「体を元気に動かして、心も体も強くなってほしい・・・」のが親心。どんなことに気をつければいいの?【俳優・加藤貴子が専門家に聞く】
子どもたちが心身ともに健康に育つために体を動かすことはとても大切ですが、親も忙しい生活の中でその機会を十分に作ってあげるのも難しい面があるかもしれません。
早稲田大学教授の前橋 明先生は「特別なことをしなくても、子どもの運動の力は日常遊びでつけることができる」と言います。8歳と6歳の2人の男の子を育てる俳優の加藤貴子さんが、前橋先生に子どもの運動についてアドバイスをもらいました。加藤さんが育児にかかわる悩みや気になることについて専門家に聞く連載第20回です。
遊びの中で、けがから身を守る力をつける
加藤さん(以下敬称略) 子どもたちが公園で遊ぶ様子を見ていると、夢中になって走り回ると周囲が見えなくなるので、転倒や不注意な衝突などによるけがが心配です。危険を予測して行動する力を身につけるには、どんなふうに指導するといいですか?
前橋先生(以下敬称略) 加藤さんのお子さんはもう大きいから動きがダイナミックだと思いますが、子どもたちが安全に運動するためには、身体部分(手・足・ひざ・指など)とその動き(筋肉運動的な動き)を理解する「身体認識力」と、体のまわりのものとの位置関係(上下・左右・前後・高低など)を理解する「空間認知能力」、そして、姿勢を維持する「平衡感覚」などの力をつけることが大切です。
言葉にすると難しいようですが、こういった力は幼児期に親子の体を使ったじゃれつき遊びでも養うことができます。「あたま・かた・ひざ・ぽん!」と歌いながら頭、肩、ひざをタッチする遊びは1〜2歳のころからできますが、この遊びによって、子どもは体の部分を覚え「身体認識力」がつきます。さらに、鬼ごっこやかくれんぼなどの遊びでは、ものと自分の体との距離感や方向性を感じ取ることで「空間認知能力」がつきます。これらの力がつくと、ジャングルジムで遊ぶときなどに、頭の位置がわかるから頭をごつんとぶつけないようにくぐることができるわけです。
加藤 うちの子たちも走って遊んでいるときにお友だちとぶつかることも多いです。転んだときにも手が前に出なくて顔から突っ込んじゃうようなこともあります。
前橋 遊びがダイナミックになってくると、転んだときに自分の体を守れるように、「保護動作」といわれる動きができるようになる必要があります。なかなか手が前に出ない子どもだったら、バランスボールなどにうつぶせ状態に乗って、手を前に出した状態で前後に揺らして遊ぶようなことをするといいでしょう。ボールの前に子どもの好きなおもちゃを置いて、それにタッチする遊びもいいと思います。このような動きが、けがや事故を防ぐ「保護動作」の練習になります。
さらに「平衡(バランス)感覚」があると転びにくくなります。平衡感覚をつけるには、片足立ちをして倒れないようにパパやママと競争するのも楽しいですね。床に置いたなわとびの上を歩いてみるとか、「ケンケン・パー」遊びも平衡感覚を養うのにとてもいい遊びです。「ケンケン・パー」遊びでは、さらに前後左右といった空間認知能力も高くなります。
園の先生に、普段の子どもの遊びの様子を聞いてみよう
加藤 子どもはそんなふうに遊びの中で自分の体を守るような動きを学んでいるんですね。私の息子たちはゲームで遊んだり動画を見たりするのが好きで、時間も長くなりがちだから、とっさのときに身を守る動きとか判断力がついていないんじゃないかと心配しています。
前橋 テレビゲームが好きな子どもは多いですよね。テレビゲームは平面のスクリーンでボールやキャラクターが右から左へ動くことには反応できると思いますが、正面から飛んでくるボールの位置関係や向き、スピード感覚は、やはり実体験の遊びの中でないと身につきません。実体験の中で奥行きやスピード感のある活動を経験していないと、鬼ごっこをしても友だちとすぐぶつかってしまう、走っていて遊具にぶつかってしまう、というけがにつながりかねません。
ただ、軽いけがも大事な経験の一部です。危険を回避する行動は、体を動かす経験の中で身についていきます。小さなけがは、大きな事故を防ぐと考え、どんどん外遊びに挑戦させましょう。
加藤 身近な公園で仲間と一緒に遊ぶだけで、子どもの成長に必要な力が身につくんですね。お話を聞いて少し安心しました。私も夫も平日は仕事があってなかなか子どもとの遊びに時間を取れないので、土日には子どもたちのために特別なことをしなきゃいけないかな、と力が入っていたかもしれません。
前橋 今は共働きで忙しい保護者が多いですが、みなさん、子どものために一生懸命考えていると思います。
子どもの日々の外遊びは、保育園に任せておいて大丈夫です。多くの園は、できるだけ子どもを外遊びさせてくれていると思いますから、親は、保育士さんから子どもの普段の運動や活動の様子を教えてもらいましょう。「こんな遊びが好きみたいですよ」と教えてもらったら、お休みの日には、近所の公園で同じような遊具があるところへ連れて行ってあげるといいかもしれませんね。
保護者と園とのコミュニケーションをいかして、子どもの遊びの発展に使うといいでしょう。
親子で運動遊びをして「楽しい!」経験を共有しよう
加藤 「たまひよ」の読者のために、就学前の子どもが家で簡単にできる、体を動かす遊びを教えてください。
前橋 体を使って楽しめる親子遊びは、3~4歳だと「たかいたかい」など子どもを持ち上げる遊び、持ち上げてさらにぐるぐる回す「メリーゴーラウンド」、親の足の上に子どもを乗せて子どもと手をつないで歩く「ロボット歩き」、親の足の間をくぐる「トンネルくぐり」など、があります。
このくらいの年齢では、保護者主導型で子どもを持ち上げるような動きがポイントです。
5~6歳になれば、親子で協力したり、ゲーム性を取り入れたりする運動ができます。親が子どもの足を持って子どもが手を床について進む「手押し車」や、大人が足を伸ばして座った姿勢で足を開閉し、子どもはその開閉に合わせて大人の足を踏まないようにジャンプする「グーバージャンプ」、親子が向かい合って手をつなぎ、お互いの足を踏んだり逃げたりする「足踏みゲーム」などがいいでしょう。
親子で一緒に体を動かす楽しさを体験し、「明日もいっしょに遊ぼう!」という言葉が子どもから出てくるといいですね。わざわざテーマパークに行ってお金をかけなくても、家の中でも近所でも、十分に楽しく体を動かして遊ぶことができますよ。
加藤 たしかに、高い入場料を払ってプレーパークに行っても、子どもがつまらなそうにしてると「せっかく連れてきたのに!」と思ってしまうこともあります(笑)。子どもにとっては、ママやパパと一緒にスキンシップしながら楽しく体を動かす経験が大事なんですね。
お話/加藤貴子さん、前橋 明先生 監修/前橋 明先生 撮影/山田秀隆 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
幼児期のころからの親子で体を動かして遊ぶことで、子どもは自然と運動に必要なさまざまな力を身につけていくそうです。おもちゃや遊具がなくても、親子で体を使って楽しく遊ぶ体験に挑戦してみてはいかがでしょうか。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。10月22日より放送のABCドラマ「たとえあなたを忘れても」(日曜22:00~放送)に出演中。
前橋 明先生(まえはしあきら)
早稲田大学人間科学学術院教授 医学博士。岡山県出身。鹿児島大学、米国・南オレゴン州立大学卒。ミズーリー大学大学院で修士号、岡山大学医学部で博士号を取得。倉敷市立短期大学教授、ミズーリー大学客員研究員、バーモント大学客員教授、ノーウィッジ大学客員教授、セントマイケル大学客員教授、台湾国立体育大学客員教授を経て現職。専門は子どもの健康福祉学。