。

今後は、すべての子どもと親が「ともに使えるプロダクト」を世の中に増やし、障害のある子もない子も、同じ空間で同じ体験を共有できる機会を作っていきたいと考えています。そのプロダクトを通じて出会った人々が、障害者、健常者の区別なく個性や多様性を認め合い、支え合う社会になっていけばいいな、と感じています。

お話/松本友理さん 写真提供/株式会社Halu 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

子どもにはいろんな体験を積んでほしいものですが、親子でその体験を共有するのも子どもの育ちにとってとても大切なこと。軽くて持ち運びやすく、姿勢保持機能も持つ椅子は、障害のある子にもない子にもその家族にも、貴重な体験を積む機会を増やしてくれるのではないでしょうか。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

松本友理さん(まつもとゆり)

PROFILE
株式会社Halu代表。2007年に大学卒業後、株式会社トヨタ自動車に入社。本社にて10年間、プロダクトマネージャーとして、カローラなどのグローバル戦略車の商品企画などを担当。2016年、長男を出産。脳性まひのある長男の育児をきっかけに起業し、「IKOUポータブルチェア」を開発。スタイやキッズウエアも販売する。

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